Memory 九羽鳥悠理のあれこれ
ユリフィアス・ハーシュエスは色欲封じで好意っていうのに鈍感だったわけだが、そもそもそれが無くても人からの好意っていうのに気付けるとは限らない。気付いたとして、それが幻想じゃないって保証なんかどこにもないし、大抵は幻想だろう。照れ隠しからの否定があってもごく少数だよな、きっと。
レアにも言ったけど、九羽鳥悠理には恋人なんていなかったし、いた試しがない。たぶん没個性な人間だったと思うし、人から好かれる要素さえあったとも思わない。“古き良き時代”って言われる頃には「誰かが誰かのことを好き」って噂が流れたりなんかしていたみたいだけど、新しき悪き時代は裏の見えないところで悪口雑言を書き殴って笑いものにするのがトレンドだったみたいだから、ってこれは余計な話か。
外聞もなく言ってしまえば、魔法という“力”を手に入れて変わったのは“俺”も同じなのだと思う。死線に真理を見たのも事実だけど、九羽鳥悠理のままなら俺は結局何者にもなれなかったんだろうし。
って、そういう話でもないな。そういう話でもあるけど。
ともかく、何かが変わって、それがいろいろ噛み合って今の状態になって、結果的にいろんな人から明確秘匿曖昧問わず好意を寄せられてる現況には未だに慣れられているとは言い難い。転生前に付きまとっていた非現実感とは少し違うけど。
結局のところ。自己肯定感がそれほど高くなかった九羽鳥悠理だったころから根っこのところは変わってないのかな、オレは。




