Connect 獣人にはありうること
「んぐ!?」
ある日。気持ちよく寝ていたら、急に身体を極められるような感触で目が覚めた。
「な、なんだ?」
掛け布団の中に潜り込まれてプロレス技みたいに締められている。いや、そこまで強くないから抱きつかれているといったほうが正しいか。骨格由来の硬さと意識すべきかせざるべきか悩む柔らかさで思考が揺れる。
ただそれだけじゃなくて、なにか暑い。その不快感もあわせて、かろうじて動く腕で布団を跳ね除けた。
「ゆーりさ、ん」
「アカネちゃん!?」
その相手にも驚いたが、それ以上に顔色が赤に近いことに驚く。どう見ても普通には見えない。
って、トールさんとベニヒさんから頼まれてすぐにこれか!?
「アカネちゃん!」
即座に詳細探知。漏出魔力も体内魔力もやや流れが悪い。体調を崩しているのは間違いない。
頬や額に手を当ててみるが、やはり見た目通り体温も高めか。だとすると風邪か、あるいは軽重不明ながら何らかの病気。ここ数日で誰も体調を崩してはいないが、あるいは獣人の血を引くアカネちゃんだからかかる疾患もあるのかもしれない。ララに聞けばわかるだろうか。
とも思ったが、
「……すー」
なにか聞こえましたね。
寝息。ではないな。倒れ込んで抱きつかれたままってわけではなく、顔を押し付けられているような気がする。これは。
「あー、ゆーりさんのにおいだぁ」
推測通り、匂いを嗅いでるみたいだ。昨夜は寝汗をかくほど暑くはなかったから大丈夫だとは思うが、って自分の心配なのかアカネちゃんの心配なのか。
ともかく、このままこうしてるわけにもいかないな。みんなのところに連れて行こう。
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そもそもアカネちゃんが重いなんてことないし、身体強化もあるから比較的楽にリビングに連れてきたが。ここに来るまでに「病気じゃないなこれ」となんとなく気づいてきた。
その認識が正しいのか、その顔も軽く酔っ払ったているように見えてきた。だからか、オレに抱きつくアカネちゃんを見たみんなもなんとも言えない顔をしている。
「ゆーりさん、ゆーりさん」
当のアカネちゃんは、オレの名前を呼び続けて尻尾をゆらゆらと揺らしているだけでいっさい状況説明をしてくれない。
っていうか、獣人化してるんだな。当然ながら尻尾のぶんだけ毛量もできるし、それで暑く感じてたところもあるのか。
「アカネさんって、獣人の血が混ざってるんだよね」
そんな中、それなりに冷静そうな姉さんがオレも考えたことを口にする。
「……獣人特有の病気とか、やっぱりあるんだろうな。ユメさんに聞けばわかるかな」
「うん。そうだけどほら、そういうことじゃなくてね?」
苦笑された。
言いたいことはなんとなくわかった。いや、わかってて考えないようにしていた部分もあるけど。獣人全体に対してもアカネちゃん自身に対しても失礼だし。「現実逃避するな」って言われてもしないといけないこともあるじゃん?
「いい加減現実逃避はやめませんか、悠理」
「……ソウデスネ」
言ったララの表情は複雑だ。怒りと羨望と嫉妬と困惑が混ざったような。それぞれの感情の意図はなんとなくわかるけどさ。他のみんなからも感じ取れるし。
「……そういうことなんでしょうか」
「……そういうことなんだろうねぇ」
「ふふ。アカネさんもそういうのあるんだね」
「……ユリフィアスが幸せそうじゃないのが。とてもとても気に入らない」
「でも、それでアカネちゃんがこうなっちゃうのは大変というか羨ましいというかさ」
「……そうですね。役得で何よりですね、悠理」
「はー、こういうのは初めて見たかなぁ。世界はまだまだ広いや」
「お酒を飲んだ人がこうなっているのをたまに見ましたが……これ、アカネさん自身の記憶は残るんでしょうか?」
「うーん、わたしもこうなったりするのかなぁ?」
「抑えられる魔道具は……作れると思いますけど……必要ではない……ですかね」
獣人の文化や体質については、申し訳ないが不勉強なところが多い。かと言って明確に動物と違うのはわかるし混同する気もない。
それでも、動物の話をする上で多くの場合で共通に最初に出てくるお話はある。その表現が今の様相によく似ているのはもう否定するまでもない。
「ゆーりさん、ゆーりさん」
しっぽがブンブンと揺れる。言葉の感じを文章として表現すると、音符やハートマークがついてきそうだ。
まだ完全に確定したわけではないですけどもこれ、いわゆる“発情期”でしょうかね?




