Interlude 破山剣の作り方
みなさんが出払ってしまって数日。鍛冶の日課のために断ってしまったようなところもありますけど、結局暇でしたね。リーズさん一人残していくのもなんですけど。
せっかくですし、ユーリさんから頼まれた破山剣の制作をやってしまいましょうか。割と迷惑かける作業ですし。
「リーズさん、今から破山剣を打ちますからしばらくうるさくなると思います。ごめんなさい」
「わかりました……手伝えることがあれば言ってください」
「はい」
現在の鍛冶作業にあたってリーズさんがくれたものは数知れません。フレイアさんとセラさんの魔法の再現も目指しているようですから、きっともっとすごいことができるようになるのでしょう。
鍛冶場に入ってエプロンを付け、素材を前にまずはイメージ。どんな剣にするのか。
最後に破山剣を使ったのは贈呈するエルブレイズ殿下ということで、その癖はなんとなく読み取れました。殿下とユーリさんの戦う姿もミアさんに夢の中で見せてもらいました。それらから剣技と技量を想定。破山剣を使っている姿を思い描きます。
殿下の剣は技より力に寄っているようですね。「と言ってもそのどちらも自分より上だ」とはユーリさんの言ですが、たしかに記憶を再現した光景はそのとおりでした。「差は埋まらないかもな」という苦笑には頷くことはしませんけどね。超えてもらわなければ困ります。
「ともあれ、殿下の剣は切れ味を確保しつつ耐久性の方に重きをおくべきですね」
合金の材料を選定。と言ってもやはりここにレヴさんの龍鱗を使わせてもらうわけにはいきません。
アーマードボアの硬皮とセイバーライオの牙辺りでしょうか。それに融和材としてアイアンゴーレムの鎧甲。さすがに鉄はもちろん素材は一番いいものを使いましょう。
材料を選定し終えたら炉に火を入れます。リーズさんの作ってくれた燃焼加速機構で一気に温度を上げ、溶融釜へすべての材料を投入。液状の合金を作り出します。
魔力探知。混合具合はほぼ想定通り。ここにあらかじめ作っておいた長柄の大剣を浸します。ついでに窯の中をかき混ぜて均質化し、全体が合金を纏ったところで引き上げ。
剣身のサイズに平面の複合防壁を展開。金床代わりにして探知と強化を併用して両面を鎚で丁寧に叩いていきます。叩ききったら再度窯の中に剣を突っ込んで合金を足し、前の層が溶け始める段階で取り出して防壁に押し付け、叩いて均一さを出すとともに上下二つの層を一体化。
これを繰り返して少しずつ剣を大きくしていきます。熱量も相まって気の遠くなりそうな作業ですが、身体強化や複合防壁のおかげで耐えられます。
最初にやったのは、大きなインゴットを作って削り出す方法。ですがどうしても素地のインゴットがまともなものになりませんでした。剣の耐久性も問題外。鋳造の限界でしょうね。
次の試行はリーズさんに何度か剣を縮小してもらう方法でした。ですが、どうしても段階ごとにサイズが変わってしまうことで素材の均一性が保てなかったので廃案に。
その後も、普通に打ってみたり大量の剣を一つにまとめたりといろいろ試しましたけどダメでした。悩んだ末に天啓のように思いついた“短剣を大剣にする”というこの手法が今のところ最適解でした。
炉を大きくすることも考えましたけど、単純に鍛冶作業のサイズを上げたところでインゴットのときと同じ結果になるだけで、普通の剣を作るのとは同じにできないでしょう。
数十回繰り返すとようやく破山剣のサイズになりました。タイミングを見計らってプールに沈めて剣身自体は完成。あとは研ぎ出しと持ち手を含めた装飾ですか。
一息つくと、カチャリと音がしました。振り向くとリーズさんがいて、テーブルにはティーセットが。驚かせないようにわざと音を出してくれたんでしょうね。
「お疲れさまです……ネレさん……休憩しませんか?」
「リーズさん。ありがとうございます」
椅子に座ってリーズさんの淹れてくれたお茶を一口。蜂蜜とミルクを加えてからよく冷やしてくれているので、身体に染み込んでいきます。リーズさんのお茶は何度飲んでも至福ですね。
炉内で残った木が爆ぜる音が響いていますけど、それ以外の音はありません。
「静かですね」
「はい……人が増えましたから……少し寂しいですね」
騒がしいのも悪くないんですけどね。こういう穏やかな時間も必要です。いえ、いつも鉄を打つ音をさせていて、さっきまではそれより大きな音を響かせていた私が言うことではないんですけど。
リーズさんの所作は優雅で、さすがは王族という感じです。ずっと見様見真似でなんとかしていますけどちゃんとできているでしょうか、私。
「破山剣……これを普通に振るうことのできる人がいるんですね……」
プールに沈む剣に視線を向けたリーズさんがポツリとこぼしました。それについては同感です。
「ユーリさんも“魔力破斬のための剣”という位置づけでしたもんね。制御しきれないとも言っていましたし」
貸してしまうユーリさんもユーリさんですけど、問題なく使ってしまうエルブレイズ殿下もなんというか。「上には上がいる」というユーリさんの嫌味かと思ってしまっていたものに納得させられてしまったというか。
「レヴさんも普通に使ったという話ですけど、同等の膂力があるということですよね。それだけですごい話です」
「はい……みなさんの話では……身体強化は使っていたということですけど……ユーリさんが言っていたように……いつかこの世界の魔法も……わたしたちが使っているものと……同等のものになるのでしょうね」
リーズさんも懸念していたことでしたっけ。けれど何事にも発展はあるわけですし、きっとそんな日も来るのでしょうね。それがいいことだといいのですが。
力が何を呼ぶか。今の話ほどではなかったですけど、私は身を持って知っています。そういう使い方はどんな時代どんな世界でも変わらないのでしょうけど。
「ともかく今は、エルブレイズ殿下が破山剣を正しく使ってくれるように祈ることですかね」
「はい……そうですね」
ユーリさんたちの言うような人物なら、きっと大丈夫でしょうね。そういう人たちのためにこそ剣を打ち続けたいものです。




