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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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Interlude ソノ夢、とりあえず夢でイカガですか?

「ユーくーん、朝だよー」


 いつもどおりの姉さんの声とゆらゆらとした振動。揺り起こされてるとわかるまでにそれほど時間はかからなかった。

 意識が覚醒したことでまぶたを通しても太陽の明るさを感じる。目覚ましが鳴る前だから、まだ七時にもなってないのか。


「うーん。おはよう、姉さん」

「おはよう。今日もいい朝だよ?」


 あと五分……と言いたいところだが、ここで意識を手放してしまえば遅刻は確実。大あくびと伸びで眠気を振り払う。ベッドから降りて軽く柔軟体操。


「はい、制服」

「ありがとう」


 姉さんからハンガーにかかった魔法学院の男子制服を受け取っていや待てい。


「なんだこの状況は」


 卒業しただろ魔法学院。制服自体は記念に残してるけど。

 部屋も、馴染んできた何もない小屋じゃない。漫画に出てきそうな洋風日本家屋の一人部屋。カーテンを開けた向こうに見えるのも閑静な日本の住宅街だ。

 うん。答えは簡単だな。


「ミアさんの夢か」

「もう少し気づかないままでも良かったと思うけどね」


 姉さんが苦笑する。

 まあ、意図があってこうしたなら乗り続けるべきなんだろうけどな。悪意があるわけでも無し。


「下で待ってるね」

「了解」


 姉さんが部屋を出て行ったのでササッと制服に着替える。袖を通すと設定がいくつか頭に流れ込んできた。

 名前は魔法学院ではあるが一般校。位置は高校か。

 オレの部屋は二階にあって、降りる前から朝食の香りが届いていた。


「おはよう、父さん、母さん」

「おはようユーリ」

「ご飯できてるわよ」


 二人は今生の両親。ただ本人ではないよな。NPCみたいなものか。ミアさん無茶してないかな。

 朝食自体も和食ってわけじゃないな。レインさんがいればこのあたりもおおまかになら再現してもらえるのだろうか。

 ここはきっと主題じゃないのでこれまたササッと済ませる。学校からスタートじゃないのは“登校”をしたいからだろう。

 家を出て、空を見上げる。


「さて、みんなはどんな設定で来るのかな?」

「……思っていても言わないでください、そういうことは」


 今となってはそう無いであろうブロック塀。そこにつけられた門の向こうから声がかけられた。


「おはようございます、悠理、アイリスさん」


 魔法学院の制服と白いベレー帽。革の通学鞄をきっちりと身体の前で両手持ち。外見年齢はオレの転生前と今との中間くらいか。脳内情報によると、隣に住む幼馴染で学年もクラスもオレと同じになるらしい。メインヒロインどころを押さえてきたな。


「おはよう、ララ」

「えーと……ララちゃん、になるのかな? 『おはよう』でいいんですか?」


 隣にいる姉さんは困ったような表情になっている。


「将来的にはアイリスさんは私たちの姉にもなるわけですから、この状況も問題ないかと」

「……そっか。そうですね」


 年上のララが妹?

 あ、なるほどねー。マジでか。そりゃ将来的にはそうなりはするんだろうけど。「私たち」って女性同士で話が進み過ぎじゃないですかね。

 ともかく、設定は大事だよ。ある意味未知の世界で関係性もわからないし、何よりみんなが何を望んでるのかとかわかるかも、


「わー、ひほふひほふー」

「うごっ!?」


 歩いていたらいきなりフレイアにぶつかられた。

 曲がり角でもないが口にはご丁寧に食パン。何がしたかったのかは考えるまでもなくわかる。


「わー!? ユーリごめーん!」


 飛んでもひっくり返っただけで怪我をしなかったのは、ここがギャグ時空だからだろうか? たいてい無傷だもんな。


「何事!?」

「ゆ、ユーリくん大丈夫ですか!?」

「アチャー……」


 逆さまの視界に入ってきたのはセラとレアとミアさん。二人は驚いた表情をしてるが、あと一人はバツの悪そうな顔をしている。

 たぶんミアさんが教えたんだろ、これ。


「アタリですネ」


 やっぱり。

 ていうかこんなシチュエーション現実にはないから。危険だし。

 それと体勢考えると当然なんですけど、三人ともスカートの中が見えてるんですが。


「ッ!?」


 セラとレアの前に出て自分は鞄でガード。顔を真っ赤にするミアさんも珍しい。


「……ユーリさんのバカ」


 体内の血が操られる感覚。というか、それで引っ張られて無理矢理立ち上がらされた。これはこれで楽でありがたい。一歩間違うと死ぬけど。

 この世界観でも魔法が使えるのかと思ったが、やってみると無理だった。さっきのは緊急時の対応ってことね。干渉できたのもオレ自身に魔力抵抗がないからと。


「「……」」


 ついでに、ララとセラからは白い目で見られていた。不可抗力だって。

 多くなった面子で学校へ歩く。見えてきた校舎は魔法学院のものではなく、見覚えはないけどそれとわかる日本の学校って感じの建物だった。


「みなさん、おはようございます」

「おはよう。今日もいい天気。ということにしておく」


 校門ではユメさんとティアさんが待っていた。挨拶し返そうとしたのだが、


『わあああ……っと!』


 学校前の道路めがけて空からドラゴンが降ってきた。スタンピードの時と違って地表近くで減速して人化したので、アスファルトに激突して礫弾が飛んでくるようなことはなかったが。

 降ってきたレヴもやはり魔法学院の女子制服を着ていた。


「目が覚めたら山の中だったんだけど、なんで?」


 なんだそれ。

 もともとエクスプロズにいたからか? 今住んでるのも山の中といえば山の中だし。


「ま、いっか。ねえユーリ、似合う?」

「ぁ……っ」


 近づいてきてゆっくりとくるくる回るレヴにララが後悔じみた声を出す。そういえば聞かれなかったな、これ。オレも自然に感じてスルーしちゃってたし。


「レヴもララも二人とも似合ってるよ。フレイアもな」

「よかったー」

「っ、取ってつけたような感想をどうも」

「入学できる歳でもなかったし一回着て見たかったんだよねー。ありがとユーリ」


 制服の意図がなんなのかは知らない。学校のブランドなのか、立場の公平化なのか、生徒個人の個性の観察のためなのか。それはともかく、魔法学院の制服が三人の魅力を殺しているってことはない。もともと着ていたみんなにも言えることだけどな。


「あとは」


 学校の敷地に足を踏み入れて残りのメンバーの名前を上げようとしたが、眼の前が淡く輝く。光が人型になったので反射的に手を伸ばすと、これまた魔法学院の制服を着たエルが降ってきた。


「っ、とと」


 いつもの感覚で普通に受け止めようとしたが、身体強化が無いのを忘れていた。数歩ふらついてなんとか踏みとどまる。


「夢の中だからわりとなんでもできるね。学校にたどり着けてよかったよかった」


 ワープの類かな。オレのところに行けるように念じでもしたのだろう。

 たしかにここは夢の中。現実にありえないこともありえる。

 とりあえず、落としてしまわないうちに立たせてやる。抱え続けるのがかっこいいとは思うけど、米ですら一袋二十キロとかあったんだよな。もうちょっと鍛えないと。

 エルも加えて校舎に入り、昇降口で各々上履きに履き替える。


「へー。こっちの世界の学校って靴を履き替えるんだね」

「現実でもそうしてましたけど、ユーリくんの世界の文化だったんですね」


 土足禁止文化は転生前に話して感心されたことの一つだ。汚れや雑菌を持ち込みにくいから有用だし。大学だとそのまんまだったけどな。

 オレの記憶を主体にしているからか昇降口でクラスごとに別れたけど、姉さんたちが三年でレアとセラが一年。これは学院でそうだったからわかるとは言え、なんでオレが二年なんだ? ララとレヴとエルとフレイアが二年なのはオレに合わせているんだろうけど。

 そう疑問に思うと、そのヒントが自分で来てくれた。


「ユーリ先輩っ、えへへ」


 これまた制服着用のアカネちゃん。年齢は現在の姿と前回の夢との中間くらい。なるほど、この整合性を取るとこうなるのか。

 教室は通常、学年ごとに階層で分かれているはずだ。しかしこの世界では横並びに配置されている。

 階段を登り当該階にたどり着いたところでふと思い出す。


「ネレとリーズは?」


 いまさらながら二人足りない。すでに登校しているのだろうか? それとも違う役割なのか?


「探してきてください、悠理」


 そうすることになるのか。まあ、自分で来ないっていうことはそういうことなのかな。

 教室に鞄だけ置いて校舎をぶらつく。この近くにはいないだろうから、足は特別教室の方へ……いた。

 廊下に擦りそうな白衣を着て歩いている生徒。ぼんやりと頭に浮かんできた設定は“化学部”。髪型と髪色を見れば誰かはわかる。


「リーズ」

「あ……こんにちは……ユーリさん」

「お、おう……」


 振り向いた顔には、“ぐるぐる瓶底眼鏡”という表現が正しいものがついていた。

 リーズ……なんとなく似合ってるようにさえ思ってしまうけど、それはどうなんだ。


「ごめんなさい……やっぱり……変……ですよね」

「違和感はあるけどそうじゃなくて」


 歩み寄って、その顔からメガネを外してやる。これまたなぜか不安そうな表情をしてるけど、うん。


「わざわざ顔を隠さなくてもいいだろ」

「あ……あう……」

「それに……あー、なんでみんなギャグ時空にしようとするんだ?」


 一瞬「きれいな顔が台無しだから」と言いかけたけど、自分がそんなキャラだったか疑問に思ってしまったのでやめた。本音ではあるけどな。


「……色欲封じはなくなったんですよね、ユーリさん?」


 声に首だけで振り向く。

 エプロンをしたネレが呆れ顔で立っていた。“美術部”か。なるほど。鍛冶師がそれかはともかく、合っているかもしれない。

 こっちの表情は非難じみていたので、無言でリーズのかけていた眼鏡をかけてみる。


「……くふっ、ユーリさんそれ」


 ネレにも意味がわかったようだ。これはちょっと面白すぎるよな。

 リーズに向き直ると、


「っ……ふ」


 こちらも笑うのをこらえるような顔をした。珍しい表情だ。でもこういうのも悪くない。


「二人は登校シーンは望まなかったんだな」

「ええ、まあ」

「あまり……大人数すぎるのも……非現実的ですから」


 なるほど、言われてみればそうかも。それよりこういう“出会い”のシーンがドラマチックかもな。


「それじゃあ、教室に行くか。そのために見てる夢だろ?」

「はい」

「そう……ですね」



 教室に行くと、一緒に登校したみんなが待っていた。授業自体は別れてやる必要もないものな。こう言うと台無しだけど形だけだし。

 教壇に立つのはヴォルさんだったりリーナさんだったりマコトさんだったりアイルードさんだったりトールさんだったりした。内容は魔法学院でやったことだったりオレのうすーい記憶の中の授業内容だったりいろいろ。オレの記憶に基づく部分の内容が怪しかったことはちゃんと言っておいたが。

 昼は屋上で。全員が弁当を持ち寄って交換したり、食べさせられたり。モドキとは言え菓子パンなんて久しぶりに食べたな。

 ……午後イチのメーレリアさんの授業は、ミアさんの記憶を元にしていたのに当人すらドン引きするような内容だったのであんまり覚えていなですけども。

 でも、すべてが楽しかった。

 何かがどうにかなればこんな生活もあったのかもしれないな。世界はともかく、リーズの魔法を使えば学校生活はできるんだろうけどさ。



 眠っている時間から考えれば睡眠時間と一日がイコールになるはずはないと思うのだが、放課後になって西日が教室を照らしていた。

 アニメとかマンガだとよくある光景ではあったけど、こうして見ると舞台として使いたくなるのもわかる。どこか現実離れした風景に見える。

 そこになぜか一人。黄昏れてるとおかしなカッコつけにならないかな。これオレのキャラか?


「悠理」


 そう呆れていたら、いつの間にかララが教室の中にいた。初めは居なかったしドアも開かなかったよな。


「朝から気になってたんだけど、今のオレってユリフィアス・ハーシュエスなのか? それともユーリ・クアドリ?」

「そうですね。強いて言うなら九羽鳥悠理でしょうか」


 そこでやっと、ガラスに自分の姿が映った。転移後に馴染んできた自分とは違うので不思議な感じだが、たしかにこいつは高校時代の九羽鳥悠理っぽい。ユリフィアスのこの年齢は未経験だから仕方ないか。

 しかしそれだと父さんと母さんと姉さんがおかしなことになってしまうが……まあその辺は都合のいい時空の話。整合性を取る必要もない。

 ララは隣に並んで、窓ガラスに手を伸ばして触れた。外が見えているのか、オレのように過去が現在となった自分が見えているのか。


「出会ったとき、本当はこうやってあなたの世界に連れて行ってもらえたら私も一人の女の子として生きられたのかと思ったんですよね。悠理には言っていませんでしたけど」


 聖女であることを苦痛に思っていた頃か。それもまた奇跡じみているが、何かが違えばそんな結末もあったのかもな。


「だったら、『元の世界に戻る気がない』なんて言ったときはショックだっただろ」

「ですね。けれど今はこれで良かったのだと思っています。だってかけがえのないみんながいて、私たちが居るのは誰より大切なあなたが生きると決めてくれた世界ですから」


 転生のときに言ったことかな。

 実際は転移したときに決めてはいたことだけど、あの時は少し後ろ向きなものもあった。


「それに、そうなってしまうといつまで経っても年下の小娘のままでしょうからね。こうやって外見上は同じ年でいられるのはこちら側の世界だからこそでしょう」

「まあ、犯罪だろうなきっと」

「それはこちらの世界でもそうですけどね」


 転生してからその差は逆になってしまったが、オレの中身がこれだから文句は言われないだろう。

 いつか言ってくれたとおり待ってくれてもいたのだろうけど……その時間を埋めることはできても取り返すことはできない。それはララに対してだけじゃないが。


「……ララ」

「……いえ」


 手を取ろうとすると、押し留められた。

 表情は、苦笑い。


「みなさん私に気を使うんですよ。でも、だからって夢の中で一番になる気はありませんから。そういうのは全部現実でです」


 なるほどね。告白だのなんだの、そういうことやれってシチュエーションのお膳立てだったのかこれは。


「それと、矛盾していますけど、一番を譲りたいとは思わないのと同時に私だけがとも思いませんから。平等にとも行かないとは思いますけど、そこは悠理に期待していいですよね?」

「ああ。わかってる」


 互いに笑い合う。と同時に、教室のドアとミアさんとセラが倒れ込んできた。だからなんでそういう展開になるんだ。


「イタタ。アー、せっかく用意したノニ」

「うぐぐ。ララさんもララさんで手強いなー。そこはせっかくだからやっておくところですよ」


 やったところでこれじゃやっぱりコメディにしかならないんじゃないか? 気遣いはわかったけど。


「ユリフィアスには無理。そんなことはわかっていた」

「肝心なところで押しが弱いですからね、ユーリさん」

「今回ばかりはティアリスとネレの言うとおりかもね。ユーリは逆にもっとすごい場面でやりそうだし」


 エルはオレに何を期待してるんですかね? すごい場面ってどこだ。


「ですけど、みなさんのことを考えてしまうところはやはりララさんは聖女なのだなと思います」

「はい……ララさんも少しくらいは……わがままを言っていいと思います」


 ユメさんとリーズの評には同意。いやララがわがままを言ってないってことはないけど、自分のことについてはそうでもないからな。


「わたしはここからどうなるのか見たかったかな。ね、どうするのユーリ?」

「ミアちゃんに聞いてたけど告白シーンでしょ?」


 レヴの期待はともかく、フレイアはラブコメに毒されすぎだ。何見せられたんだよ。


「でも、レヴさんと同じでユーリさんがなんて言うのかは少し興味がありました」

「そうだね。そこは色欲封じがあった頃のユーくんの方が思い切りが良かったかな」

「だとしてもこれが本来のユーリくんなんですよね」

「言われてますよ、悠理」


 たしかにみなさま言いたい放題ですね。ララにまで笑われてるし。

 いっそのこと「みんな大好きだ」とでも言えばいいのかもしれないけど、それもなんか違う気がするんだよな。


「ヤッパリそのへんは現実で、ってことですかネ」


 ミアさんの言葉で夢が解けていく。オレが願った輝く羽根のように。

 その無限の色の羽根それぞれの向こうに、みんなの願いも見えた。そのどれもがこんな日々が続くことを望んでいるように思えた。



 で。

 現実で目を覚ますと、オレを中心にして太陽のマークというか夢の中の世界での工場の地図記号というか花丸というか、そんな感じでみんなが寝ていた。

 これだけの人数の侵入どころか寝具の運び込みまで気づかなかったのは……ギルドの試験時にミアさんが強制入眠みたいな魔法を使っていたからそのせいだとしても、いろいろ危険なものを感じる。拉致監禁されるような覚えも危険もないけどな。

 とは言え、よく見なくてもみんな幸せそうな寝顔をしている。だったらたまにはこんな夢を見るのもいいんだろう。みんなが幸せになれるような夢なら、オレもまた見てみたいと思うし。

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