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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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起章 転生風魔法使いの新しい日常

「ユーくーん、朝だよー」



 姉さんの声とゆらゆらとした振動。揺り起こされてるとわかるまでにしばらくかかった。

 意識が覚醒したことでまぶたを通しても太陽の明るさを感じる。何時かまではわからないが、言葉通り朝らしい。


「あー、おはよう、姉さん」

「おはよう。今日もいい朝だよ」


 あと五分と言いたいところだが、さすがに大所帯のみんなを待たせるのは褒められも誇れもしない。大あくびと伸びで眠気を振り払う。

 自分でもどうかとは思うが……これまでほぼずっと有事を考えて、寝ているときですら気を張り続けていた。少なくとも今はそれがないわけで、ある程度は気を抜いていても許してはもらえないだろうか。防を気にしなくていいその上で衣食住に問題もない現状は即ダメ人間になりそうだけども。

 ただなあ。


「今ここは平和だけど、世界のどこかでは常に何かが起こってるんだよな、当然」


 シャツに袖を通しながら反省。この瞬間にも苦しんでる人はいるだろうし理不尽に奪われる命もあるはずだ。それが魔物によるものなのかその他のなにかによるものなのかはわからないが。


「でも、全部何もかも救おうとするのはいいことじゃないのかもしれないね」

「ああ……えーと。うん。そうだね」


 都合のいい救世主を期待していては人は成長できないし堕落する。倫理的に汚いのは問題外だが、見苦しくても血を流しても立ち上がることが時には必要になる。折れなかった経験は何よりも自分自身の支えになるのだから。

 ていうかそれも大事なんだがそれよりもだな。オレは姉さんの前でダラダラと着替えてたのか。上はともかく下も。


「あの。さすがに恥ずかしいんだけど。下着まで見られるのは」

「ふふ。ユーくん、前は自分のこと全然気にしなかったのにね」


 全然気にしなかったってこともないですけどね。これも色欲封じがなくなった影響か。

 解呪してもらってからというもの、人に対する感情や評価が大波のように押し寄せたり湧いたりしてくる。姉さんで言えば、属性のせいでやや青に寄った艷やかな長い濃藍色の髪とかいつも少しだけ細めている目とか微笑みを湛えた柔らかそうな唇とか十五歳ってどんな感じだったっけと思う体型とか変態かよオレは。


「ユーくん? どうかした?」

「いやちょっと恵まれた環境と己の愚かさとのすり合わせを」

「愚かさ?」


 意味不明なことを言ったせいで姉さんが首を傾げてしまったが、意味を理解していただいては困るので良かったことにしておこう。

 で、ダラダラと着替え終わったので別棟を出る。別棟っていうか、建築試作と強度試験に作ってみたオレ用の隔離小屋だが。好意を開示済みで拒絶も何もないとはいえ、さすがにまだこっちの心の覚悟ができていない。ララには「哀れ」と言われたけど、今のところ哀れで愚かなのは否定する気もしないし。色欲が解除されたとはいえ色に溺れるのはどうなのってこれも変な傲慢か。


「おー、ユーリ君おはよー」

「おはよ、ユーリ」

「おはようユリフィアス。でもこう毎日だと。さすがに気を抜き過ぎでは? 怠惰王?」

「ああ、おはよう。ティアさんも絶好調ですね」


 外ではセラとエルとティアさんがのんびりと日向ぼっこをしていた。

 セラは皇女生活の反動なのからなのかはわからないが、ともすれば男友達だと思ってしまう様なサバサバした性格をしている。短めに切られた髪もそれに寄与しているのかもしれないし、緩みきった今の表情もそれを後押ししている。しかし、魔質進化をしてから銀髪に合うような淡い色の服を選んで着るようになっていて、真面目な顔のときはどこか儚さを感じさせる美少女に見える。実際、抱えてきたものを鑑みればそういう要素もあるわけだし。

 なにもないところに手を伸ばしているエルの方は、そこに精霊がいるということをわかっていればどこか神秘的にすら見える。同時に、人間で言えば二十歳頃の外見とエルフ特有の長耳と年齢ゆえの落ち着き、それとは逆の旅好きの無邪気さを一匙混ぜ合わせたような独特の雰囲気が不思議な親近感を感じさせる。淡い緑の髪はサイドテールにされているが、それをくくるリボンは転生前にオレが贈ったものだ。大事にしてくれてるんだな。

 ティアさんは、歳上だが外見年齢的にはセラより下に見える。眠いのか何も考えていないのか焦点があっていないようにも見える瞳と薄い表情が存在感を希薄にしているが、それが逆に奥の見えない不思議な雰囲気を醸し出している。薄い青緑色の髪の隙間からエルほどではないものの先の尖った耳が飛び出ていて、エルフの血筋を感じさせるのも要因だろう。中空をじーっと見つめているのはそこに水精霊ウンディーネがいるのかな。


「そろそろ朝ごはんかなー?」

「そうだね。ユーリも起きてきたもんね」

「悪いな、待たせて」

「ユーくんも気にせずにこっちで寝起きすればいいのに」

「……ワタシのところに来なければ許す」


 それはいずれ……できるようになるだろうか?

 家のドアを開いて中へ。当たり前だがすでに他の面子もほぼ揃っていた。


「みんなおはよう」

「おはようございます、悠理」

「おはよー」


 まず挨拶が返るのはララとレヴ。

 ララは出会ったときは今のオレとほぼ同じ歳だったが、今ではもう完全な大人の淑女だ。聖魔法使い特有の輝く金の髪にキリッとした顔。聖女として表に立つ機会が多かったからか身だしなみも所作も洗練されている。その上で長年の役目からか笑顔に僅かな気疲れも見えて、それが薄い陰となってララ・フリュエットという女性をミステリアスな美女として見せている気がする。オレに対して当たりがきつい気がするのも距離を測りかねてるのだとわかってるしな。そこは甘んじて受けなくては。

 レヴは外見的にはティアさんと同じくらいに見えるが、彼女とは逆にぱっちりとした目でいつもニコニコしていてこっちまで元気をもらえる。真っ赤な髪と対比されたドレスっぽい真っ白のワンピースと穏やかな物腰も女皇龍エンプレスドラゴンという敬称を間違いないものにしている。っていうかアエテルナでも思ったけど、オレが最初に選んだやつとよく似てるな。エルのリボンと同じような感じかな。


「おはようございます、ユリフィアスさん」


 朝食用意組で一番最初に挨拶してくれたのは、ちょうど配膳をしていたユメさん。ララと同じになった金髪はこちらはやや短めで癖っ毛だが、微笑みも含めたほんわかした雰囲気とよく似合っている。なんだかんだで所作も優雅で一番貴族令嬢を体現してるのは彼女だな。まあ、王皇族の二人の感性が平民寄りなのもあるだろうが。あとなんだかんだで一番スタイルいいのは彼女なんだよなぁじゃなくてですね。


「ユーリさん、おはようございますっ」


 次に挨拶してくれたのはアカネちゃん。ふわっとした髪と膝丈のスカートを揺らしながらパタパタと足音を立てて近づいてきて、満面の笑顔を浮かべてくれる。最近、幻覚だとわかっていても感情に合わせて動く朱毛の耳と尻尾がはっきり見える気がしてきた。前世の年齢のままなら毎回頭を撫でていただろう。立派な女性になった今では気軽にやっていいことでもないだろうけど。いや、狼の耳を「触っていい」って言われたし、それほど遠慮することでもないのだろうか。


「おはようございます、ユーリさん」


 ネレは再会したときにも思わず指摘してしまったとおり転生前とほぼ外見は変わっておらず、十代中盤くらいのままだ。が、当時から美少女だったわけで、別にマイナスの意図で言ったわけではない。かつて新しい自信と共に上げられた顔もさらに輝きに満ちている。風牙や転生のことでいろいろと面倒な思いもさせたが、着実に研鑽も積み続けたということなのだろう。話を聞くに家事面のほとんども請け負っていたようだし、面倒見のいい性格に磨きがかかっている気がする。非常に個人的なことを言うと、一番黒髪に近いチャコールの髪はこの世界に慣れた今でも残るぱっと見の違和感が無かったりする。


「おはようございますユーリくんごめんなさいちょっと今手が離せなくて」


 レアは穴が空くように必死に鍋を見たまま言った。火を使っているのだからそっちに集中してくれていいのだが、律儀だな。空色の髪は緊張からか単に輻射熱からかややしっとりと濡れているような気がする。真剣な顔は微笑ましい。本人としては必死なんだろうけど。


「オッハヨーゴザイマース」


 ハイテンションでドアを開いて現れたのはミアさん。メーレリアさんもそうだし魔族全体そうだが、夢魔サキュバスの血を引いてるからってそれとわかるわけでもない。薄着ってわけでもないし、っていうのはステレオタイプの粋を超えてそうだけどな。それでも、口元を緩ませたときに吸血鬼ヴァンパイア特有の犬歯が見えるとどことなく妖艶に感じてしまう。リーズと合部屋でいつも以上にテンションが高いってことは夜通しなにか手伝ってたのか。それでも藤色の髪はちゃんと梳かしていたり服は整えている辺りちゃんとしてるな。


「おはようございます……みなさん」


 その後ろから、徹夜したのかややふらついた足取りでやってきたのはリーズ。いつも暑くないのかというくらい服を着込んでいるが、それがさらに線を細く見せるのと、変わらず自信なさげな表情や雰囲気と引っ込み思案な性格を知っているだけに小動物のような可愛がりたい欲求を沸々と起こさせる。リーナさん譲りの濃い紫の髪も、ボリューム多めで撫でたらお互いに気持ちよさそうだし。


「ふわーあ……まだ眠いよー」


 最後に、大あくびをしながらフレイアがアカネちゃんと使っている部屋から出てきた。出会った頃は冒険者としては芽が出始めた頃で、栄養状態が良くなかったのか痩せ気味で髪も傷んでボサボサだった。それが今はというと、いつもはポニーテールにしている炎のような紅の髪は寝癖こそ酷いものの艶はあるし、スラッとした手足に出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ体型の上ボディラインが出るようなシャツとパンツを着ているせいで数秒見続けただけでセクハラになりそうな気さえするだからやめろってオレ。

 これでとりあえず全員。

 うん。変態ですねオレは。女性批評みたいなのはされる方もいい気はしないだろう。もう一回色欲封じをかけ直してもらおうか。ガッツリしたのだとこれまでみたいになるから軽めのやつを。


「悠理。気持ちはわかりませんけど推測はできるとはいえ、女性を見過ぎるのはあまり褒められたものではないですよ」

「わかってます聖職者様」


 案の定窘められた。女子は野郎の視線に敏感だと言うし当然だな。何人か赤くなってるし、手元が狂わないようにってのと邪魔にならないようにもおとなしく座っておくか。

 家事は姉さんとネレとアカネちゃんが主に担当している。料理についてはララとレアが修行中だとか。なんかほんとに何もしてないな。乾燥機とドライヤーの代わりは結構頻繁にしてるけど。

 これはアレだ。レインノーティアさんも発狂するわ。ていうか誰でも発狂するわ。ユメさんとティアさんとミアさんはそろそろここを出ると言っているけど、それでも男女比率おかしいのには変わりないからな。

 転移してきてから積み上げてきたものと転生してから積み上げてきたものがこうして交わるのは感慨深いけれど、果たしてこれがそれに対する正しい結果の量なのかどうか。転移前は宝くじより隕石に当たるほうが可能性が高いと思ってたんだけどな。

 自分の運否天賦を考えていたら、調理と盛り付けと配膳をしてくれていたユメさん、アカネちゃん、ネレ、レアの四人も席についた。感謝。


「それでは、この恵みに感謝して。いただきましょうか」


 ララの音頭で朝食開始。

 そんなこんなで、今日もまたオレの新しい日常が始まる。

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