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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第五章 彼女たちはもう少し強くなりたい

「やっぱりさー、バランスが悪いよね」



 魔法使いとしてのステップアップ計画。それはセラのそんな一言から流れが始まった。


「そうか? 属性的には悪くないと思うが。土属性の魔法使いがいれば四属性にはなるけどな」

「そーゆーことじゃなくてさぁー」


 ではどういうことだろうか。性別的なバランスとかか?


「……単純に、ユーリくんとわたしたちでは能力差がありすぎるということでは?」

「そうそうそれそれ」

「ああ、なるほど」


 とは言え、それは当然だよな。スタートが違いすぎるしベースも違うし速度も違う。正統魔法使いと実戦魔法使いでは目指す方向性も違うわけだし。

 そういえば、そもそもその辺りを聞いていなかったな。


「二人はどんな魔法使いになりたいんだ?」

「どんな、とは」

「正義の魔法使いと悪い魔法使いとかの話?」

「わかりやすいところでは三種類あるな。一つは教育者や研究者や魔道具師のような、理論と汎用性を重視し戦闘行為を想定しない魔道師。もう一つは近衛魔法士団のような中遠距離での支援や集団戦主体の魔法士。最後は冒険者を代表する近接戦闘を含むなんでもありの実戦魔法使い」


 ちなみに、オレが目指すのは昔も今も実戦魔法使いだ。こうして師匠役をしているのだから現状はどれでも行けるはずだが。


「うーん、そうだなあ……」

「先生になるというのもあまり想像できないですね」


 そうかな。レアは魔法の使い方が丁寧だし、セラは面倒見とノリが良いしで二人とも人に教えることに向いていそうだけどな。


「でもそっかぁ。将来どうするのかも考えないとだよね」


 ただ、時々忘れるがオレたちは十二歳だからな。今方向性を決めるというのも難しいし、逆に道を閉ざすことになるのかもしれない。学院生活は三年。まだ時間はある。


「なんにせよ、魔法制御力を上げることからか」


 魔力総量や瞬間放出量を上げることには慎重を要する。人間と魔力の関係は風船のようなもので、極端な成長をしてしまうと比喩ではなく爆発しかねない。それに、総量や放出量を上げるには大魔法を連発するのがいい手段になるが、場所や危険性を考えると手軽とは言えないからな。そっちは追々考えよう。


「魔法制御については二種類ある。魔力精度と掌握距離だ」

「精度と距離?」

「魔力精度は魔法に対する魔力の量だな。と言っても、注ぎ込む量や変換効率、あと前に話したように気の持ち方でも魔法の規模自体はいくらか変動する。だから、『最少魔力で想定した規模の魔法を発生させること』かな」

「精度が上がれば同じ魔力総量でもより多くの回数を行使できるわけですね」


 そういうことだ。魔力総量が少ない今だからこそ重要な能力だし、総量が増えても過剰な魔力を使うことを防げる。


「掌握距離は単純に『どこまで遠くに魔法を発生させられるか』だな」

「ん? それって魔法によるんじゃないの? ボール系とかストーム系とか」


 もちろんそれもある。ファイアストームを手のひらの上で起こそうなどとは誰も思わないだろう。極端に出力を絞れば可能ではあるが。


「たとえばだな。ボール系統はだいたいの魔法使いはこういう感じで作るだろ?」


 ウィンドボールは発生自体はわかっても不可視なので、右手のひらを天に向けて左人差し指で少し上に円を描く。大抵の人間が想定するボール系魔法はこういうものだろう。このあと目標に向かって飛ばすのが一般的なボール系魔法の使われ方だ。


「でも、これだってこのくらいは距離があるわけだ」


 描いた円と手のひらの間。その距離を左人差し指と親指で示す。


「たしかにそうですね」

「この距離を伸ばして的の近くで発生させられたら、飛んでいく間の減衰も制御も考えなくて済むじゃないか」


 もっと言えば、的に直接発生させることができれば当てることすら考えなくていい。魔力のある相手には干渉してしまって難しいし、できたとしてもやり口としてはそれこそ別の魔法にしか見えないだろうが。


「言われてみればそうだね」


 オレの場合、剣や槍に魔法を付加するのもこの応用だ。武器を用いる魔法使いとしては重要な能力でもある。

 さて。二人の属性は火と水。効率のいい練習ならアレか。


「とりあえず今日は厳密なものは無理だな。明日までに用意しておくよ。実技場も押さえておかないといけないかな」


 それはそれとして、そのための準備はできる。


「それじゃあ二人とも、できるだけ小さいサイズのファイアボールとウォーターボールを作ってみてくれ。ついでに無詠唱の練習もしようか」


 今日は徹底的にそれをやることにしよう。



 さて。必要なものも揃えたし実技場の使用許可もある。これで二人の特訓をすることができる。

 その上、今日は強力な助っ人までいる。


「先生が二人だといいね」

「アイリス先輩。今日はよろしくお願いします」

「うん。なんでも聞いてね」


 同じ水属性のレアにとって、姉さんの同席は役に立つだろう。

 オレとしても前日に参加してくれると約束してくれたからできることも色々増えた。一人に集中できるというのもあるし。


「うーん、やっぱりユーリ君の師匠がいると心強いね」


 と、セラが笑顔でそう言うが、


「え?」


 姉さんは当然、疑問符を浮かべて首を傾げる。


「わたし、ユーくんの師匠じゃないよ?」

「えっ?」

「逆だよ? わたしの師匠がユーくんだよ? 入学式の日に言ったと思うけど」


 たしかにそれっぽいことを言ったはずだ。セラはなぜ勘違いしていたのだろう。


「道を開いてくれたって、そういう意味?」

「わたしも、学院への入学を勧めたという意味かと」


 ああ、そういう勘違いか。


「領主のバカ息子が姉さんを召使いにするだの妾にするだのバカなことを言ってきたから強くなってもらって追い払った。改めて説明するとこうだな」

「なんか疑う余地なく想像できちゃった……」

「もっと言うと、ユーくんがその後なけなしのプライドまで粉々にした、かな」

「それもなんだか簡単に想像できます……」


 何故かドン引きされているしいつもこうな気がするが、ほんとどうしてなんだろう。別に誰彼構わず喧嘩を売って回ってるわけでもないのに。


「強くなることにはそれなりに意義があるってことだな。それ以上にその力をどう使うかということが重要だが」


 だからこそ、強くなってもらう相手は慎重に選びたい。強くなるべきでない人間はいくらでもいる。


「あー、その点は大丈夫じゃない? 道を間違えたらそれこそ眼の前に立ちふさがるのはユーリ君だろうし」

「だと思います。絶対に勝てませんね」


 二人とも苦笑いを浮かべているが、オレをなんだと思っているんだ。

 間違っていないだけになんとも言えないけどな。それこそオレが転生した理由の大部分なのだし。


「それはないだろ、二人なら。もちろん姉さんもな」


 心の鍛え方についてはオレはなんとも言えない。でも、以前言ったとおり“見る目”だけはあると思っている。仲間との縁についても。それは一度目の人生で手に入れられなかった“俺”に対する神様からの贈り物、と言うと過分にすぎるだろうか。


「信頼してもらえてるってことかな。じゃ、ちゃんとそれに応えないと」

「そうですね」

「わたしもがんばるね」


 とりあえず、方向性は決まったってことで良さそうだな。


「じゃあ始めようか。まずセラはこれだ」

「……えーと」


 セラが戸惑うのはわかる。レアからも同じような空気が伝わってくるからな。


「ずーっと持ってましたけど、燭台と蝋燭ですよね?」


 むしろそれ以外の何にも見えないはずだが。

 ちなみに、魔道具でもなんでもない。ただの店売りを適当に買ってきた。


「的当てみたいなのもいいが、こっちの方が条件を好きに調整できるから合理的だぞ。安上がりだし、慣れたらこんな広い場所も必要ないしな」


 燭台に蝋燭を刺し、マッチを擦る。


「こんな感じで、蝋燭を溶かさないように芯の先に極小のファイアボールを発生させて火を点ける」


 蝋燭に火を灯し、すぐに風魔法で消す。これでほぼ半永久的に同じことができる。


「うぅーん……できるかなぁ」

「これができるようになれば、今度はレアがそれを蝋燭を使用不可能にしないように極小のウォーターボールで火を消すって訓練もできる。これをお互いにできるようになれば効率的だろ?」

「あー、なるほどね」


 そうすると……というより今の手法も見方によっては掘って埋めての拷問の手法に近いのだが、鍛錬や修行というのは得てしてそういうものだ。


「レアの方はこっちだな」

「瓶ですね」

「わたしもやったやつだね」


 姉さんのときは、生活のほぼ全てを魔法で賄うのとこの二つを両方ともやった。蝋燭の方はそれほど効率は良くなかったけどな。


「瓶を水の玉(ウォーターボール)一個で満たす。これだけだ。とりあえず同じサイズでやるが、慣れてきたら瓶の距離はもちろんサイズや形状を混ぜていけば難易度を上げられる」


 これもまた地味な方法だが、かなりの効果がある。姉さんがその証人だ。


「次の段階としては、複数を同時にやること。数をどんどん増やしていってさらにその次は」


 目を閉じ、瓶と燭台をいくつかずつ後ろに放る。それを風魔法を使って地面に並べていく。


「視界を塞いで、探知魔法を使って同時にやる。コレがこの鍛錬の完了形だな」

「おぉぅ……」

「自信がなくなってきました……」


 大丈夫だと思うんだけどな、二人なら。


「無詠唱でもちゃんと魔法は使えるようになってきただろ。それさえできればそれこそイメージの問題だけだ。むしろ詠唱するより楽なはずだぞ」

「ま、そうだね。やるだけやってみよっか」

「がんばります」

「その意気だ。まずは手元から行こう。距離を伸ばすのは感覚を掴んでからでいい」



 大体一時間くらい経っただろうか。

 傍目に見ると地味な光景だが、やっている方は本当に疲れるんだよな、これ。


「はー、意外と精神力食うんだねこれ」

「少し目測がずれて焦るとすぐ安定しなくなっちゃいます」

「でも二人ともいい感じだと思うよ? ね、ユーくん」

「ああ。少なくとも量距離ともに目測を大きく外れることはなくなってきてるからな」


 見ていた感じ、成功率は三割弱ほどだろうか。高いとは言えないが、この時間でこれなら思ったより早くモノにできるはずだ。


「うーん。私としては出来てる気がしないんだけど……」


 セラは少し苦戦しているようだが、仕方ない。火魔法、いや、火そのものはその周囲にも熱をばらまいている以上、視認している範囲よりも実態はやや広い。かと言って、ポイントを外してしまえば結果を出すことはできない。

 魔法防壁を使えばとんでもなく楽になるのだが、それをやってしまうと意味合いが変わってしまうのが難点だ。


「うぅ、今からでも属性を変えた方がいいのかなあ」

「やめておいた方がいいぞ。火魔法は室内での魔法訓練は危険だから効率は悪くなるとしても」

「いやまあ冗談だけどさ」


 正直それが一番恐れていることでもある。

 それに、風魔法に関してはオレのやっていることが誰かに真似できるとも思えないが、派手なことをやってそこらで覗き見している奴らに真似されるのも嫌だしな。この方法なら真似されないだろうしおそらく真似もできない。

 なにより、セラは属性を変えるべきじゃない。オレの予測が正しければ。


「うーん、でも今のペースだと交流戦にはちょっと辛いかもしれないね」

「交流戦?」

「学院間新入生交流戦。騎士学院一年生との試合だね」

「へー、そんなのあるんですね」


 そういえば、姉さんからの手紙に書いてあったか。この時期だったことまでは覚えていなかったが。


「あれ? てっきりそれに出るために強くなろうとしてるのかと思ってたんだけど、違うの?」

「いえ、わたしたちはユーリくんに少しでも追いつきたいと思っていただけなんですが……」


 レアがちらりとこっちを見るが、その視線はそういうことなのか?


「オレは出ないぞ」

「そうなんですか?」

「聞いた瞬間出るんだと思ったんだけど」


 いや、結果がわかりきっている試合をしてもな。旨味もなにもないし。


「興味がないって顔だね、ユーくん」

「そうだなぁ。出場して勝ってもいいことないし。それに本来これは負け試合だろ」

「負け試合ですか?」


 伝統的に騎士学院が優遇されているというわけではないのだろうが、おそらくそうなるだろう。


「試合を行うとしたら大演習場だろう。あのサイズだと魔法使いとしては中近距離での戦いになる。その上、遮蔽物もない平場だ。新入生のレベルだと飛行や滞空なんかで三次元的に逃げることもできないだろうから、平面戦闘の接近戦で完成されていない詠唱をゴリ押しでキャンセルさせられて終わり。毎年そんなものじゃないか?」

「そうだね。去年もそんな感じだったかな」


 それでもオレと姉さんがやりあえたのは、無詠唱なのと空間サイズをある程度考慮していたからだ。魔法使いなら視認距離外か視認した時点で戦闘を終えるのがベスト。演習場が狭いのは単純に学生の魔法出力の問題だろうな。

 もちろん、それでも打てる手はある。だが入学したばかりの普通の一年生が打てる手は思いつかない。安い大杖を買って魔法ではなく物理での勝利を目指すしかないだろうな。


「それで一日空くならクエストにでも当てるかな。ギルドは人が少なくなりそうだし」

「観戦する気すらないんだ……」


 冒険者も多くが観戦に行くだろう。一日使えるならクエスト総取りすら目指せるかもしれないな。楽しみだ。



「それでは、対抗戦はハーシュエスくん、ファイリーゼさん、アルセエットさんの三名に出てもらうということで」

「……………………」

「すっごいイヤそうな顔してる……」

「わたしたちは心強いですけどね」


 正直、こうなる気はしてたさ。最高戦力を出し惜しみするのは悪手以外の何物でもないからな。

 さて、どうしてくれたものか。

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