間章 エルフェヴィア・ニーティフィアの旅指南
「エルフェヴィア姉」
「んー? どうしたのティアリス」
家からちょっと離れたところで精霊のみんなと日向ぼっこしてたら、ティアリスが寄ってきた。彼女の水精霊も。
「ワタシも。エルフェヴィア姉みたいにいろんな所を見に行きたいというのは話したでしょ?」
うん。聞いたね。
「だから。旅のやり方を教えて」
『おねがいしますわ』
ああ、そういうこと。でもティアリスまだ人間基準で成人したばかりだよね。
「アーチェとチェルは何も言わないの?」
『あやつらなら心配しそうなものだが』
土精霊の言うとおりかな。私はあんまり心配されなかったけどね。あはは。
「そのあたりは問題ない。これが無くても。お父さんとなら精霊を通じて話せる」
『おまかせください』
通信魔道具がなくても、か。そうだね。
って、そういうことじゃないんだけど。娘としてね。でも信頼はしてるみたいだし、そのあたりの不安はないのかな?
「一人旅するんだよね? それも危険だよ?」
「重々承知。それに一人と一柱」
『そうですわ』
『以前よりずっと力は増しているようですから、そこは心配しなくてもいいのかもしれませんけど』
そうだね。ユーリのおかげかな。ウォーターカッターも使えるみたいだし、強さだけなら水精霊より上かも。
「野営の経験は?」
「ある」
『ありますわ』
アイリスちゃんたちとパーティー組んで冒険者やってたらしいし、その機会もあったよね、当然。でも。
「一人で……ああ、一人と一柱では?」
「……それは。無い」
『……ですわね』
だろうね。あったらこんなこと聞きに来ないだろうし。
「まあ、私たちなら大丈夫だとは思うけど」
『そうだね。近くにいる精霊にもいろいろたのめるだろうし』
私と火精霊が考えてるのは、休んでるときに襲われること。でも休む場所周辺の精霊と仲良くなれたら警戒くらいはしてもらえるね。
ていうか、旅のことならユーリだって結構詳しいはずだよね。ホントの一人旅してたんだし。
「まあ、ここにいるうちに野営の経験をしておけばいいんじゃない? 夜も温かいし雨降らないし」
「なるほど。そうしてみる」
リーズに頼めば必要な魔道具も作ってくれそうだし。
思いつきで言ったけど結構いい案かも。
「あとはそうだなぁ。冷静でいることかな? ティアリスなら大丈夫だろうけど」
『ホントにねー。慌てるとロクなことになんないからさ』
うん。風精霊の言うとおり。
「そこは。問題ない」
『わたしもついていますわ』
だろうね。もちろん、ティアリスだって慌てるときはあるけど。そういうの聞いたばかりだし。
あー、思い出すなあ。
「ユーリと初めて会ったときね」
「む」
そこで嫌そうな顔しなくても。まったく。
でも聞きたくないとは言わないんだよね。そういうところが微笑ましい。
「ハウンドに追いかけられて木の上で震えてるところを助けてもらったんだけどさ。そのあと『私は精霊魔法使いだ』って言ったら『じゃあなんで反撃しなかったんだ?』って。何も言い返せなかったよ」
「……さすが。エルフェヴィア姉らしい話」
かもね。でもあれはユーリとの最初の思い出だから忘れられない。その後のことも全部。
「それまでずっと、見るものは場所と風景だと思ってた。人と私たちは生きる時間が合わないから」
旅を初めて百年も経ってないけど、もう二度と会えない人もそれなりにいると思う。旅に出る前からそのことは考えてたから、人との関わりは気にしても仕方ないと思ってた。その辺はレヴも同じ感じだったのかな。
「でも、そうじゃないんだってユーリが気づかせてくれた。だからティアリス、水精霊。あなたたちは景色だけじゃなくていろんな人と出会ってね? 悪い人とも出会うだろうけど、いい人ともたくさん出会えるだろうから」
「……うん。わかった」
『わかりましたわ』
世界は輝いてる。どうかティアリスと水精霊がその輝きに一つでも多く出会えますように。場所も、人もね。




