間章 アカネ・ガーネットの働き方改革
「そういえば……こう言うとなんだけど、アカネちゃんよくギルド辞めさせてもらえたな?」
ユーリさんが木材調達するのを手伝っていたら、そんなことを聞かれた。
ギルドの仕事。うーん。
「結構な戦力だったろ? 窓口業務だけじゃなくて法務も兼任してたって話だし。さすがに無理に引き止められはしないだろうけど、それなりに揉めたりしたんじゃないか?」
「法務についてはギルドは全員が把握を義務付けられていますから、私だけというわけではないですね。誰でも手を挙げれば法務権限を行使できる立場にはなれるんですよ」
「へえ。いや言われてみればそうか。冒険者の生き死にを預かってるわけだもんな。責任の所在なんかも含めてルールは大事か」
「はい」
ただ、それがいいとも限らない面もあるんだよね。規約はあるけど目を通さない冒険者がほとんどで、騙すのは難しくなかったりするわけで。そこはなんでもそうだけど。
というか、把握して平常時はきちんと守ってるユーリさんは逆に特殊な方だし。
「ええと、それでですね。ギルドの仕事についてですけど、辞めたわけではないんです。辞めさせてもらえなかったというか、引き留められたというか」
「え?」
そうなんだよねぇ。一応、アカネ・ガーネットの肩書はまだギルド職員なわけで。
「じゃあ、まだ王都のギルド所属なのか? それとも帝国に転属?」
「いえ。臨時職員というか、権限職員というか、非常勤職員というか。どこかのギルドに寄ったときに仕事を手伝ったりとか、緊急時に統率権を発揮してよくてそれでお給料を貰うとか、そういう……なんと言えばいいのか」
とんでもなく曖昧でとんでもなく便利な役職というか。無限色の翼っぽい立場だけどね。
「なんだろ。バイトとかパートじゃないしな。嘱託職員? 呼び方はわからんけど、職場を持たないけど職権はある役職か。オレが魔法士としての権限だけ持ってるみたいなものかな。こっちは王国以外では役には立たないけど、アカネちゃんの場合は世界中で効力があると」
「ですかね」
私にもこの役職をどうやって扱えばいいのかわからない。ユーリさんと一緒にいられるならなんでもいいんだけど、それとこれとは別だもんなぁ。
仕事しない限りはお給料が発生しないわけだから、堂々としてればいいんだろうけどね。
「思えばギルドも各国に本部があるとはいえ超国家組織だもんな。転属を繰り返すような役職もあるだろうし、各本部や支部で仕事が大きく変わるわけでもないか」
「そうですね。ステルラからリブラキシオムに移ったときも違いは雰囲気くらいでしたから」
ステルラは獣人多めだから全体的に穏やかで、王国や帝国は言うとアレだけどプラスとマイナスがそれぞれでバランスが取れてた感じかな。
「でもそれはそれでカッコいいかもな」
「そうですか?」
「流しの料理人とか警察……司法機関のトップみたいな。荒れたギルドにふらっと現れて事件を解決、組織を改革して去っていく……ごめん夢見すぎた。前の世界にそういう物語が結構あったんだよ」
ユーリさんは自分自身の言葉に呆れてため息を吐いちゃってるけど、なるほどー。そういうのもありかもしれない。経験も法務知識も活かせるだろうし。何よりユーリさんっぽい気がする。
「面白いですね。もしそうするときはユーリさんも手伝ってくれますか?」
「当然。いくらでも」
だとしたらこの立場も悪くないのかも。レヴさんやエルさんもだけど、みんなで旅をしながらあちこちで世直しみたいな。
そうするとなると、私がまだギルド職員でいられていることは大きな意味を持つよね。ありがとうございます、ギルドマスター。




