間章 女皇龍レヴァティーンとまだ見ぬ景色
エルとティア。たしかこの二人って知り合いなんだよね。それでエルに憧れてティアも世界を見て回りたいって。年齢はすごく離れてるけど姉妹みたいだね。
今この領域にいる中で旅を目的にしてるのは、ここにいるわたしたち三人かな。あとユーリ。
「うーん、ユーリとララとレヴで空の上で海の向こうまで見たって? 私も見たかったなー」
「む。それはずるい」
『ユーリとはじめて会ったときに空から夜の森見たよねー』
『幻想的でしたわね』
『海の向こうが見えたならあれよりもっと上?』
『まあ、魔人を退けた褒美としては良いだろうな』
『そらのうえ。ティアともいけるのでしょうか』
うん。あれはすっごく特別な景色だった。本当に世界のすべてが見えて、その上で照らされてるように見えたから。
「ほんとはね、昔一回行ったことがあるんだ」
『え、どこにー?』
「空の上。その時は苦しくなって駄目だったんだよね。だからユーリが行ったところまでわたしも行ったのかな。そのときはなんにも思わなかったな」
本当に。苦しかったことだけしか覚えてない。あとは空が黒かったことかな。
「でも今回上書きされたよ。ほんとにきれいだったー。ユーリとララには感謝だね」
「ユリフィアスとララさん。誰と見るか。それもまた重要だと思います」
ティアの言うとおりかもね。今度はみんなで見たいな。
「エルフェヴィア姉は。これまでどんなものを見たの?」
「そうだねー。満月の海とかきれいだったな。山の上から見た雲を照らす日の出とかも。大っきな河を陽の光が反射してキラキラしてるのとか。草原で見る満天の星とか。雪の街とかも良かったなぁ」
『いろいろ見てきましたわよね』
『どこでも行ったからねえ……どこかって聞かれると答えられないけど』
『だがそれもまた良かったのかもしれんな。風景は時と共に移ろいゆくものだ』
そっか。でもこれからそれをみんなと一緒に見れるんだよね。
「あとは、海の向こうに何があるのかかな。上から見ても何もわからなかったけど」
「海の向こうかぁ。ユーリも気にしてたことあったよね」
たしか、ユーリのいたのは島国で海の向こうには大陸があったとか。六つだっけ。大航海時代って言って船で海を渡って新しい大陸を見つけたって。
「ユーリは『無理かもしれない』って言ってたけど、それもいつか見られる日が来るのかな」
「レヴに乗せていってもらったりとか?」
『たのしそー』
『ええ。そうですわね』
『そのときはユーリも一緒にね』
『確実にまだ見たことのないものが見られるだろうな』
そうだね。きっと。
そう思ってたら、ティアがうつむいてた。
「……ワタシは。それをどのくらい見られるんだろう」
「全部見られるでしょ、ティアリスなら」
「そう思いたい。けど。ワタシは二人と違っていつまで生きていられるのか」
『ティア……』
ティアと共存してる水精霊も辛そうにしてる。
そっか、ティアはクォーターエルフだっけ。エルフと同じ長命さを持っていられるかはわからないもんね。
「それでもね。『旅をすることをやめるなよ』ってユーリなら言うよ」
『実際に言われたもんね。悪人に襲われて里に帰ろうかと思ったとき』
うん、言いそう。いつだってユーリは背中を押してくれるから。ほんとはわたしも背中を押してあげたいんだけどね。
それよりも手を繋ぎたいんだけどさ。
「きっと、ティアと水精霊にしか見られない景色があるよ。それを見ないのはもったいないと思う」
『そうですわよ。ティア。わたしもいますから』
「うん。ありがとう。水精霊」
たぶん、同じものを同じように見ても感じることは違うんだと思う。
わたしもこれからいろんなものを見たいし、ティアと水精霊も一人と一柱で共有できる素敵な景色を見つけられるといいね。




