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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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間章 エルシュラナ・レリミアの敬虔

 話をする約束はできれば早く叶えたかった。だからって、チョット無理言ったカナー。でもいつまでもお邪魔してるワケにも行かないし。シムラクルムに帰るタイミングも測りかねてるけどネ。

 それにしても、こうして向き合ってみるとホントにフツウの女のコに見える。学院にもよくいた自信のない子みたい。探知ができる身としては魔力が明らかに隠蔽されきってて逆に凄みを感じるケド。


「ティトリーズ様」

「レリミア……ですからわたしは……」

「ンー、それじゃあ『リーズ様』もダメですか?」

「できれば……」


 むう、変に手強い。セラちゃんやユメちゃんとは違うしララさんやレヴさんとも違うからなんとも言い難いケド、敬意は払いたいんだけどナァ。


「『リーズ様』がダメなら、もう『リーズさん』しかないんですケド……」

「それで……構いません……もともとネレさんにもそう呼ばれていますから……ララさんもレヴさんもセラさんも……みなさんにそう呼ぶように言ったそうですし」


 やっとお許しが出た……ヨカッタ。さすがにユーリさんたちみたく「リーズ」は無理だよネ。アイちゃんとかレアちゃんとこみたいに「姉さん」「お姉様」もなんか違うし、ティアちゃんみたいに「リーズ姉」とかもなんか違う気がスルし。

 イヤ、歳の話じゃないからネ。ぶっちゃけネレさんも一緒でメチャクチャ若く見えるしどう見てもユーリさんの記憶で見たのと外見変わらないんだケド。絶対気にしてるだろうカラ言わない。


『リーズ、来たぞー』

「ユーリさん……どうぞ……」


 ノックに許諾。ユーリさんが入ってきた。

 ただ、リーズさんはユーリさんをじっと見てる。よくわかんないけど文句がありそう?


「そのまま入っていいとは言われたけど、さすがにな」


 なるほどネ。それはさすがに。

 ユーリさんが席について、その前にもお茶が。この美味しいお茶を転生前から飲んでたのはチョット嫉妬するカモ。


「相変わらず美味いな。それでリーズ、話したいことって?」


 ソウ。今回そういう名目で呼ばれてたんだよネ。

 リーズさんはしばらくうつむいてたケド、意を決したように顔を上げる。


「単刀直入に……わたしは共和国の王になっても……いいのでしょうか?」

「うん? いいと思うけど」

「エエ、ユーリさんに賛成ですケド?」


 エ、ソレ?

 むしろ「なんで?」って感じ。リーズさんが魔王とか、これ以上はナイと思いますヨ? 国民思いだし、優しいし、強いし。

 でも、リーズさんはあんまり嬉しそうじゃナイ。なんで?


「ユーリさんは……力を得てどうしますか……?」

「力?」


 脈絡ない質問の続きにユーリさんは首を傾げてる。アタシもカナ。


「どうするって言うとなんもしないけど。なんのためかならそりゃまあ、みんなを守るためだろうな、まず。守るほど弱いかはわからんけどさ。となると『守るために使う』ってのが最初の問いの答えか」


 ウン。きっとこれからみんなももっと強くなろうとすると思う。アタシもそうだし。リーズさんを守れるくらいにはなりたいネ。


「そうでした……ユーリさんはレヴさんと……『話をしに行った』んですよね……」

「ああ」


 それがココ、正確にはもっと上だっけ。話に聞くのと見るのとじゃ大違い。レヴさんと話したくても絶対登りたくはナイ。死んじゃう。


「ユーリさんやみなさんのように……力に寛容な人も……いえ……見間違わない人も多くいます……でも……レヴさんを殺そうとする人もたくさんやってきたと……聞きました……ユーリさんやわたしも……」

「そうなる可能性がある、か。たしかにな。魔人騒動のときのララもそうだし、オレ自身学院生活と冒険者活動で恨みも山ほど買ったし」

「色欲封じもそうですけど……人の感情にも干渉できるなら……人を傀儡にしてしまうことも……できるんですよ……」

「……なるほどな」


 アー、そういうコト。つまり、リーズさんは御自分が“わかりやすい敵”になる可能性があるって。

 ソッカ。特に「ヒトを傀儡にできるかも」ってトコがマズいだろうってコトだネ。


「責めるための口実探しは意気込んでやってるでしょうからネ」

「暇だよなぁ」


 ホントに。他に考えるコトもできるコトもいっぱいあると思う。ソレこそ強くなるとかネ。


「それに……ある意味でわたしは……ユーリさんで証明もしてしまったわけですから……それができると……」


 色欲封じ。人に対して恋愛感情を持てなくなる魔法。他の感情も抑制できるのナラ、世界を支配するコトもできる……のカナ? ドウダロ。

 最初に会ったトキと血を吸ったトキに抱きついたケド、特に何もならなかったよネ、そう言えば。案外それで死ぬとかそういうこともないんじゃないカナ。


「まあ、技術ってそういう側面があるからな。ダイナマイトの話とかしたもんな」

「はい……あれは明確に……忘れることなく覚えています」

「だいなまいと?」


 なんだっけ。リーズさん関連でユーリさんの記憶の中で見たような見てないような。


「鉱山掘削用の爆発する魔道具みたいなものですよ。それを人殺しの方に数え切れないほど多く使ったっていう話です。力は力としてそれをどう使うかっていうか、どう悪用するかっていうか」


 ソレはまた……たしかにコノ話の例えとしては的確なのカナ。


「それでも、自分たちの力が善いもので獣人や魔族の力が悪いものだっていう思考構造は意味不明だけどな。この世界に限った話でもないけど」


 チカラをどう使うか。ヒトからどう見えるか。自分だけじゃどうにもならないこともありそう。


「ていうか学院でも思ったけど、獣人や魔族は人間に反抗できない呪いでもかけられてるのか? さすがに限度はあるだろうけど、その上限が高すぎると思うんだが」

「はー、ユーリさんから見るとそう見えるんですネ」


 たしかに、そういう傾向はあるカモ。

 ユーリさんの世界って、人間しかいないって言ってたっけ。だったらイロイロと変に見えるかもネ。

 一つにはそういうお達しみたいなのがあるのもあるよネ。ヨソで問題起こすわけには行かないし。でも根本は「ドコが違うの?」ってコトだと思う。


「獣人や魔族にとって……人間も種族の一つで仲間だから……だと思います……積極的に傷つけることに意味もないですし……あ……ユーリさんに色欲封じを使ったわたしは……その範疇から外れているのかも……しれませんね」

「いや別に」


 ユーリさん、そんなにアッサリと。アタシも同感だけど。

 マア、人を傷つけるようなコトをするとこうやってすごく後悔するっていうのもあるのカナ。誰だって嫌われたくナイし。


「しかし、『個人が強力な力を持ったら』か。悪かったなリーズ、悩みに気づけなくて。オレ自身は目を付けられたら隠遁でもすればいいと思ったけど、リーズはそうはいかないもんな。変なとこでいつも考えが浅いなオレは」

「いえ……わたしが特殊なのだとは……わかっていますから」


 ウーン。たしかに考えスギの面はあると思う。デモ、王様だったら当然だよネ。リーズさんは優しいカラ、争いの種を蒔きたくはナイだろうし。ていうか、ユーリさんもだよネ、考えスギなのって。お似合い?

 ユーリさんは、机に頬杖をついて天井を見上げた。ナニか考えてるのかな?


「力の抑え合い方。“非暴力不服従”……は今まさにそれか。限度はあるとしてもある意味最悪の貴族主義状態だよなこれ。オレの世界で奴隷制のあった時代の話だし」


 非暴力不服従。「手は出さないけど言うことも聞いてやらないぞ」ってコトカナ? ソコまでやられ放題じゃないケド、近いところはあるのカナ。


「現代……オレの生きてた時代だと国家間関係については“相互確証破壊”って考え方が普通だったか」

「「相互確証破壊?」」


 あ、リーズさんとハモっちゃった。


「お互いに相手を破滅させる切り札を持っていれば、どちらも報復を恐れて手札を切れないだろうっていう考え方だな。オレの世界には、王都や帝都を一瞬で消し飛ばせた上で長期に渡る被害を残し続けるような兵器を大量に持ってる国がいくつもあって……完全に客観になるとほんと嫌な世界だな地球」


 頬杖ついたままため息吐いてるけど、怖すぎる。ユーリさんの世界に興味あったケド、それこそ一瞬で消し飛びそう。


「早い話が、『何かやらかすと報復が来るから何もできない』っていう考え方だな。逆に言えばその力がない国は拒否や搾取されかねないわけだから、持ってるほうが世界的に禁止したその力をどうにかして持とうとしたりするわけだが」

「既に……力……暴力を持っている方が……他を押さえつけるんですか……」

「救いのない世界ですネ……」


 ホントに、とユーリさんは呆れたように笑う。


「この世界だと、個人の力が外付けで無限に肥大化するってことはまだないけどな。まあ、帝国はわからんけど王国に至って言えば両殿下ともにオレより強いぞ。リーデライト殿下とはやりあってないけど、正面切ったらたぶん負ける」


 どうだろうネ? たしかにユーリさんは負けたけど、アレほとんど剣術だけだし。超音速貫通撃オーバーソニック・スラストで遠距離狙撃とかしたら勝てるんじゃナイ?

 ララさんから聖都の魔人の話も聞いたケド、負けられない状況ならナニやっても勝つだろうし。マァ、リーデライト殿下も同じように戦術や戦略を駆使してきそうな人っぽいけどネ。


「敵になるかもしれないヤツにしろリーズにしろ、疑心暗鬼を生ずだな。名君がいきなり暴君にならないわけでもなし、恐れは絶対的に不要ってわけでもないんだろうけどさ。対話をし続ければいいんだろうが、そううまくいくものでもない。かと言って力の使い方はそれぞれだからみんなで強くなればいいってわけでも無し。難しいな」


 ソッカ。セラちゃんが「なんでユーリ君は技術を広めないんだろ?」って言ってたケド、それがいいとは限らないんだネ。むしろアタシたちは運が良かったんだ。そこは最低限失望されないようにしないとネ。


「しかし、力を持ってどうするかか。じゃあ無茶振り気味に『あれ作れ』『これ作れ』って言ってたのも良くなかったか? コイツだって社会体制ぶっ壊すくらいの力があるもんな」


 通信魔道具。便利だケド、ユーリさんが言ってたように悪人が使うとよくないネ。心配し過ぎにも思えるケド。

 同じコトは空間収納魔法にも言ってたっけ。物流と警備を破壊するって。


「いえ……いろいろ考えたり作ったりするのは……楽しかったです……知らなかったことを知って……世界が広がっていくみたいで」

「なら良かった。そこまで裏目に出てたら目も当てられない」


 リーズさんはなんの憂いもなく笑ってる。たぶんユーリさんがいろいろ考えてたこともわかってるんだろうネ。

 でも、好きだから応えたいとかたぶんそれだけじゃナイ。この工房を見たら魔道具作りが本当に好きなんだなってわかるカラ。


「そうです……ユーリさんの残していったノートの魔道具……いろいろできていますよ」

「お、そうか。じゃあ見せてもらおうかな」

「アタシはユーリさんのノート自体に興味がありますネー」


 これからのコト、なんだか見えてきたカナ。

 アタシはこの人たちの力になろう、日向にも陰にも。二人がずっと笑っていられるように。

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