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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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間章 ユメ・ハウライトの勘違い

 爆発音がしたとは思いましたけど、ユリフィアスさんがボロボロになっていてララさんは大層ご立腹していらっしゃいました。何があったのでしょう。


「ええと。回復をいたしましょうか、ユリフィアスさん?」

「しばらく放っておいていいですよユメさん。唐変木には罰が必要ですから」

「は、はぁ……」


 唐変木ですか。否定できないのが難しいところです。ユリフィアスさんだってやりたくてやっているわけではないのはわかるのですが。


「……その辺は自覚してるんで、このままにしておいてくださいユメさん」


 ボロボロでフラフラになったまま。それでもユリフィアスさんは笑いながらそうおっしゃいました。

 ところで。


「あの、転生の話を聞いたときから思っていましたが、ユリフィアスさんの方がお歳は上になりますよね? ルートゥレアさんやセラディアさんと同じようにわたくしにも接してくださって構わないのですが」

「え? いやうーん」


 セラディアさんがおっしゃっていたように、アレックスさんと同年代になるのですよね。初めてお会いしたときから落ち着いた方だったので、年下として接していることへの違和感はあったのですけどね。

 それにアカネさんにも砕けて接しているわけですし、フレイアさんにもですね。お二人は無限色の翼プリズムグラデーション・エールのみなさん同様ずっと以前からの知り合いというのもありますけどね。


「レアやセラと同じようにですか。でも姉さんは姉さんとして、ユメさんもユメさんで『お姉ちゃん』って感じがするというかですね」

「はあ。たしかにわたくしはノゾミの姉ですが」

「いやそうではなくてこう、精神的余裕とか人格とか雰囲気とか外見とかが」


 ええと。話を理解しようと努めてはいるのですが、ユリフィアスさんがわたくしの評価を一つ言うごとにララさんの雰囲気がおどろおどろしいことに。


「ゆうり?」

「……そういうことじゃないっての。ああそうか、水精霊の祝福ブレス・オブ・ウンディーネを姉妹として見た場合、ユメさんが長女的な役割だからか」

「姉妹と見た場合の長女ですか」


 そういう傾向はあるのでしょうか。リーダーとしてパーティーのまとめ役を担っていますから、ユリフィアスさんのおっしゃるとおりなのかもしれませんね。


「……まあその下はどうとでも取れますけど」

「……うまく逃げましたね、悠理」


 そこは明言を避けた感じでしょうか。耳に入ったとしたらティアリスさんは憤慨しそうですからね。

 ともかくアイリスさんよりはお姉さんになるわけですから、ユリフィアスさんにとってもお姉さんになるのでしょう。

 ティアリスさんといえば、ユリフィアスさんにも甘える相手が必要ではないかと心配していましたね。わたくしがそういう役目を担うのもいいのでしょうか。

 ……わたくしだってたまにはとも思うのですが。ああいえ。

 あ、そうでした。こういうのんびりした時間もいいのですが、いつ機会があるかわかりません。遠くないうちにハウライト家に戻ることになるわけですし、聞くべきことは聞けるときに聞いておかないと。


「わかりました。そういうことであれば。それで、話を変えて申し訳ありませんユリフィアスさん。ララさんにお会いすることがあれば窺わなければならないことがあったのです」

「はい。なんでしょう?」

「不躾だとはわかっているのですが、聖魔法を攻撃に転化する方法はあるのでしょうか?」


 お話をすることができれば聞いてみたいと思っていたもの。それをこうして面と向かって尋ねることができるというのは幸運です。それを見ることができるだろうというのも。

 ララさんは納得したような顔で頷いてくれました。


「ああ、ユメさんは力に目覚めて半年ほどしか経っていないんでしたね。そうですね。聖魔法は回復魔法が主ですから、攻撃への転化は難しいところがあります。私も聖属性球セイントボール聖属性放射セイントブラストを使っているくらいですね」

「……大事な話なのはわかるけど、それの説明にオレを的として使うなよ」

「自業自得です。魔人には魔法剣で対応したくらいですから、攻撃能力はほぼ無いと言ってもいいでしょうね」

「……今さっき攻撃したよな?」

「そうでしたか?」


 お互い言い合いをしてはいますけど、ララさんは最低限の魔法出力、ユリフィアスさんは防壁を使っていません。不思議なやりとりと関係性ですね。十年以上離れていたからこそでもあり、そうであってもということなのでしょうか。

 おっと、また思考が外れました。


「私もそこは問題だと思っていました。今後は私も戦うことがあるんでしょうし、なにかないですか悠理」

「そうだなぁ……って言っても」


 ユリフィアスさんは空を見上げて少しの時間考え込み、


「パッとだとレーザーとかしか思いつかないな」


 特に淀むことなく技の名前を口にされました。


「「れーざー?」」

「超高出力の光かな。光線レイをウォーターカッター風に撃つっていうか」


 それはまた。わたくしは修練が活かせますね。


「やってみま」

「ちょ、ユメさんちょっと待った」

「なぜ止めるんですか悠理」

「いやララはいい加減オレに魔法を向けるのをやめろ! 怒ってるのはわかってるから!」


 ユリフィアスさん、今度は必死です。でもこれは嫌がってるわけではなくてそれだけ危ない魔法ということなのでしょう。もちろん、ウォーターカッターも含めてすべての魔法にその側面はありますけれど。


「理性的でいてくれてありがたいよほんとに。レーザーはさっきも言ったように基本的にはウォーターカッターと同じようなものだ。ていうかやろうとしてるのはこれもレーザーカッターっていう工具だな。ただ、光の速度は一秒で地球を七周半……この星のサイズがわからないからなんとも言えないけど、そもそもがとんでもない速度なんだよ。それに、空に見える星は数万年前の姿だったりもするんだ。それだけの直進力があるんだよ光には」


 そうなのですか。ユリフィアスさんの世界はいろんなことが解明されていたのですね。

 ……え? 数万年前? 空の星の姿が?

 いえ、それはまた今度教えていただきましょう。


「空気が減衰要素になるから無限に直進はしないけど、どれだけの力があるかオレにはわからない。金属の切断にも使われてたくらいだから威力的にはウォーターカッターと同じくらいだろうし、初めから水平方向に試すのはやめたほうがいいと思う」

 光は回復だけかと思っていましたが、そんなにすごい力があったのですね。

「へえ」


 ジュッ、と音がしてユリフィアスさんの足元が焼けました。真っ赤になっていますが融けているのでしょうか。


「……そうそうそんな感じ。でもリーズの結界が壊れるかもしれないから練習は状況を見てな。頼むから無茶苦茶するなよ」


 なるほど、ユリフィアスさんはそれを心配していたのですね。たしかにこの場を覆う防壁が無くなれば即座に外と同じ環境になるわけですから、一番に考えるべきはそれですね。


「あとは攻撃とは言い難いけど、灯光ライトを高出力化するとかかな。生物は強烈な光を直視すると」

「こうですか」

「ぐえっ」


 眩い閃光が輝いた瞬間、ユリフィアスさんがなんの受け身も取らずに倒れました。わたくしも目がチカチカしますしなんだかクラクラします。

 さすがにこれはまずいと思い、駆け寄って魔力探知をかけたのですが……単に目を回して気を失っているだけのようですね。それでも魔力隠蔽が解けていないのは日頃の鍛錬ゆえでしょうか。

 一応、回復ヒーリングを。苦悶の表情は消えませんでしたけど。

 そういえば、こうやって強力な光を発して相手の視界を奪う魔道具があると聞いたことがあります。この魔法はそれの再現なのでしょうか。

 ただ。


「……ララさん。失礼を承知で申し上げますが、やりすぎです」

「わかっています」


 ララさんもユリフィアスさんの頭のそばに座りこんで、その前髪をいじり始めました。これ以上なく優しい手付きで。


「勘違いされがちですけど、私だって存在そのものが聖女ってわけではないんですよユメさん」


 悲しそうな笑顔。

 後悔。いえ、このことに対してではなさそうな。


「悠理は私のことを『命の恩人だ』とは言いますけど、出会ったときもこれまでも魔人のときも救われているのはいつも私の方です。私には悠理の助けになるような力もありませんから、みなさんが羨ましいですよ」


 それとこれとは……とは思いますしそんなことはないとも思いますけれど、聖女様だって一人の人なのは事実です。思うことはたくさんあるのでしょうね。こうしてユリフィアスさんが気絶していなければ吐露できないこともあるわけですし。


「それに、貴女たちに嫉妬だってしてしまいますからね。私も悠理と学生生活をやってみたかったです」


 聖女を辞めてまで追いかけたかった相手。長く離れていてやっと触れられたその相手に上手く接することができないのは当然かもしれません。

 ララさんのおっしゃっていたことが全てなのかもしれませんね。わたくしが聖女という存在を神格化しすぎていただけなのでしょう。もっとも、恋する乙女の思考というのは今はまだわたくしにはわかりませんけれど。


「申し訳ありません、ララさん。わたくしの主観で責めてしまって」

「謝る必要はありませんよユメさん。貴女の言うことも正しいですから。かと言って、優しくしすぎるのもなんだかしゃくというかむず痒いというか。そもそも気を持たさせ過ぎなんですこの男は」

「ふふ、そうですね」

「うーん……」


 聞こえてはいないでしょうけれど、まるで聞こえていたかのようにユリフィアスさんが唸りました。

 どうか、この方たちが幸せでいられますように。そう願わずにはいられません。ララさんの想いも届きますように。

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