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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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間章 ララ・フリュエットの帰還

「……ごきげんよう、聖女様。お仕事は?」

「辞めてきました。いえ、あなたたちに即して言うなら卒業してきました」

「「「「「「「「ええええ……」」」」」」」」


 悠理の質問、いえ形だけの皮肉でしょうか。それに答えたら彼以外ドン引きでした。懊悩のほぼすべてを知ってくれているのは彼だけでしょうからね。


「足掛け二十年近くか。ご苦労さま、ララ」

「はい。やっと肩の荷が下りました」


 悠理が労ってくれるだけで心が軽くなるというものです。とは言え、フィーリアやカリタが助けを求めてくれば躊躇うことなく手を貸しますけどね。そのときはみなさんも手伝ってくれるでしょう。

 悠理はじっと私を見てから、やっと安堵したような笑顔を浮かべました。以前言っていましたね、“燃え尽き症候群”でしたっけ。それではないとわかったのでしょう。

 やりとりが聞こえたからだと思います。家の中からエルとレヴも出てきました。


「みんなお疲れ様。ティアリスも」

「これでみんな勢揃いだね、ユーリ。ララもこうして一緒にいられるし」


 あとは鍛冶作業中のネレと引きこもってしまったリーズだけですね。すでに悠理と顔を合わせたはずなのに、再会したときに彼女だけ魔力結晶ネックレスをしていませんでした。悠理にはさっさと渡してもらわないと何も始められません。

 そんなことを考えていたら、牛人族の少女が一歩進み出てきました。魔質は水と聖。


「あの、ソーマ様。直接お目にかかるのは二度目になりますが、ユメ・ハウライトと申します」

「悠理から聞いて思い出しました。お久しぶりですねユメさん。と、軒先で立たせたままもなんですから入りましょうか」


 魔力探知でわかっていただろうとはいえ、一番驚かせたい相手も驚いてくれませんでしたからね。

 それにしても結構な人数です。話には聞いていましたけど、寝床を確保するだけでも一苦労そうです。ここは天候も自在ですから、天幕を張らずに野営しても体調を崩すことはありませんけどね。

 家に入り、各々腰を下ろします。お茶の用意はアカネさんとアイリスさんが買って出てくれました。

 全て終えて二人が腰を下ろしたので、続きを促します。


「それで……先程からユリフィアスさんたちはソーマ様のことを“ララ”と呼ばれていますけど」


 ああ、そうですね。まずそこからですか。


「アカネさん以外の皆さんには話していませんでしたね。聖女見習いはその立場になった時点で全員が称号名を授かります。私の場合はそれがソーマだったというだけです。私の本名はララ・フリュエットなので、それでみんなララと」

「そ、それは申し訳ありませんでした。わたくし、知らずに」

「うわー、あの時聞いたのに続いて重い話ぃー」


 フレイアさんが一人だけ違う反応をしていました。


「フレイアには聖女を取り巻く状況は聞かせたんだ。重いやつをたっぷり」

「そうそう。周りは敵ばっかりとか巡礼に出ても敵ばっかりとか、やることできなくて聖女やめることになっちゃうとか」


 フレイアさんの言葉に悠理が変な顔をしていました。たぶんもう少しちゃんと説明したのでしょうね。おおよそ間違っていませんけど。


「まあ、称号名自体もたぶん親族を人質に取られるようなことを避ける意味だったんじゃないかな、本来。数年間聖国本教会内で生活するっていうのもそれかもな。個人の特定を曖昧にするっていう。あとは……霊的な攻撃を避けるとか色々考えられるけど、それはないか」


 ああ、彼の世界だと呪いには名前が必要だとか言ってましたね。

 あとは髪の毛をどうとか。人形の中に入れるのはともかく食べたり食べさせたりするのは……ちょっと理解できませんけど。


「時代が進めば意味も変わりますからね。もともと特に意味はないのか誰もそれを覚えていないのか意図的に失伝したのかはわかりませんけど、半回りや一回りして同じことを考えた人はいるかもしれません」


 聖皇にも色々いたわけですから、口伝自体はされていたのでしょうか。ブリマヴェラ様はそれで私に親身になってくださったとか。


「ともかく、聖女ソーマは卒業です。皆さんも呼ぶならララでお願いしますね」


 そう言うと、皆さん顔を見合わせています。

 元聖女なのだから仕方ないですね。悠理とエルとレヴは笑ってくれていますけど。


「それでえーと、ララ様は」

「様、ではなくていいですよセラディア殿下?」

「うっ、わかってて言ってますね……ララさん」


 当然です。と言ってもこれが効くのはセラさんだけでしょうけど。


「みなさんも。ユメさんもね」

「は、はい。ララさん」


 ユメさんの戸惑いは聖女見習いたちを思い出しますね。同属性持ちの仲間ですし、もう少し気安く行きたいものです。


「それで続きですが、ララさんは今後どうなさるおつもりなのですか?」


 どうするかですか。それはもちろん第一に悠理のことですけど、


「とりあえず共和国にご挨拶に伺いたいですね。スタンピードの後に訪問もできませんでしたし」

「ゼヒお願いします」


 ミアさんに頭を下げられてしまいました。

 大々的に訪問することはできませんけど、何かできることがあるといいですね。


「あとは魔人の予後もありますが……それは新しい聖女たちに任せることにして、当面はのんびりしたいですね。あなたたちとも親交を温めたいですし」


 特に、今生の姉であるアイリスさんとでしょうか。悠理の幼少期のことは事細かに聞いてみたいです。

 ああ、ご実家にもご挨拶に伺わなければ。のんびりしてはいられないかもしれませんね。

 それと。まずは悠理以外と認識を合わせておきましょうか。


「エル、レヴ。悠理にここのことを説明しておいてもらえませんか?」

「え、なんでオレだけ?」

「同性同士で話すことがあるからです。そのくらい配慮してください」

「……それは失礼」


 ちらりとエルとレヴを見ると、かすかに頷いてくれました。


「まあ、そっちの興味もあったし一足先に探検してくるよ。ネレとリーズも気になるしな」


 そう言って、悠理はさっさと出て行ってしまいました。昔はもうちょっと動揺してたと思うんですけど、これも色欲封じの影響ですかね。いえ、昔から気は使う方でしたけど。

 新しい女性メンバーだけになったところで、表情を引き締めます。大事な話ですからね。


「さて、貴女たちに話しておかなければいけないことがあります」

「……この人員だと、『抜け駆けするな』とかそういうことですかね?」

「へ?」


 おっと、変な声を出してしまいました。セラさんの言うことも無かったとは言えないですけど。

 レアさんが複雑そうな顔をします。彼女も悠理に好意を抱いているからでしょう。アカネさんやフレイアさんも似たような顔をしています。アイリスさんは微笑みを崩さずですか。魔質適性があれば聖女の資質がありそうですね。


「それは悠理次第のところもありますから。個人的には思うところもありますけどね。それよりも悠理自身のことです」

「ユーリくん自身のですか?」

「ええ。彼の危うさについて思うところのある方はいませんかね」

「ユーリの危うさ……」


 フレイアさんが宙を見上げます。


「ユーくんの……」

「ユーリさんの……」


 アイリスさんとアカネさんもなにか思うところがあるようです。


「忌憚なくどうぞ。しばらく戻らないようには仕向けていますから」

「えと。アイリスさんのことが絡むとすごく怒っていたというか冷静でなかったのは覚えています」

「はい。ダヴァゴンのときと最初の魔人のとき。後の方はわたしが迂闊だったのもありますけど」


 ああ、後者の方は私もその場にいたから覚えがありますね。やや強引な魔法の使い方をしていました。制御自体はできていましたが。


「フレイアさんも覚えがあるようですね」

「んー。私が炎の魔質に目覚めたときなんですけど、上級ダンジョンの深部に置き去りにされて。そのあとユーリが追っかけてきてくれたわけなんですけど、当然途中で私を置き去りにしたパーティーとも会ったはずですよね。そのパーティーがどうなったかって、結局ちゃんとユーリの口から聞いてないんですよ。その後ダンジョンスタンピードも起きちゃいましたから」


 なるほど。

 予測はできます。おそらく、フレイアさんの元にたどり着いたときにはそのパーティーはこの世に存在しなかったでしょうね。ダンジョンスタンピードがあったなら遅かれ早かれそうなっていたでしょうけど。いえ、むしろそのパーティーが壊滅したことが引き金だった可能性もある。魔法士団にいた彼女なら後にでもその可能性に気づいたでしょうし、表情を見るにギルド職員であったアカネさんも予測はついていそうです。


「……悠理は何もない状態でこの世界にやってきました。いえ、殺されてですね」

「「「「「「……え?」」」」」」


 ほぼ全員が気の抜けた声を出しました。あ、これはまだ話していなかったのですか。


「失礼、そこまでは話していませんでしたか。その話は悠理に追々させます。ともかく、この世界にやってきたときは大切なものも当然ですが、『善悪の物差しが無かった』と言ってもいいと思います。向こうとこちらでは常識も大きく違うようですし」


 元の世界だと命のやり取りも遠い世界の非日常だったようですからね。その上での理不尽のはずですが、それすら受け入れているようでした。だからこそか、「こちらに来てから線引きが狂ったかも」と言っていましたね。


「そこに私たちがある意味で強いくびきか枷のように心に入り込みました。常日頃から『強くなる』とか『守る』という言葉を口にしていますけど、それは私たちに対することだと言っていいと思います。逆に言えば、もしも私たちの誰かが魔物はともかくとして今回の事態を起こした“誰か”のような相手に殺されるようなことがあれば……悠理は糸が切れてしまうのではないかと。魔力探知で悪人は見分けられるわけですから」


 悠理は力も信念もこの中の誰よりも強いはずです。力の方はともすればレヴよりも。

 信念のままに悪を裁いて回る。ある意味で悠理自身がそうなることを躊躇っている存在になってしまったら、きっと誰にも止めることはできないでしょう。あるいは私も一緒に堕ちてしまうかも。


「ですから、私たちもそう簡単に死なないように、悠理を助けたり止めたりできるように強くならないといけません。心を清く保ったまま、ね」


 きっとこれ以上なく難しいことです。しがらみも多くなるでしょう。それでも、背中を追いかけたいと思うのなら力は必要です。追いついて、隣を歩き続けるためにも。


「あとは、みなさん私たちに対してもっと気楽にしてくれて大丈夫ですよ。私たちが怒るとすれば悠理にだけですから」


 そう締めて、私たちのこれからの新しい誓いとしました。

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