Connect to Prism-gradation Air Ⅱ
王都を出たオレたち。エクスプロズ火山に向かうのは決定事項として、それには直近のリーフェットを経由するのが定番。そのリーフェットに向かう道程にもいくつか選択肢があった。
長期休暇のときのようにそれぞれの家を回ってからリーフェットに向かう案。
帰宅は後回しにして駅馬車で真っ直ぐのんびりリーフェットまで向かう案。
とりあえず一度別れてそれぞれの家に戻り、あとで集合する案。
選ぶのは当然、
「初めて来たけどすっごいところだね。ほんとにこんな所にいるの、無限色の翼の人たち?」
「おおよそ人がいられる環境じゃないですよね」
身体強化で直行。これもまたいまさらだな。
一応、広域探知してまっすぐ向かってはいる。けど、こんなところに居を構えたら誰も来ないし来られないな。それだけの警戒というか逃避が必要だったのか。
まあ、急に世界最高峰になってまだ研鑽を続ける鍛冶師と、隠遁する魔道具師の共和国王女と、人化したドラゴンだものな。多少なりとも隠れ住む必要はあるか。
「でも、秘密の場所って感じだよね」
「そうですね。ユリフィアスさんの魔法でわたくしたちは快適ですが」
「そう言えば。ユリフィアスは十字属性のときにも来たとか?」
「記憶で見た見た。モット上の火口付近まで行ってましたよネ?」
懐かしいな。冷却の魔道具山盛りの宇宙服みたいな状態で行ったんだよな。結局それでもギリギリって感じだった。それが今は生身で歩けるのだから風魔法使いの恩恵を感じる。
「ほっ……うわすご。魔力の消費が半端じゃなく減ってる。どれだけ暑いのここ」
「自力で登るなんて考えたくないですね……」
火系統魔法使いのフレイアとアカネちゃんもゲンナリした顔をしている。実際、外気温は何度だろうな。
「お湯とかすぐに沸きそうだよねー。っていうか水魔法使いは相性悪い? 火魔法使いとしては最高だけど」
「かもな。水の領域も狭いし」
「たしかに水はなさそうだものね、ここ」
姉さんが辺りを見回して言う。水源があってもすぐに蒸発して無くなりそうだな。
「それだけじゃなくて、水が沸騰する温度ってその場の高さによっても変わるからな。正確には空気の圧力に因るんだけど、高度が高ければ高いほど低い温度で沸騰するんだよ。水が水蒸気になると操れなくなる。そういう意味でも水魔法使いには不利だ」
「お、出たね科学知識」
例によって計算式とかはわからない。ただ、山で食うカップ麺って美味いって話だったけどな。登山経験はなかったから経験無いけど、熱湯じゃなくていいんだろうか。
と、この辺りか。っていうかここか。
手を伸ばしてみると、なにかに触れた感触が返ってくる。なるほど。
「あれ、なんかある?」
「防壁だな。隠蔽もかかってるか。でも何かの偶然でここに来た人がいたらぶつかってわかるかもしれないな」
通信魔道具に魔力を込める。
「着いたけど、空間を分けてるのはリーズの魔道具か? どうやって入ればいい?」
『待ってください……魔力の登録を……終わりました』
防壁に触れていた手が飲み込まれていく。その部分だけ見えなくなった。
「ぎゃーユーリ君の手が消滅したー……とかやっといた方がいいのかな?」
「あはは……」
「お約束だな」
笑いながら言うセラにレアが苦笑する。オレもとりあえず笑っておいて、領域に侵入する。
防壁というかこうなると結界か。それ一枚向こう側はまさに別世界だった。
「「「「「「「「うわー」」」」」」」」
「ほー」
オレも含めた全員が感嘆の声を上げる。夏どころか灼熱を通り越した場所の先には、春の陽気を享受したような空間があった。すごいなリーズ。
リーフェットのグレイクレイ家をコピーしたようなネレの作業場と、大きめのコテージのような家。それに野菜や薬草の植えられた畑。のんびりした生活を送るのに最適な風景だ。
その家の前のティーテーブルで、予想外で予測内な人物が優雅にお茶を飲んでいた。
「遅かったですね、悠理」




