Connect 学生生活の終演
過剰な魔力が溢れ出し、暴風となって荒れ狂う。さらに、濁りきった魔力は周囲の者の魔力に混じり込んで意識を奪っていく。上級ダンジョンで起こるとされてはいるが、この規模まではありえない光景。しかもありえない場所。
立っていられるのは一定以上の力を持った者だけ。その半数は意識の無い者の救助を担当しているが、避難が間に合うかどうかはわからない。
「……外道が」
「全くです。吐き気がしますよ」
両王子は見下しと冷えきった目で周囲の光景を見渡す。ともすれば倒れている者達に向けられているように見えなくもないが、そんなはずはない。
「まあ、自分から豪語した以上はやってやるか。そのくらいの力はこれからも必要だろうし、こんなとんでもないものまで借りたからな」
第一王子が剣を構える。大剣のサイズを遥かに超えた破山剣を。
「そうですね。できることなら王国全土を守りたかったですけど。王都を空けるわけにもいきませんし、それは無色の羽根と水精霊の祝福に任せましょうか」
第二王子はユーリが置いていった大杖に魔力を込めていく。
辺りに蠢く黒い影。二人はそれらに武器を向ける。
「容赦はしないぞ。残念だったな」
「形は変わりましたけど、全力を見てもらいましょうか」
兄王子は得物の大きさを思わせることのない神速で踏み込み、弟王子は洗練させた魔法を多方向に向けて放つ。
王都での戦いが始まった。
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リブラキシオム王国の一都市。地方都市ではあるが、中核規模の街。そこにクースルー家はある。
『にげてーにげてー』
『むこうからきてるよっ』
『まだよゆうはある。あせらずともよい』
「みなさん向こうへ! 落ち着いて!」
精霊の声が聞こえるアーチェリア・クースルーはその声を伝えながら、避難の最前線と言える位置にいた。ともすれば人の流れに巻き込まれそうになるが、道の端でなんとかやり過ごす。
人波が途切れたので一息つく。それを待って彼に駆け寄る影があった。
「アーチェ。逃げ遅れた人はいる? 精霊はなんて?」
「チェルシー、まだ残ってたのか!? 早く逃げてって言ったのに!」
「貴方がいる場所がわたしの居場所。それはずっと変わらないわよ」
驚く夫の手をチェルシー・クースルーは強く握りしめる。その手の力がアーチェリアには歯痒く感じられてしまう。
精霊と話せ、その力をほんの少しだけ借りられる。ハーフエルフの自分の力はその程度でしかない。眼の前のパートナーは「それで十分」と言ってくれたが、もしこの場に街を壊しているものが現れれば。
「僕に精霊魔法が使えたら……」
『いいえ、アーチェ。もうだいじょうぶですわ』
慰めではない、励ましと安心を与える言葉が近くにいる水精霊から届いた。
時を待たず、風と共に一人の少女が二人の目の前に現れる。
「なるほど。お父さんの魔力と霊力はこんな感じ。お母さんはこう。覚えた」
「ティアリス?」
「ティアちゃん?」
自分の両親から視線を切り明後日の方向……否、精霊たちが示す方向をぼんやりと見つめながら、ティアリス・クースルーは呟く。
「これが無限色の翼の敵。なるほど。トンデモな人達が大仰な名前を名乗る理由はある」
『たしかに。ふつうのきしやまほうつかいではあいてになりませんわね』
ティアに力を貸す水精霊も同意の言葉を示す。
「ティアリス、どうして。ってそれ、槍? まさかあれと戦う気じゃ」
震える声を出す父親に改めて目を向け、娘は微かに笑みを浮かべる。
「ちゃんと魔法学院で成長した。そのワタシの力を見ていて欲しい。ね。水精霊」
『ええ。このていどのあいてにおくれはとりませんわ』
「で、でも」
心配そうな目を向ける母親に視線を移し、ニヤリと笑う。
「お父さんとお母さんの娘。クォーターエルフの力を見せてあげる」
二人に背を向け、ティアは歩き出す。魔力の影響範囲を超えたところで身体強化を強め、跳ぶ。
「ふ。ワタシの活躍をユリフィアスに見せつけられないのが残念すぎる……聞いてる? ユリフィアス? ユリフィアス・ハーシュエス?」
『……あいてがどういしなければきこえないんでしたわね。それ』
「やはり扱いが軽い! 敬意を要求する……!」
『どういしますけれど。ティア。あのこもいまは……』
「それとこれとは別!」
怒りで放たれた魔力が計らずも敵を呼ぶ。しかし、ティアにとってはいろいろと好都合だった。
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「父様! 僕も戦います!」
「ノゾミ、それは蛮勇だ。それに皆を守ることほど尊い行いはない。ハウライトの者として義務を為してくれ」
牛人族の街では、戦いに向かおうとするマコト・ハウライトにノゾミ・ハウライトが言い含められていた。
「皆を頼むぞ、ハクヨウ」
「承知いたしました」
敷地を出ていく主人の背に一礼し、ハクヨウはノゾミに向き直る。
「悔しいです、ハクヨウさん」
「私もです。しかしノゾミ様、生き残ることこそ最も重要なのです。私達でそのお手伝いをしましょう。奥様や子供たちのこともあります」
「……わかりました」
真新しい剣を握りしめ、ノゾミは唇を噛む。
もう少し早くその気になっていれば、自分も父の役に立てたはずなのに。いつの間にかずっと強くなっていた姉のように。
いつか自分が責任を持つことになるのかもしれない街に向き直り、ノゾミはさらに握り潰すほどの力で意味を持たない剣を握りしめ、
「……姉様、僕は」
「呼びましたか、ノゾミ?」
優しい声に振り向く。
そこに立っていたのは、ユメ・ハウライトだった。
「ねえ、さま?」
「はい。少し早いですけど、ただいま」
「おかえり、なさい?」
「……と言っても、これが片付いたら卒業式に戻らなければなりませんけどね」
なぜ今ここにいるのか。幻ではないのか。その髪の色は。どうして剣を。ノゾミの思考はぐるぐると迷走を始める。
「ハクヨウさん。皆さんを頼みますね。すぐ終わるとは思いますけれど……そうすると次に向かうことになりますか。全部終わったら一度立ち寄る余裕くらいはあるでしょうかね」
「え? は、はい?」
普段は冷静なハクヨウでさえ、ノゾミとさほど変わらない精神状態に陥ってしまっている。
二人に背を向け、ユメは魔力探知を展開。向かうべき敵を見定める。
「皆さんそうですけど……わたくしもわがままを言ったのですから、早めに済ませましょう」
道行く途中で怪我人に回復を使いながら、身体強化した力でユメは走る。足の動きもやることも、そこに躊躇いはない。
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狼人族の街。ここの様相も他と変わらない。
「ベニヒ!」
「っ、トールさん!」
ベニヒは人波をかき分けるようにやってきた夫に手を伸ばす。しっかりとその手を握りしめ、抱きしめ、人の流れに乗り直す。
「無事……だね。よかった」
「私のことより、大丈夫だったの?」
「あちこち混乱状態だけどね。なんとか」
トールの顔には疲労の色がある。自分よりは今のこの状況の理由を知っているかもしれない。
「一体何がどうなって……いえ、待って」
トールに事情を聞こうとしたベニヒの嗅覚に、もう一人の家族の匂いが届く。
「お父さん! お母さん!」
「アカネ!? え、なんで!?」
ガーネット家の娘は民家の壁を蹴りながら跳んできて、立ち止まった二人の前に着地した。
「無事で良かった。でもごめん、あんまり話してるわけにはいかないの。状況を収めて他にも行かないといけないから」
「え、ええ? どういうことだい、アカネ?」
腰に短剣を装備し明らかに戦おうとしている娘の姿に、父親は慌てる。
だが、返ってきたのは優しい微笑み。
「家族は自分の手で守らないと。それとね」
胸の前で握られる両手。僅かに上気した頬と潤んだ瞳。それで母親はすべてを察する。決して種族のことからだけではないすべてを。
「ユーリさんに頼まれたから」
「そう。行ってらっしゃい、アカネ」
「あ、ああ。なら仕方ない、のかな? え、ユーリさんと会えたの? いつ?」
「それはまたの機会にね」
両親に見送られ、アカネは逆方向へ走る。託された思いに応えるために。
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「まったく、こんなに早く戻ってくるとかどんな冗談? ホント迷惑ですよね」
「あはは。でもなんだかんだいい機会じゃない? 通信用魔道具も貰っちゃえたしさ」
銀髪の少女の呆れた声に紅髪の女性のなだめる声が返る。その間も火と炎が辺りに飛び交い、時に弾丸となり時に壁となって周囲の状況をコントロールする。
「減ってきたのかな。減ってない? どう思います?」
「最初に比べればそりゃ減ってるでしょ。そんなすぐには終わらないだろうけどさ」
帝都中央区。目に見える敵を斬り捨てながらも魔力探知でさらに黒い魔力が近づいてくるのがセラとフレイアの二人にはわかっていた。間断なく誘引しているのだから当然だが。
「それにしても、誘引ってコイツらにも効くんですね」
「うん。こうなるとホントに魔物なんだってわかるよね」
包囲網は狭まってくる。だが、人的被害は増えてはいかない。帝国の指揮系統と避難誘導が正常に機能している証拠だ。
「大きな声で言うとまずいけど、魔法剣がまともに使えるようになったしどの程度か試す機会も欲しかったんだよね。うん、まだ余裕があるなー」
「うえー。私もそう言えるくらいにはならないと駄目ですかね」
「まあこれからこれから。さっさと全部やっつけて次行こうか」
帝都での戦いは既に始まっている。この二人であれば、防衛戦の形ながらも一方的な殲滅戦になるだろうが。
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「どういうことだ!?」
「で、ですから、人間がまるで魔物のように変化したと……それも同じ報告がアエテルナ各所から」
「くっ、すまん。ただ、魔物に変化するなどとそんなありえないことがあるのか?」
「ですけれど、心当たりはあるような……」
頭を抱える自分の夫から目を離し、リーナは連想したものが何だったかを明確に思い出そうとする。
答えはすぐに出た。
「もしかすると、ユーリさんから聞いていた“魔人化”というものでしょうか?」
「っ、そうか。それか」
二人も概要だけしか聞いていない。当時は全く解明されていなかったこともある。それからも度々手紙のやり取りの中に話が出ることはあったが、実物を見たことはない。こうして報告が上がってきた今もだが。
「ともかく、住民の避難を。軍と……冒険者にも対応を依頼してくれ」
「畏まりました」
連絡をしてくれた魔族の青年が部屋から出ていく。
残されたのは、魔王夫妻だけ。
「大丈夫ですか?」
「どうだろう。あの時ほどではないが、今回は元が人か。となれば問題が違うな。政治や外交面で面倒なことにならないといいが」
ヴォルラットが思案に目を閉じた瞬間、
「ドーモ。失礼しますネ、魔王サマ、魔王妃サマ」
ある意味場の空気を読まず、少女が会議室に入ってきた。
資料でしか見たことがないリブラキシオム王国王立魔法学院の制服。だが、それを着ているのが誰かには心当たりがある。
「え、ミアちゃん? どうして? いや、どうやって?」
「たしか今日は学院間の戦技大会があると聞いていたけれど……」
エルシュラナ・レリミア。彼女がこの場にいることは外の事態以上の想定外だ。
「レヴさんに連れてきてもらいました。イヤー、速いのナンノって。さすがドラゴンですネ」
言われて見てみると髪や制服が乱れているし、表情にも微かな気疲れの色がある。じっくり見なければ気づかない程度だが。
「あ、ソレと。お二人には嬉しいコトに、アタシだけじゃないですヨ」
小首を傾げてウィンクしたミアのその後ろから、小柄な影が進み出る。深く被っていたフードを取ると、その顔が明らかになった。
「お父様……お母様……ただ今戻りました」
ニフォレア・ティトリーズ。この国の王女にして二人の娘。
十年以上も手紙でしか話すことのできなかった最愛の家族。
「ああ……お帰り、リーズ」
「お帰りなさい。待っていたわ」
ヴォルラットとティリーナはリーズに微笑む。が、今は抱きしめあって家族の再会を喜ぶ余裕はない。
「スタンピードの時は……力になれずごめんなさい……でも今は」
ユーリの使う空間圧縮。そのオリジナルの魔法が展開される。
ネレの打ち続けた無数の剣。リーズ自身の作り続けた無数の魔道具。世界各地に散った仲間が持っていった残りのすべてが放出され、完全停滞によって中空でその存在を誇示する。
「無限色の翼のニフォレア・ティトリーズとしても……責務を果たします」
「お、おお。これは……」
「これもまた愛の力かしらねぇ……」
共和国最強クラスの二人でさえ真っ白になって固まる。自分達の知る娘の姿とは大違いだ。いや、見た目は昔とさほど変わりないが。
「アハハ、アタシ要らないカナ? それじゃあ、他のトコロ行ってきますネ。ココは……お父さんとお母さんをお願いします、ティトリーズ様」
「承りました……他はお願いします……レリミア……貴女も念の為ネレさんの剣を」
「どーも。おー、すごいコレ。気合入りますネ。じゃ、行ってきます」
ミアは背中から吸血鬼の翼を生やして浮かび上がり、魔王城の窓から外へと飛び出す。
「では……お父様……お母様……行ってまいります」
リーズも、ゆっくりと城の外に向かって歩を進めた。
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レヴの背から飛び降り真っ逆さまに落下しながらも、アイリス・ハーシュエスは目を閉じたままだった。
思い出すのは死を間近に感じてしまったあの時。けれど今、心に闇は潜り込まない。
「……大丈夫。もう二度と折れない」
目を開き、防壁を展開。足を下に着地姿勢を取る。
ほとんど音も衝撃も立てず彼女は地面に降り立った。皆がそうしたように身体強化で走り出す。さらに大杖の補助も利用して防壁と放射で加速する。
ほどなくしてハーシュエス家が見えたが、
「あれ? 敵の魔力反応がない?」
減速しながら首を傾げる。家の前にはいつもと変わらないフィリス・ハーシュエスの姿があった。
「あらアイリス。助けに来てくれたの?」
少し離れた場所には、かつて王都で自分がそうしたのと同じ“切り刻まれた魔人だったもの”が転がっている。魔力の残滓のようなものは一切ないが、切り口を見れば何によるものかはわかる。ウォーターカッターだ。
「……お母さん、すごいね」
「貴女より二年も長くユーリから魔法を教えて貰ってたもの。負けるわけにはいかないじゃない?」
「ほんとになぁ。『なんの役に立つんだ』と思ってた昔の自分に教えてやりたいよ。木を切るだけじゃないって」
「……お父さんも」
持て余すように剣の柄をいじりながら帰ってきたアレックスにも、アイリスは苦笑する。
「ここはもうよさそうだし、二人に任せたらいいかな。じゃあ、わたしは他のところに行くね」
「おう、気を付けてな」
「がんばってね、アイリス」
両親に見送られ、アイリスは跳ぶ。その胸にはただ家族のみんながくれた光だけがある。
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ファイリーゼ領。ここも混乱の渦が襲っている。
アイルード・ファイリーゼとレインノーティア・ファイリーゼは屋敷や領都から逃げるように走りながら状況把握に頭を巡らせていた。
決して領民を見捨てたわけではない。避難の連絡は頼んである。むしろ現時点で彼ら自身が標的となっている為、これが最善手とさえ言えた。
「くそっ、どうなっているんだ!? 本当に狙いは私達だけか!? 領内の他の場所は!?」
「あれは……悪魔? ううん、そんなものこの世界にはいない。ユリフィアスくんならなにか」
二人が後方確認に振り向いた瞬間、別方向から一陣の嵐が吹き抜けた。暴風に顔を庇う二人が目を開くのとほぼ同時。はるか上から声がする。
『…………!』
その声は今一番聞きたかった家族の声かもしれなくて、二人とも空を見上げる。
見上げて、“家族の声かもしれない”ことと“空から声がする”ということに状況が頭からすっぽ抜ける。
「え、ルートゥレア? あれ?」
「どこか、らぁ!?」
上空。豆粒程度だった影が次第に人の形に見え始め、すぐに王立魔法学院の制服を着てマントを纏ったルートゥレア・ファイリーゼの姿に変わる。
「お父様! お姉様!」
多重展開した防壁を使って、レアは一切の問題なく二人の前に着地。そのまま水属性放射を放ち、二人を追っていた敵を押し飛ばす。
「え、いやちょ、レア?」
「うわあ。うちの娘、思ったより凄いことになってたんだなあ」
目を点にする二人を気遣うことなく、レアは大杖を構える。
「敵は魔人。魔物化した人間です。わたしがすべて引き受けますから、お父様とお姉様は住民の皆さんの安否確認と避難をお願いします」
「あ、ああ。わかった」
「よ、よろしくね、レア」
ある意味二人はドン引きしていたのだが、レアにその心の内は伝わらない。魔人の目線が自分に据えられたこともあるが。
「好都合、と言ってはいけませんけど……さあ、証明しましょう。わたしもユーリくんと一緒にいていいのだということを」
ここでの戦いもまた、始まろうとしている。それはただ“敵を殲滅する”だけのものではない。レアにとってはこれからの自分の価値と存在意義の証明そのものだった。
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『世界地図をもうちょっと詳細に作っておくべきだったね。火精霊たちを通じて精霊みんなが教えてくれてるけど、座標にズレがあるかも』
『リーフェットは先行して片付けましたけど、こんな広域に魔人を出せる準備があるとは思いませんでした。次に向かいます』
『ユーリのお父さんとお母さんのところは二人が大活躍だって。すごいね。わたしはもうちょっと掛かりそう。終わったらそっちに向かうから』
『レヴさんの担当範囲は……広すぎますから……シムラクルムはわたしとレリミアに任せてください……今度は必ずわたしの手で……守ってみせます』
『こちらは完了です。お父様とノゾミに後のことをお願いしました。エルフェヴィアさん、指示をください』
『こっちも問題なし。でも。少しは気にしろ。ユリフィアス。なにか言え』
『いやー、ネレさんの剣すごいネ。魔法剣のおかげもあるんだろうケド。アタシも探知範囲に魔人はいないカナ。次教えて下さい』
『狼人族の街も無事です。物的損害の修復はありますけど、なんとかなると思います。私も次に。エルさん、お願いします』
『帝都は問題ないよ。もうすぐ片付く。その後は別行動でも大丈夫だよね、セラちゃん』
『レヴさんも言ってたけど、うちの周りはお父さんとお母さんが頑張ってくれてたよ。すごいね。ユーくんがいてくれてほんとによかった』
『大丈夫ですよ、フレイアさん。しっかしうちの庭を気楽に荒らしてくれちゃってさ、まったく。あ、こっちはなんにも問題ないから気にしなくて大丈夫だよ、ユーリ君。殿下たちもやってるし、第二皇女として自分の国くらいは守ってみせますとも。いや皇位継承権放棄した身で第二皇女名乗っていいのかな?』
『こちらも問題ありません。お父様とお姉様も無事でした。でもこれくらいでは証明にはなりませんよね。セラみたいにお姫様じゃありませんけど、自分の国くらいは守ってみせます。ですからユーリくんは思う通りにしてください』
通信魔道具を通して様々報告が届いてくるが、全員無事なこと以外全てを把握している余裕はない。
今向かっている場に一刻も早く駆けつけたいが、そんな事をすればそれこそきっと呆れられてしまう。しかしそれとは別に、超広域探知で把握した魔人を片付けながら目的地に向かっているせいでとんでもなく蛇行するように動いてしまっている。取捨選択して見捨てる気はないが、方向感覚を失いかけで永遠にたどり着ける気がしない。これまで倒した魔人が何体になったかも覚えていない。
戦力分断はともかく、図ったようなタイミングがなんの因果なのかは知らないが……苛立たせることが目的なら大したものだ。
「道半ばには達したか……? あとどのくらいかかる?」
それ以上に、今のオレには焦りしかないのだが。
声が聞けるようになったからか。聞こえない事がこんなに不安に感じるとは。
「ララ! どうなってる!? くそ、答えてくれ!」
何度目の呼びかけかわからない。精霊が近寄れないという異常事態を聞いて以降、エルからもレヴからも続報らしきものはない。
プロメッサルーナの聖女からの言葉は、誰の耳にも届かない。




