Offstage “これから”の準備
女子会。
ユーリへの建前や誤魔化しでそういう体にしてはいたが、相変わらず作戦会議である。
ユーリはここにいる面々にとっては“ユリフィアス・ハーシュエス”だが、これから向かう場所では“ユーリ・クアドリ”としての顔が強い。アカネとフレイアだけはかつてのユーリを直接知っているが、アカネは言うまでもなくフレイアにとってもすでにユリフィアスとしての付き合いのほうが長くなってしまっている。
過去と現在。そこをどう埋めたり繋げたりするか。ユーリも考え続けてはいる事だったが、彼女たちの論点もほぼそれだった。
「これまでなんかこうふんわりと『ユーリ君についていく』って言ってたけど、押しかけるってことだよね。そんな余裕あるのかな」
本当にいまさらだが、セラがそんなことを口にした。
「余裕って、なんのですか?」
レアが首を傾げる。他の全員もいまいち要領を得ない顔をしている。無限色の翼のメンバーにかかるかもしれない迷惑はすでに議論を重ねてきたことだったからだ。
「いやまあ、役に立つのかとか人間関係とか色々あるし考えてきたよ? そこは考えてもしょうがないし頑張るしかないって答えは出したけどさ。そもそも私たちがいる場所……住む場所ってあるの?」
最後の一言でようやく全員が意味を察した。結果、全員が「初めて気づいた」という顔になった。
「そういえばそうだね。全然考えてなかった。ユーくんは小屋くらいならすぐ建てられるけど」
ハーシュエス家の風呂場を作ったのはユーリである。もちろん身体強化や道具の強化を併用した結果ではあるが。
しかし、家を建てるとなれば話はまた変わってくる。
「そもそもレヴさんやエルさんはどこに帰ったんでしょうか?」
「以前にうかがった話だと、エクスプロズ火山に居を構えていらっしゃるそうです。その時はネレさん、レヴさん、リーズさんの三人で住んでいらっしゃると。今はエルさんもでしょうかね」
アカネとしても、そこまで詳しい話は聞かなかった。ネレが鍛冶師でリーズが魔道具師ならそれぞれの工房があるのだろうという予測をしているくらいである。
「そこにユーリと私とアイリスちゃんとセラちゃんとレアちゃんとアカネちゃんか。それにたぶん遠からずソーマ様もだよね。これだけでも多いけど、ユメちゃんとティアちゃんとミアちゃんはどうするの?」
フレイアが話を振ると、三人はそれぞれ考える様子を見せた。が、答えはすぐに出る。
「わたくしはステルラに戻りますね。もちろん、お邪魔させていただくことはあると思いますけれど」
「ワタシは一時的に身を寄せるかもしれないけど。エルフェヴィア姉に話を聞いたらすぐに旅に出ると思う。修行も兼ねて」
「アタシはどうなんだろうナー。シムラクルムでティトリーズ様と魔王様の連絡役カナ? ユメちゃんみたくお泊りするコトはあるだろうケド」
三人の返答を聞いて、セラは指折り人数を数える。
「合計十一人と状況によって数人。まあ、ユーリ君の実家でも泊まれたから大丈夫なのかなぁ。どんな家に住んでるんだろうね、ネレリーナさんたち」
「さすがにお屋敷みたいなトコロじゃないよネ」
「でも、エクスプロズ火山って魔物領域で高温領域だよね? そんなところにどうやって住んでるのかな?」
アイリスの当然の疑問に全員が首を傾げる。
「ドラゴンの力で。魔物を遠ざけられるとか」
「可能性はありますけれど、それならスタンピードの魔物にもなんらかの影響があったのではないでしょうか?」
「だとするとティトリーズ様の魔道具じゃナイノ?」
「あー、ユーリ君がティトリーズ様のこと『天才だ』って言ってたっけ。ならありえるのかな」
だとしても、とんでもない話だ。魔物を遠ざけられるとすればもしかするとダンジョンさえも居住領域に変えてしまえるのだから。
「大丈夫かなあ、私達。ユーリの仲間に張り合える?」
「自信はないですけど……やるだけはやります」
「そうだね」
「一番になれるとは思っていませんけど、それでも」
「私には関係ない話だけど、応援するならこっちかなー」
「アイリスさんとアカネさんとレヴさんを天秤にかけるつもりはありませんから、どうしましょうか……」
「やはり。この世の諸悪の根源はユリフィアス。きっとそう」
「アハハ、最近ある意味ソレも合ってるんじゃないかと思えてきたカナ」
女子会の時間は過ぎていく。
どれだけ議論を重ねても、実際その時にならなければわからないことはいくらでもある。だからといって最後の一線を譲る気も譲らせる気も彼女たちにはない。それこそユーリの言う“魔法使いとしての在り方”でもあった。




