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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第四十八章 卒業パーティーの前に

 魔法士団の演習場。オレが土の魔法士とやりあったり全力の超音速貫通撃オーバーソニックスラストを空にぶっ放したりした場所に無色の羽根(カラーレス・フェザー)水精霊の祝福ブレス・オブ・ウンディーネの面々が並んでいた。オレと姉さん以外のメンバーの胸には真新しい法士爵の徽章が輝いている。


「うーん、なんだか押し付けられた感じもするような……」

「でもこれでユーリくんと一緒ですねっ」


 セラは微妙な顔をしているが、レアは満面の笑顔だ。


「ですが、わたくしたちまで頂いてよろしいのでしょうか?」

「貰えるものは貰っておく。特にこれは実力証明。大事。アイリスやユリフィアスに負けていないという意味でも」

「そうだネ。それに国家間の友好の証ってことでいいんじゃナイ?」


 ユメさんもセラと同じような困惑顔、ティアさんはこれ以上ない満足顔、ミアさんはレアと同じような笑顔だ。

 そうか、他国籍の人が王国の影響力を得るっていうのも微妙なところがあるのか。


「クースルーさんのおっしゃる通り実力証明程度のものですよ。法的拘束力もありませんし、エルシュラナさんのおっしゃる通り友好の証ともお考え下さい。それに、王立学院の優秀な生徒達を何もなしで卒業させるのも損失ですからね。そういう打算もあります」


 リーデライト殿下は微笑みながら言った。

 とは言え、実力証明である以上みんなちゃんと士団の魔法士と戦って実力を示している。貰った徽章は飾りではない。

 が。


「殿下、以前頂いたマントはお返しした方がよろしいでしょうか? アレはさすがに意味合いが異なると思うのですが」

「あれですか。持っていてください。きみなら悪用もしないでしょうし、何かの役にも立つでしょう」


 ほんとに、オレへのこの謎の信頼は何なんだろうな。悪用どころかララが来た時の一件で使っただけなのも事実だが。


「さて、法士爵の授与はこれで完了です。みなさんお疲れさまでした。次に移ります」


 今日の本題。何をやるかは事前に聞いているので、さっさと舞台脇へ引っ込む。そこには私服のフレイアがいた。


「……お疲れ様、みんな」


 囁きにそれぞれ頷きで返す。声を出せば場に水を差す事になりかねないからな。


「アンナ・アースライト」

「……はい」


 フルネーム呼びとやや硬めな返答。緊張はしているようだが、それでも胸を張ってアンナさんは殿下の前に歩み出る。


「フレイア・ワーラックスの勇退に伴って貴女を第三隊新隊長に任命します。受けて頂けますね?」

「謹んで拝命致します。リーデライト・リブラキシオム殿下」


 深い拝礼の後、殿下に促されたアンナさんは団員達の方に向き直る。上がった顔には覚悟が浮かんでいた。


「わたしはフレイアさんほど強くもないですしまっすぐ歩けもしませんが、精一杯努めていきます。よろしくお願いします」


 一礼にぱたぱたと拍手が起こり、伝播して広まっていく。渋々といった様子の魔法士もいるがそれは少数。アンナさんの隊長就任は好意的に受け入れられたようだ。よかったよかった。


「……がんばれ、アンナ」


 静かな拍手をしていたフレイアの口から漏れた言葉は、これ以上ない激励の思いに溢れていた。



 その後軽い祝賀会となり、懇親会の時と同じようにフレイアと姉さんが士団の魔法士達に囲まれていた。加えて、他の女性陣も。

 これまでの労いかと思いきや聞こえてきたのは「結婚」や「交際」を意味する言葉と謝罪や断りの言葉。何だそれは。

 まあ、みんな強力な魔法使いだから同じ職業の人からは魅力的に見える、のかな? 各々美人でもあるし。

「はは……皆さんも大変ですね」

 笑ってるけど、殿下もそういうことを考えなきゃいけない年齢なんじゃないのかな。いや、王族なんだから婚約者はいるのか?

 レアもなんかそういう話をしてたな。いやでもレインノーティアさんは選びかねてるみたいな話だったよな。レアも自分に婚約者はいないって言ってたっけ。

 って、それを口に出すのはそれこそ下世話か。蹴り殺してくるような馬はいないけど。


「それでですね。このタイミングもどうかと思うのですが、ユリフィアスくんには兄さんからお呼びがかかっています」


 ふむ。お呼び。


「エルブレイズ殿下からというと、勝負の件ですかね」

「ええ。ただ、予想以上に面倒なことになってしまっていますよ」


 予想以上に面倒なことってどんなことだろうか。さすがに命の取り合いを提案するような人じゃないしそれはないよな。

 近くの団員に一時の中座を告げた殿下と場を離れる。途中目があったフレイアに救助要請のような視線を返されたが、アンナさんの方を示し返しておいた。「新隊長の激励が主題で義務だろ」という意図は伝わったかな。

 リーデライト殿下の後を歩いてエルブレイズ殿下の執務室へ。ノックをして中に入ると、今日も書類整理をしていた。

 豪快な性格の割に机仕事も卒なくこなすんだよな、こっちの殿下も。


「……なんか失礼なこと考えてないか、ユリフィアス」

「いえ、文武両道だなと……いや、たしかに失礼ですか」


 こんなの、「デスクワークがダメに見える」って言ってるのと同じだからな。けど、本人には笑われてしまった。


「そういうことなら失礼にはならんさ。騎士学院にいた時にも言われた。『仕事ができるように見えないのに詐欺だ』ってな」


 そこまで明け透けに言い合える相手がいるのなら幸福なことだろうな。ある程度はそう見せている面もあるのだろうが。


「それでリード、話はしたか?」

「いいえ。兄さんが決めたことなら御自分で話すのが筋でしょう」

「そうだな」


 丸投げというわけでもないだろうが、今回の話はリーデライト殿下にとって頭痛の種なのは間違いなさそうだ。本当にどんな面倒な話なのやら。

 話を待っていたら、エルブレイズ殿下がニヤリと笑った。


「学年の頭に対抗戦があっただろ。卒業前夜祭としてアレを拡大する。騎士学院と魔法学院合同で誰が強いか決めようかってな。そこに俺たちも混ざることにした」


 それはまた……大層なことを。

 暗殺の企図がある輩がここで仕掛けてくるようなことはないだろうが、危険には変わりないと思うのだが。予想以上に面倒なことってこれか。


「大丈夫なんですか?」

「心配してもらうのはありがたいが、この程度で危険はねえよ。じゃなきゃ騎士団は纏められん」


 エルブレイズ殿下の力はあの時見させてもらった。たしかに問題はないか。魔人とも素でやり合えそうだものな。


「ていうかだな。どうも俺たちの顔が売れてないらしくてよ。オマエもギルド試験のときに見ただろ? いい加減何とかしないとマズくないか? 顔が駄目なら力の方はもっとだろ?」

「僕としては“力を見せびらかす”というのは良くないと思うのですけどね。ただ、きみたちもいなくなることですし、兄さんの言も一理あるかなと」


 リーデライト殿下は困ったような顔をしてはいるが案外乗り気のようだ。

 甘く見られることの面倒さは入学試験以降のあれこれでオレもよくわかる。上に立つ者としてある程度は威厳を示すことも必要だろう。


「いい加減オマエはこういうのは辞退しそうだからな。前もって言っておけばそうはならんだろ」


 そうだな。いい加減そういう力比べは不要だし余分だと思っているのは事実だ。

 それでも一度した約束を違える気はない。エルブレイズ殿下の思いも理解不能とは言わないし。


「わかりました。逃げも隠れもしません」

「礼を言う。俺にもリードにも気は使うなよ?」

「いやいや。僕には手加減をお願いします。きみなら言わなくてもしてしまうでしょうけど」


 これでイベントが二つに増えたな。王都を去るまでもう幾ばくかか。最後のお祭りは楽しみにしておこう。


「ああそうだリーデライト殿下。エルブレイズ殿下も。こういうものがあるんですが」

「……前も気になったがどういう魔法だそれ」


 空間収納から瓶詰めを取り出すと、エルブレイズ殿下が訝しげな目で見てきた。


「魔法使いにとってオリジナルの魔法は秘匿するものですよ、兄さん」


 と言いつつ、リーデライト殿下も驚きと興味の混ざったような顔をしている。そう言えばこっちの殿下の前で見せたことはなかったな。


「今回はそれが主題ではないので。お世話になったお礼がなかったので、役立つかもしれない技術の一つくらい残していこうかと」

「そのカラカラの干からびた野菜と果物をか? それならそっちの魔法のほうがいいが」


 空間圧縮魔法への食いつきが凄いな。まあ、これがあればオレが書いたこのレポートも必要無くなりはするが。


「……魔法の方は再現性がないので勘弁してください」


 こっちの製造についても再現性があるかはわからないけどな。


「保存糧食の作成と備蓄についての概論です。前々から考えてはいたんですが、魔法学院のカークス先生との話の中で出たので先に報告しておこうかと」

「なるほど。読ませてもらいますね」

「ならオレは食う方にしよう」


 リーデライト殿下は紙の方を受け取り、エルブレイズ殿下は瓶の方を受け取る。


「……毒見は要りませんか?」

「笑えることを言うなよ」


 言葉通り笑われた。

 ほんとに信頼されすぎてる。毒はなくても腹を壊す可能性は、ってそれだと毒味の意味はないか。


「これは興味深いですね。風魔法による乾燥と魔法の消去による容器内の虚空化ですか。味や食感の方はカークス先生の主観となっていますが別物ですか」

「いや、実際別物だな。糧食の乾物はそこそこ食うが、あれよりはるかに水気が少ない。野菜の方は酒にも合いそうだ」


 乾物といえば酒のアテの代名詞だったな。海産物があればそっち方面もできたか。糧食には向かないから考えなかったけど。


「しかし瓶の重量が嵩むので運搬には不向き……ああ、そちらは金属缶等で代用可能と」


 この世界だとアルミやステンレスは無いが、武具にも使われる魔物素材の合金で耐腐食性は確保できる。缶詰も不可能じゃないはずだ。

 欲を言えばレトルトパックができれば一番いいんだろうけどな。プラスチックの生成知識はないから密閉できる袋は存在しない。軟性合金はあるから圧延して金属ホイルみたいなのは作れるのかな。耐熱や耐火性の布に染み込ませてパチモノとか。


「両士団での需要を満たすかはわかりませんし、これまで頂いたものに対するお礼になるかはわかりませんが。どうぞお収めください」

「いえいえ。ここからさらに魔法士団で研究を進めますよ、って兄さん」

「ん? おお、ほとんど食っちまった」


 気持ちはわかる。物珍しいのもあっただろうが、スナック菓子とかわりと食べちゃうからな。これ自体も野菜チップスと変わらないし。


「一応残ってるだろ、ほら」

「まったく……ふむ、たしかにいいですねこれ。兄さんの言うとおりお酒に合いそうです。夜番の差し入れにも良さそうですね」


 レポートをエルブレイズ殿下に渡し、リーデライト殿下も躊躇いなくサンプルを口に入れて頷いた。なんとなく頭に浮かんだが、“貴族のお嬢様がジャンクフードにハマる”みたいな漫画があったようななかったような。さすがにすぐに恰幅が良くなるようなことはないだろうけど。


「さて。本題とハーシュエスくんのお土産で居座りましたけど、こんなところでしょうかね。せっかくのお祝いを中座しすぎるのも良くないでしょう」

「祝賀会を途中で抜けさせて悪かったな。しかし、ワーラックスが辞めて後釜がアースライトか。潰されないか?」


 直接的表現ではあるが、“何から”かについてはぼかしているな。この二人なら完全に把握してるんだろうけど。


「その辺りは僕もフォローしますから大丈夫ですよ。たぶん必要ないとは思いますけどね。ユリフィアスくんはどう思います?」

「実力もありますし真面目ですし芯も強いですし大丈夫でしょう。細かい押しには弱そうですけど、そこも遠からず跳ね除けられるようになるんじゃないですか」


 なんだかんだで上級ダンジョンアタックもやり遂げたし、アンナさんの力は十分だと思う。問題はその時の事とか隊長を内辞した時の押し切られ方だが、無理難題をふっかけられるようなことが続けば断り方も覚える……よな?

 その辺りは宣言通りリーデライト殿下が目を光らせるか。


「二人共絶賛だな。そうかそうか」

「力試しはやめてあげてくださいよ、兄さん?」

「心配しなくてもワーラックスの時みたいに行かないのはわかってるさ」

「ならいいですけどね」


 ん? ていうことはフレイアとはやりあったのか?

 その話も聞かなかったな。勝ったのはどっちだったのか。

 興味はあるが聞いていいものでもないか。



 ちなみに。


「うう……ユーリが見捨てた」

「わたしユーくん以外に興味ないのに……」


 戻って来たらフレイアと姉さんがへたり込んで項垂れていた。他の皆も空気が暗く、アンナさんが積極的に世話を焼く羽目になっていた。

 ここまでのバイタリティーが士団員にあるとは思っていなかった。そのつもりは無くても悪い事したな。

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