Connect 転生者の逡巡
ぼんやりとしていると当然授業は右から左に流れていく。今やっているのは魔法理論なので、ポイントさえ押さえておけば末梢は問題ないだろう。
緊急クエストは対象がヴェノム・サーペントからドラゴンモドキになってしまったことで立ち消え……というわけでもなく、スプラッタホラー現場にはヴェノム・サーペントの魔石が転がっていたのでそれで完了となった。混沌の件を除いたすべてを聞いたアカネさんは心底頭の痛そうな顔をしていたが。
ギルドランクアップの方は、短い話し合いの後に保留ということになった。上位ランクのパーティが撤退させられた魔物をFランクの学院一年生がほぼ単独で討伐した上、再度異常進化させられた個体を瞬殺したなどと信じられる人間はいないだろうというのが一つ。いきなり三段跳び以上で駆け上がるのは良くないというのが一つ。レアとセラとの乖離が明確化されてしまうし、二人もランクアップを固辞したというのが一つ。そのためパーティのランクがおかしくなる、という等々が積み重なった結果だった。
と、あとは「名前が売れるのは嫌だ」とも言ったのだが、「それはもう手遅れだ」と言われた。たしかにそうかもしれない。余談だが、姉さんはそれら諸々まとめて不満そうだった。一番不満な顔をしていたのはオレ達のパーティーに参加できないという話のところだったが。
それはそれとして、今回痛感したのは装備の貧弱さだ。もちろんヴェノム・サーペントへのトドメが遅れたのは別の問題だが、それにしてもあそこまで魔法を重ね尽くさなければならないのは今後のことを考えると危険な場面がいくらでも出てくるだろう。
想定していたタイミングとは違うが、“翼”のメンバーと会って前世の装備を回収する必要があるかもしれない。
せめて全盛期を超えてからでないと転生した意味がないと思っていたが、やはり強すぎる装備に意味がないということはない。魔力を通すのに気を使う武器ばかりではそこに割く気の分が無駄だ。それを王都に来てから嫌というほど思い知らされた。残してきた理論がどの程度形になったか興味が湧いてきたのもある。
……断じてかねカネ金の現状に嫌気が差したわけでは、ない。技術と資金力を使えば今までオレが使ってきた魔法が子供の遊びになるとしても。
それに、よく考えると今の情勢や勢力図も全く手元にないのだからその辺りを知ることも必要かもしれない。
と、なんの言い訳なんだろうなこれは。情けない姿を見せたくない男の子の意地というやつだろうか。
教科書を指で弾いて思考を切り替える。
……まあ、なるようにはなるし、どうにかすることを諦めるのは許されないか。
少なくとも今は無理だ。最低限長期休暇にでもならなければ遠出はできない。そもそも、周囲がそれを許してくれるかもわからない。
タイミングを見極める。それまで研鑽を欠かさない。今できるのはそれくらいだな。