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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第四十七章 学術と知識と経験

 クラスメート達の成長は見届けさせてもらった。レアとセラもそうだが、成長速度で言えばオレよりずっと上だな皆。今の所その気配はないが十字属性クアドリクスの時みたいに伸び悩んだらどうしようかと思わされてしまった。

 黄昏れるわけではないが、そんなクラスメート共にこの校舎とももうすぐお別れか。そう思ったらちょっと歩き回りたくなってしまった。たった一年の付き合いなのにな。


「お、ハーシュエス。ちょっといいか?」


 今まで行ったことない場所でも探して全部目に焼き付けようとしていたら、男の先生に呼び止められた。見覚えがある顔だ。


「ええと……ルート先生」

「はは。やっぱりお前にとっては有象無象の一人か俺は。仕方ないが」


 いや、そういうわけじゃないんだが。それを笑いながら自分で言えるのはいい性格をしている。


「先生の授業を受けたのって数回ですよね」

「……そういやそうか。一年だったな、お前。時々忘れちまう」

「いえ、こちらこそすんなり名前が出てこなくてすみません」


 三世二界、名前を覚える必要のない人もいたしそもそもその意味のない人も結構いたからな。流石に何回も聞かされて覚える羽目になったものもあるが。

 ルート先生は“共闘魔法学”の講師で、魔法使いにとって聞く価値のある講義をしていると思っていた先生の一人だ。年齢は転生前のオレよりやや上で一時魔法士団にも席を置いていたとか。だからか割と柔軟な発想の講義をしている。

 ただまあ、講義内容をオレが役に立たせられるかは完全に別の話になってしまうのだけれども。


「お前とは一度話をしてみたいと思ってたんだが、延び延びにしてた。来年以降もあるかってな。それがここを出ていくって? 間が悪いことにその時職員室にいなくてな。それからは色々と忙しくて時間が作れなかった。今いいか?」

「構いませんよ」


 一見なにかのお礼参りかとも思うが、魔力の感じからそうではないし、そんな先生でもない。

 それに、最近無色の羽根(ウチ)のパーティーメンバーは女子会で出払うことが多い。“秘密”を話したせいで避けられているのだとは思いたくないが、時間は割と余っている。


「ま、廊下でする話でもないな」


 ルート先生は手近な教室のドアを開いてオレを手招きした。後に続いて入る。


「ああ、ドアは閉めなくていいぞ。堅苦しい話や疚しい話をする気はない。むしろ入って来て話に参加してもらいたいくらいだ」


 ふむ。雑談じゃなくて討論みたいなことでもするのかな。なら言われた通りにしておくか。

 ルート先生はさっさと窓に近づいてゆっくり開け放った。そのまま窓枠に肘を置いて息を吐く。なんか……絵になる行動をする人だったんだな。

 気持ちの切り替えだったのか、ややヘラっとしていた表情は改めて向き直った時には真剣な表情になっていた。


「面倒くさいからはっきり聞くが、俺の講義は面白いか?」


 で、いきなり本当に単刀直入に来たな。でもこういう直球は嫌いじゃない。


「興味深くはありますね」

「やはり参考にはならんか」


 誤魔化す気はなかったのだが、笑われてしまった。

 共闘魔法学自体は面白い。名前通りの集団戦闘の戦い方から始まり、魔法と魔法の起こす相乗効果と相殺効果。状況によるその加減乗除。魔法使いの頭の使い方を拡張させるに十分だ。ホルンとリュフィが使った土から砂へ(サンディング)大地を川に(ターンリバー)の組み合わせもルート先生の講義から着想を得たのだと思うし。

 二人が成長してあれを拡大すれば、戦場そのものを底なし沼にだって変えられる。混合ミキシング三叉槍トライデント至上主義の先生達は一人でできると鼻で笑うだろうけどな。


「いえ、参考にはなります。ただ正直オレは混ぜ合わせるのに向いた属性じゃないので」

「“風”か。確かに偏向した今の魔法論理じゃあお前を理解できないだろうな」


 既にオレの魔法属性は公然の秘密らしい。騎士や侍や十字属性クアドリクスとしての姿で曖昧にしてたつもりだったんだが、ここ最近風殺石を持ち歩く奴が増えた気がする。

 まあ、風殺石でどうにかなる段階はとっくに過ぎたからどうでもいいんだけどな。


「もちろん、魔法の後押しをすることはできますしやった事もあります。集団戦闘の経験もあります。でも多分、オレが役立てられないのは単純な問題なんじゃないかと」

「ほう。どんな問題だ?」


 ルート先生は腕を組んでニヤリと笑う。これはオレの考えている“問題”を把握してる顔かな。


「この学院の卒業後の戦闘職進路としてあるのは魔法士団や冒険者でしょう。小隊やパーティーという構成はそもそもが多対一か多対多を想定していますよね。この世界の強敵と言えばダンジョンボスや高ランクの魔物でしょうけど、それについても士団は数で押すことができますし、冒険者であればパーティーや同盟ユニオンで数的有利を作れます。そもそも命令やランク制限で格上に挑むことはほぼ無いはずですし」

「そうだな」


 基本的に軍隊は単独行動することはないだろう。斥候であっても後方には本隊がいる。羆に出会った一般人みたいな状況になる可能性があるのはソロ冒険者くらいだろうが、それはまあある意味天命みたいなもの……と言うと最低な物言いか。


「オレは根本的に一対多の瞬時決着を想定した実戦魔法使いですからね。姉さんやレアやセラに教えてきた魔法の使い方もそういう傾向があります。先生の分野とは相性が悪いのは否めないです」

「なるほどな。確かに俺の講義分野の真逆だ」


 そこまで言い切ると、ルート先生は満足そうに頷いた。


「孤立した時の話は今後するつもりでいたがな。たしかに一人で戦うやり方と時にはその覚悟も必要だな」

「孤立して一人で戦うなんて最悪の状況下でしょうけどね」

「そうだな。不利な状況の継戦なんざほぼ最低に近い悪手だ」


 そもそもオレの原点自体がソロの冒険者だからな。だからその立場で物事を考えてしまうが、背中を預けて戦うのが最良。つまり発想として間違ってるのはオレの方だ。

 ただ、フレイアの一件があるだけにそういう力も必要だというのは実感に近い。その後の状況悪化とさらなる逆転劇は幸運としか言いようがないだろうし。


「難しいのはわかっていますけどね、訓練として危険な橋を渡らせるのは。特に教育機関だと言語道断でしょうし」

「ああ。その辺りでお前も苦労してるのはなんとなくわかってた。一対多……たぶん起こせるだろ、スタンピード」

「あえて否定しますけど、不可能ではないでしょうね」


 冒険者としては常識だからな、ダンジョンスタンピードは。原因は単純で、ダンジョンに過剰な魔力が供給されることだ。主に人死にが続くことが引き金になるが、マナポーションや魔力結晶、あるいは魔石でも起こせるだろう。「ゴミ箱代わりに使ってたら起きた」なんて与太話もあったな。

 だが、罪ではないとは言え意図的に起こしていいものでもない。たとえ止められるとしても。

 ……アエテルナで起こったものも、もしかすると。可能性はあるな。高さ細さを区切らなければどんな可能性でもあるが。


「『不可能ではない』か。『できる』と言い切っても咎めやしないけどな。お前がやるわけないか」

「やれてもやりませんよ。リスクが大きすぎる。でも、まるでやる人がいるみたいな言い方ですね」

「ああ。昔そんなやつがいたって話は聞いたことがある」


 意図せずそうした奴はオレも知っている。仕向けられたのと自業自得と両方だろうが。

 ルート先生の言っているのもそれかもしれないな。士団にいたならフレイアとも関わりがあったはずだし。


「しかし、その歳で一対多か。いや、もし誰かを助けようとすればそういう状況にもなるのか」

「ですかね」


 救援が必要な状況なんて作る気はないが、あり得ないとは言い切れない。その場合、風魔法使いのオレが本気で動いたら誰も追いつけない。


「まあ、お前みたいなのは足並みを合わすのにも気を使うからな。お前なら一人でもやっていけるだろうし、いつかそれで無理が来ることも分かってるだろうけどな。気を付けろよ。意外なタイミングで足元を掬われるかもしれんぞ」

「いえ、こちらこそありがとうございますルート先生。今後の参考になりました」

「教育者としての体裁が保てて何よりだ。できることならこの話を誰かに聞いて欲しかったが」


 ルート先生はそう締めて、愉快そうに笑った。

 ティアさんにも言われたな。「人に甘えることを覚えろ」って。なんでもかんでも自分で解決しようと考えるのはオレの悪い癖なのかもな。

 スタンピードの話からだろう、フレイアに言った言葉も思い出す。「全てが焼き尽くされた荒野に独りで立って笑えるならその復讐をすればいい」だったか。たった一人でも世界を守るつもりはあるが、進んで一人になりたいわけでもない。その辺りを自覚して仲間とも付き合っていかないとダメだな。



「やあやあ、ユリフィアス・ハーシュエスくん。ごきげんよー」


 翌日。別の先生に呼び止められた。

 カークス先生。話し方通りののんびりした性格の人だ。親しみやすいので学生からの人気もそこそこ高い。


「ルート先生から聞いたよお。ボクともちょっとお話をしてほしいなあ」

「構いませんが……他に使用者のいない属性のオレの意見って参考になります?」

「なるよお。ルート先生とも話したけど、キミがいる内に風魔法の体系について一つくらいまとめておこうかってねえ。在野なら風魔法を使ってる人もいるだろうからねえ」


 そういう事なら吝かではない。さすがにすべてを話す気はないけどな。


「ボクの研究題材は知ってるう?」

「魔法の生活利用ですよね」


 カークス先生の担当は“生活魔法学”。こちらもまた聞いておくべき講義の一つだな。何をするにしてもそういう方面の魔法の活かし方は知っておいた方がいい。常日頃からレアやセラにも言ってることだ。


「せいかいー。で、きみはどういう風に使ってるのー?」

「よくやってたのは物の乾燥ですかね。入浴後とか洗濯物とか。それ自体は水でもできますけど」


 風でできるのは除湿乾燥と熱風乾燥か。水分を奪うのは水なら楽だし、水気の温度を上げればほぼ同じことができる。熱湯にしてしまうと布地にダメージを与えるけどな。

 今は学院がある程度面倒を見てくれるので必要はないけど、卒業後にはまたそういう使い方をする事になりそうだ。


「ふむふむ。でもさすがにそれだけじゃないよねえ?」

「あとは居住空間の室温調整や清浄化くらいですかね。案外生活には使ってないです」

「ほんとかなあ?」


 カークス先生はニヤけながら首を傾げるが、たしかに嘘だな。

 ただ、高地トレーニングもどきとか高重力トレーニングもどきとか周辺の魔力元素の調整とか、説明もしにくいし詳らかにできないものをやってるくらいで特別生活に活かしはしてない。身体強化や探知は風魔法に依存するものでもないし。

 そもそも、オレ自身は魔法が無くても生きてきた世界の住人だった。普通に生きている分には魔法を使わなくてもどうとでもなるからな。


「そうなのかあ。でも周囲の環境は結構重要だねえ。病気のときなんかにも良さそうかもねえ」

「ですかね」


 そういえば病院だと温湿度環境は結構重要な要素だったか。風魔法ならエアコンや空気清浄機の代替は楽にできるな。

 となると、回復魔法やポーションで病気をどうにかしてる状況も風魔法が傍流になっている要素の一つになるのかな。たとえ病院が一般化しても、魔道具でどうにかできそうだしそうしないといけないだろうけど。


「あとは乾燥かあ。食べ物とかも行けるのかなあ?」

「ええ」

「そうかあ。じゃあこのパンとかも大丈夫なのお?」

「いや、乾燥パンはちょっと食べられたもんじゃないかと……」


 乾パンってあったけどさ。アレってビスケットだろうからなどっちかと言うと。っていうか、サンドイッチを携帯食みたいに持ち歩くのは止めたほうがいいと思う。

 空間収納から瓶詰めをいくつか取り出す。定番の干し肉。野菜フライを乾燥させたチップス。それにドライフルーツにしたリンゴ、ブドウ、オレンジ。野菜や果物はそれそのものではないがほぼ同じものだ。バナナやマンゴーに似たものもユーリ・クアドリの頃の放浪時に見た記憶があるが、王都にはなかった。アレはどこだったかな。


「乾燥させるならこんなところですかね」

「ほう。ほうほう。ほうほうほう! これ、貰ってもいいかなあ?」

「どうぞ」

「ではでは……おっとお」


 蓋を開けるときに破裂音がする。そうか、真空保存もやってたっけ。


「ではいただきますねえ。ふむ。ふむふむ。ふむふむふむ! これはいいですねえ!」


 料理については完全な門外漢なので、もう少し上を目指せる気はする。比較できない肉はともかく野菜や果物は品種改良が繰り返されたものを食べてたわけだから、この世界だと完成されるのはまだまだ先になるだろう。

 ただ、水分が抜けた食品はそれだけで普通より強い味を舌に感じさせてくれるし、食感も変わる。それは生とはまた違った感覚だろう。


「肉もそうですし野菜の方もいいですけど、特にこの果物を乾燥させたやつ、いいですねえ。これだけで風魔法を使えるようになる価値がありますよお」

「さっきも言ったように水魔法でもできますけどね」

「いいえー。これは水では無理ですねえ。同じような物を食したことはありますけど、もう少し柔らかかったですからねえ。このパリパリとした感じと強い甘みは面白いですよお」


 柔らかかったか。乾燥が甘かったか湿気ってたということかな。あるいは水だと湿度以下にはできないとか、もしくは水分に対する認識が甘かったか。色々可能性はあるな。


「いやいやありがとうユリフィアスくん。これこそ生活魔法の極地ですよお」

「極地は言い過ぎでは」

「いいえー。見た感じ半分くらいの重さで大きさは三分の一くらいですかねえ。保存食としてはもちろん、輸送のことを考えても革命ですよお」


 そこに気付いてしまったか。ならさっさとあの人にも伝えておかないといけないな。


「せっかく法士爵を頂いたのに魔法士団への功績が無いので同じ物をリーデライト殿下に献上してみようかと思ったんですが、そちらが先になっても構いませんか?」

「おー、なるほどお。了解ですよお。たしかに行軍の糧食としても有用でしょうねえ。よろしくお伝えくださいー。そうだ、ルートくんにも教えてあげましょうかねえ」


 カークス先生はニコニコしながら瓶を掲げる。そういえば真空状態が解除されて空気が入ってるな。


「カークス先生。その瓶詰めですが、一度開けてしまうとあまり保たなくなってしまうので早めに召し上がってください」

「ほう。了解しましたよお。ありがとうございますユリフィアスくん。宴会宴会ー」


 先生は瓶を抱えてスキップしながら行ってしまった。

 なんだか話が投げっぱなしだった気がするが……とりあえず風魔法による食材の乾燥と真空処理をレポートにまとめておくか。喜んでくれるかな、リーデライト殿下。



「ユリフィアスくん、今よろしいですか?」


 さらに翌日、今度はリレヴィス先生に呼び止められた。千客万来極まれり。


「ルート先生やカークス先生から話をうかがいまして。私も今後の相談に乗って欲しいのですが」

「わかりました」


 でも、生徒の次は先生方からも色々あるのは当然か。なんだかんだで残ると思われてたのかもしれないし。

 しかし、最近身内からはハブられ気味な気がする。このまま卒業を迎えて大丈夫なんだろうか本当に。ギクシャクしないだろうな。


「それで、今後の相談って何についてです?」

「来期からのクラスの皆さんの成長方針についてでしょうか。もちろん、成績次第で顔ぶれが入れ替わることもありますが」


 原則としてはそうなっているんだろうけど、リレヴィス先生もそれが無いことは予測しているんだろうな。オレ達の代わりに三人繰り上がってくるのかもしれないが、スヴィン達とどれだけ差があるだろうか。

 あるいは、話にもならない奴が外野の力で割り込んでくるか。その場合はついていけるとはこれっぽっちも思わないが、足を引っ張る要素にはなり得るな。

 探知の力が使えないのは不安でしかない。それだけに頼るのも良くないとは思うけどさ。

 とりあえず、この不安を口に出してみるか。


「下手に入れ替わると現状が崩れたりしませんかね。和を乱すようなやつが来たらそれこそレベルダウンになりかねませんし」

「それは私も不安です。最大限配慮するつもりではありますけど」


 実力で排除できないのは辛いところだな。その場合の絶対のハードルは倫理的なものだけだが。


「そこは幸運を願うしかないから話しても仕方ないですかね。相談についてですが、全員の進路がわかりませんけど、スヴィンのように冒険者を志したり法士爵を得て士団を考える生徒が多いんですかね? イリルは魔道具師かもとは言っていましたが」

「そうですね。あとはリュフィさんがご実家の環境整備を手伝いたいとおっしゃってましたね。アオナさんも故郷に戻って同じような事をすると」


 土魔法や水魔法でインフラ整備とかかな。環境復活リバースや魔物の影響で生活域を広げるのは難しいが、生活水準を上げることは可能だし。


「そうなると……ちょうどフレイアさんに説明してもらったばかりなんですけど、魔法士団の第一隊が戦闘系、第二隊が工兵系、第三隊が研究系なんだそうです。その辺りで連携が取れるといいかもしれませんね」

「スヴィンくんに第一隊、リュフィさんやアオナさんに第二隊、イリルさんに第三隊ですか」

「はい」


 部外秘の技術もあるかもしれないが、交流すること自体はあちらにとっても無理でも無駄でもないだろう。魔法士団も完全に清廉潔白な集まりとは言えないだろうが、後輩に対して面倒見のいい人もいくらでもいるだろうし。意外な発想ってやつもどこから出てくるかわからないからな。


「アンナさんにイリルの事を頼んでみましょうか。そこから他の隊にも話が行くかもしれませんし」

「アンナ? もしかしてアンナ・アースライトさんですか?」

「はい。任命はまだですけど次の第三隊隊長だそうですよ」

「そうですか、彼女が。立派になりましたね……」


 リレヴィス先生は感慨深そうだ。アンナさんが学院の卒業生だとしたらここの繋がりもあるのか。人の輪っていうのは思いがけないものだな。


「魔法学院の現状についてはリーデライト殿下も思うところがあるようですから、そこからなにか打てる手も見つけてくれるかもしれませんね。魔法士団の過干渉は学院の独立性を損なうかもしれませんけど、殿下ならその辺りは上手く調整してくださる……と考えるのは期待を押し付け過ぎかもしれませんけど」

「そちらの問題もありましたか。ユリフィアスくんとジャヴィル先生のことがあってから静かすぎるのが気になりますね」


 そう言えばそうだな。懲りたか改心したと思いたいが、人間はそんなに単純なものじゃない。オレがここを出ていくまで大人しくしているだけかもしれない。

 思えば風殺石を持ってるのもそういう奴が多い気がする。探知のことまでは知らないだろうからその対策ではないとして、戦闘になることへの恐れでもあるのだろうか。よくわからない。

 現実だとしても仮想だとしても敵は作りたくないんだが、人生は本当に上手く行かないな。


「クラスの皆はまっすぐ伸びると思います。スヴィンとも約束しましたし、大丈夫でしょう。それでも立ちふさがる困難が現れたらその時はきっと戻ってきますよ」


 ただしその時はおそらく無限色の翼プリズムグラデーション・エールとしてだろうけどな。


「そのようなことが無いのが一番ですね」


 リレヴィス先生は祈るように微笑んだが、本当にその通りだろうな。



 今後のことに不安があるのは先生方も同じなのだろう。オレもオレで思い直させられることが多くあった。

 願わくば、来年度からの魔法学院が純粋な学び舎であるように。そう願わずにはいられない。

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