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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第四十五章 炎魔法使いと風魔法使いの置き土産

「ふいー。やっと整理が終わったよ」

「お疲れ」


 部屋の片付けを終わらせたフレイアを労う。

 セラの事があって士団を辞してから、オレの事情の説明もあった。なんだかんだで時間を貰ってばっかりだったな。

 空中に展開した防壁に荷物を乗せ、空間圧縮の魔法陣を展開する。これで引っ越しの準備も完了だ。


「楽させてもらって悪いね」

「このくらいはな」


 さすがにその辺りの奴に「やれ」と言われても断るが、仲間の事なら労を惜しむ気はない。

 ちょうど固定の為の防壁を使ったところでドアがノックされた。


「どうぞー」

「フレイアさん。リーデライト殿下がお呼びで……あれ、荷物はどうしたんです?」


 アンナさんが入ってきて首を傾げる。

 そういえば彼女はちゃんと見たことがなかったな、オレの空間収納魔法。たぶん見せたところで大事にはならないと思うが、


「色々あるってことはわかるでしょ、私達なら」

「……でしょうね」


 フレイアが笑って誤魔化したし、そういう事にしておくか。アンナさんも苦笑して追求してこないし。


「フレイアさん。アンナさん。リーデライト殿下をお待たせするのはいけませんし、執務室に向かいませんか?」

「そうだね」

「そうしましょう」


 外に出て、ドアを閉める。フレイアは感慨深そうに部屋のドアに触れていた。


「……長らくお世話になりました」


 同じ経験があるわけではないが、気持ちはわかる。いや、年月の差があり過ぎるとはいえど学院の寮を引き払う時にはオレも同じ気持ちになるのかもな。

 急かしておいて矛盾した話だが、好きなだけそうしてくれていいとは思った。が、フレイアはすぐに頭を振って顔を上げる。


「さ、行こうか」


 その表情は晴れやかだった。



「殿下。フレイアさんとユリフィアスさんのお二人をお連れしました」

『ありがとうございます。どうぞ』


 アンナさんとフレイアに続いてリーデライト殿下の執務室に入る。

 よくよく考えるとオレは呼ばれていなかった。けど、帰れと言われることもないだろう。

 対面のソファー。オレとフレイア、殿下とアンナさんで別れて座る。間の机が分岐線のようだ。


「……ついにこの時になりましたか。いつかはとは思っていましたけど。残念と言えばいいのか感慨深いと言えばいいのか」

「十年近くも大変お世話になりました、殿下」

「いえいえこちらこそ。件の噂は否定しますけど、貴女が僕に……僕たちに与えてくれた影響は計り知れないものがありますから」


 頭を下げたフレイアを殿下は眩しいものを見るような目で見ている。

 以前二人を「兄妹のようだ」と思ったが、それだけじゃないんだろうな。

 言っちゃなんだが、王子と臣民の関係には見えにくい。上司と部下であるのは確かだが、それ以上に仲間であり同じ魔法使い。エーデルシュタイン皇女とのことを思えばそれこそ姉と弟のようでもあり、あるいは件の噂というやつも完全な的外れではなかったのかもしれない。その辺りはフレイアと殿下それぞれの胸の中にしかないんだろうけど。


「法士爵は永久のものですし元隊長の肩書きもなくなりませんから、いつでも遊びに来てください。ついでにユリフィアスくんのように仕事の手伝いをしてくださっても構いませんよ?」

「……あはは、バレてましたか。アンナに頼まれたらそうします」


 なんだ、その辺りの事って秘密にしてたのか。怒られてないって事は問題にはなってないんだろうけど。


「そうでなくても、こちらも頼らせてもらうこともあるかもしれませんね。しかし、ユリフィアスくんの方が報告書が理路整然としていたのはどうしてなのでしょうかね……」

「……アハハ、ハハ」


 フレイアの二度目の笑いは乾ききっていた。立つ瀬無いってことなのだろう。五年以上は隊長をやってたらしいからな。

 まあ、こっちも転生前は大学生をやってた身だ。論文とまでは行かないまでもレポートを書く機会はあったわけで、ある程度整理された文章を書くのはさして難しくもない。


「でも次はその辺りは大丈夫でしょうね、アースライトさん」

「はい?」


 唐突に殿下から話を振られ、アンナさんは首を傾げる。が、すぐに手を打って破顔した。


「ああ、次は書類仕事の得意な方が隊長になると。それはいいですね」


 ……たぶんアンナさんは意識してなかったのだろうが、喜び方に一切裏表がなかった時点で何かを察してしまった。表情や魔力のゆらぎを見るに察したのはオレだけだったようだけど。


「アンナは得意だものね」

「そうですね。次の第三隊隊長のアースライトさんならね」

「えっ」


 しかし続く内辞に鳩が豆鉄砲を食らった顔になり、


「えええええ!?」


 悲鳴を上げた。

 そういえばなんだかんだで直接口にはされてなかったのか。二人の話を聞いていて確定事項になっていたように見えたんだが。

 よくよく思うと、「アンナさんしかいない」って言ってた時も当人はいなかったっけ。


「どうしてわたし!? 副隊長がいらっしゃいますよね!?」

「ラベルクさんはそろそろ第一隊に移って貰おうと思っていたところです。中隊長では階級としては下がりますが、前線希望なので不満はないでしょう。同時に数人ほど第一に移って貰うつもりです。連携も見ないといけませんし」

「で、でも他にも……」


 アンナさんにとっては寝耳に水だったのか。けど、いつかはその可能性もあるとくらいも思っていなかったのかな。


「続きはわかります。『自分より強い人はいる』と言いたいのでしょう。第一隊や第二隊が実力主義だというのはそうですね。第二隊については実力というよりは魔法の巧拙やとっさの機転でしょうけど。対して第三隊はある意味曲者の集まりなわけですから、それをまとめられる人柄が必要だと僕は考えています。それに、三隊すべてが同じなのもつまらないですよね」


 曲者の集まり。第三隊ってそんなところだったのか。


「り、理由はわかりましたけど。でも、人柄って」

「なんだかんだ嫌われてないじゃん、アンナ。まあ私は属性のことでやっかみとかもあったけどさ」

「それって、わたしがありふれた属性で弱いから嫉妬の対象にならないってことですよね……?」


 そんな事はないと思う。そりゃフレイアと比べたらそうだろうけど、地獄のシゴキの時にも思ったようにアンナさんは決して弱くない。

 そう言えば他の隊長の実力とか知らないな。懇親会の時も他隊の魔法士と絡まなかったし、どうなんだろうなその辺。


「強さを価値にすればワーラックスさんやユリフィアスくんは僕のはるかに上ですよ。けれどそれだけでは駄目だというのはアースライトさんもわかっていると思うのですけどね」

「それは……仰る通りです」


 ……それもまた耳が痛い話だな。

 セラも言ってはいたが、力をどう使えばいいかって命題にはオレも答えは出せていない。フレイアが言ったような正義の味方をやるつもりではあるけど、積極的に関わっていくべきなのかは決めかねている。少なくとも、本質的には異世界人のままのオレが世界の趨勢を変えたり決めたりするべきじゃないとは思っているが。


「本音を言えば、ワーラックスさんとアースライトさんの言うようにやっかみや嫉妬ではなく連立や共助であって欲しいのですが。そううまくは行きませんね」

「まあ、一般的な属性ではない私に教えられることがあるかはわからないですからね。そうでなくとも裏で何言ってるのかわからないのとかも居ましたけど」


 殿下とフレイアのやり取りになんとなくノゾミの事を思い出す。たった数日もう数ヶ月だが、彼も腐るようなことがあるだろうか。状況が落ち着いたら会いに行かないとな。約束もしたし。


「ともかく、あなたたちがいなくなれば一時的に荒れるかもしれませんね、魔法士団は。その上水精霊の祝福ブレス・オブ・ウンディーネ無色の羽根(カラーレス・フェザー)が一度にいなくなるのは魔法学院のレベルダウンになるでしょうし、頭が痛いです」


 来年からの対抗戦がどうなるのかっていうのはそう言えば考えたな。また騎士学院の天下に戻るのかもしれない。

 しかしレベルダウンというか、アカネちゃんが言っていたように、


「オレ達が居た状態がある意味普通ではなかったのかもしれませんけどね」


 って、言葉の選びを間違えたか。殿下もアンナさんも渋い顔をしている。フレイアは「だよねぇ」とでも言いそうな困り顔だけど。


「実際そういう面もあるでしょうね。稀に……と言っても僕も魔法学院や士団に関わって十年すら経っていませんが、力を持った学生や魔法士は現れます。しかし、君たちのように自制を伴った者というのはさほどいませんから」

「……ユリフィアスさんの場合、伴い過ぎでは」

「あはは。ユリフィアスくんがやりたい放題やったら誰も止められなさそうだもんね」


 魔法学院の門戸は広く開かれている。オレや姉さんやティアさんのような貴族階級ではない生徒もいる。クラスメートだとスヴィンにタリスト、アオナもそうだったかな。

 ただ、魔法使いや生徒としてのスタートは同じでもその土壌には家格が大きく関わってくる。資金力やコネクション、そして時間という面で貴族が有利なのは揺らがない。もちろん、レアやセラやユメさんやミアさんのように心ある魔法使いもいれば、ザレクストやダヴァゴンや例の生徒先生みたいに単純な力に大きく比重を置く奴らも居るわけだが。

 あるいはそれはそれで正しい時もあるのかもしれないし、気に入らないからと言って全員斬り捨てていっては相手と同じな上に際限がないし、それが正しい行為だとも思わない。それで取り返しのつかないことにならないようにはしないといけないが。

 オレ達がいなくなれば魔法学院もそうなるのかな。


「そちらについては大丈夫だと思いますよ」


 そんなオレの内面を見透かしたのか、殿下は笑う。


「防御の講義を行ったのは聞いています。それを次に繋げてくれる学生もいるでしょう。懇親会やその前の姿を見て君たちのようになりたいと思う人も声を上げ始めるかもしれません。でしょう、アースライトさん」

「はい」


 アンナさんはフレイアをまっすぐ見ている。半ば強引なスカウトではあったようだが、彼女ももう魔法士団の一員。追うべき背中も正しく見えているのだろう。


「アンナ、私の後をよろしくね」

「はい! ……って忘れてましたほんとに次の隊長わたしなんですか!?」

「そうですよ?」

「わたしじゃ絶対ダメですぅー!」


 まあ、なんだかんだでフレイアの置き土産も大きそうだな。アンナさんなら早晩越えていきそうだとは思うけど。

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