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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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Interlude ルートゥレアとレインノーティアと

「レア。急で悪いが半日ほど時間をもらえるか?」

「はい? 大丈夫ですけど」


 秘密を打ち明けられてしばらく経ったある日。ユーリくんになんの前触れもなくそんなことを言われました。


「お、デート?」

「違うな」

「……そこで即答するのはいっそカッコ悪いよユーリ君」


 セラが呆れてますけど、変な期待を持たされるよりはマシだったかもしれません。たぶんユーリくんから誘われることはないんじゃないかという気もしますし。いえ期待はしましたよ当然。当たり前じゃないですか。だからわたしまでかわいそうなものを見る目で見ないでくださいセラ。

 というあれこれもあったものの。時間節約のためにということで抱きかかえられて空を飛んでいったのは非常に役得って何を言ってるんでしょうかわたしは。

 辿り着いた先は、特に久しぶりでもないファイリーゼ邸でした。こんなに早く戻ってくることになるなんて。

 ユーリくんはリシーさんにお姉様がいるかどうか尋ねて、って、お姉様に用があるんでしょうか?

 ホールでしばらく待っていると、お父様と執務室にいらっしゃるので向かうようにと。

 ここに至ってもわたしはこれから何が起こるのかわかっていません。何も説明されていないから当たり前ですけど。でも、お父様まで揃っているとなると。

 ユーリくんが執務室のドアをノックして、返答を待って中へ。お父様は執務机の向こう。お姉様もその側に立っていました。

 お父様の執務室。入ったのは何時ぶりでしょうか。お母様がいた頃はよく入っていた気もします。

 ぼんやりとそんなことを考えていたら、お父様がゆっくりと息を吐き出しました。


「待っていたよ、ユリフィアスくん。いや本当はもう少し遅くなるかと思っていたが」

「お待たせしたら気を揉み続けるだけでしょうからね。誰にとっても良くない」


 どういうことでしょう? お二人ともユーリくんが来るのはわかっていたと?


「ええと。わたしはお邪魔でしょうか?」

「「「え?」」」


 三人みんなに驚かれました。


「大事な話があるのはわたしからルートゥレアによ?」

「でも、どうしてユーリくんまで」

「それは彼にも関係があることだからかな」


 お父様がそうおっしゃられますが。

 お姉様からの大事な話。ユーリくんにも関係のあること。お父様立ち会い。



 まさか。

 まさか?

 まさか!?



 そう思い至った瞬間、身体強化をかけて全力で飛び退っていました。


「い、いくらわたしでもそれは許容できませんっ!」


 大杖スタッフを! って、「無くても大丈夫だ」とユーリくんに言われて置いてきたんでした!


「で、でもわたしにはまだウォーターカッターもありますっ!」

「……何の話だい?」

「……さあ?」


 お父様とユーリくんは、顔を見合わせたまま首を傾げています。

 お姉様はこれまで見たことのないようなぽかんとした顔をしてから、お腹を抱えて笑い出しました。


「っく、あはは……うちの妹が天然ヒロインすぎる。あははは」


 え?


「そうよね。それだけ聞いたらそう聞こえ、でもあはははは。ほんっとおかし。青春してるわー」


 はい?

 あれ?

 お姉様?


「心配しなくてもそういうことじゃないから。あのね、ルートゥレア。ううん、もうわたしもレアって呼ばせてもらうねこれから。わたしもユリフィアスくんと一緒なの。元日本人」

「えっ……え?」


 もと、にほんじん?


「にほんじんって、なんですか?」

「あれ、日本の話は聞いてないの? わたしたちのいた国。転生者なのよわたしも。それが貴女に隠してたファイリーゼ家の秘密」


 てんせいしゃ。てんせいしゃ? おねえさまが?

 え? ええ? えええ?

 お姉様が、転生者!?

 ってちょっと待ってください。「ユーリくんと一緒」って言いましたよね。


「……ユーリくんも知っていたんですか? お姉様もユーリくんのことを?」

「ああ。前来た時に話した」

「モロに日本刀持ってたからね。気づかないわけないし」


 そんな。


「ひ、ひどいです、隠すなんて」

「悪かったとは思うけど、オレの前提がなくて受け入れられたかこの話?」


 それはそうかもしれません。けどそれが良かったかというと。いえ、お姉様が転生者だったからああいうことになっていたと言われると、納得できるものとできないものがありますけど。


「申し訳ないけどユリフィアスくん自身のことを先に打ち明けてもらった。信頼が全然違うだろう彼の話なら躊躇いなく受け入れられるだろうからね。とはいえ、本当ならうちのことを先に話すべきだったのも事実だ。済まなかったなルートゥレア」

「ごめんなさいレア。わたしももっと早く話すべきでした」


 また、お父様とお姉様が頭を下げてくれて。怒るに怒れなくなってしまいました。

 それにわたしだってユーリくんの秘密を二人に話すつもりはなかったわけですから、怒る資格は無いでしょうし。


「でも、言ってくだされば。学院に入ったことは良かったですけど、お父様とお姉様のそばにいたかったです」

「いやー、それがそっち方面の発想はなかったから。そこはユリフィアスくんに感謝よね」


 困った表情で「たはは」と笑うお姉様。こっちが地なんでしょうね。


「だとしても、わたしに辛く当たらなくても良かったのではないですか? 今だからわかりますけど、お父様もお姉様も優しい人ですよね。苦しかったのでは」


 お父様もお姉様も魔力の色がとてもきれいですから。悪役を演じるのは辛かったと思います。

 理由がわからないのか二人とも驚いた顔をしていますね。探知のことも話すべきでしょうか。


「あはは。ほんとに強くなったねレアは。でもね、割と嫌われようと必死だったのもあるよ。正直なところずっと怖かったから。わたしを思ってくれる感情が逆になったらって。でも、わたしが辛く当たっても貴女がわたしを思ってくれたままだったからもっと怖くなってやめられくなっちゃった」

「怖い?」


 たしかに、拒絶されることは怖いです。わたしにもわかりますから。でも。だからこそ。わたしがそれをすることはありません。


「お姉様はお姉様です。それを否定するようなことはないです。いえ、前回の帰郷のときは『もしかしたら喧嘩をしてでもわかってもらわないといけないかもしれない』とは思っていましたけど」


 入学前のわたしのままなら確実にそうなっていたでしょうね。結果はあの通り拍子抜けというか、思っていたものと正反対に違ったわけですけど。


「ありがとう、レア。でも違うの。ユリフィアスくんは前世の知識を生かして貴女を救っているじゃない。わたしにもそれができたはずだし……」


 そこは、魔法についての発想が無かったとおっしゃっていませんでしたっけ?

 と、思ったのですが。


「……なにより、お母様も救えたかもしれなかった」

「お母様を? ……あ」


 お姉様の視線を追ってなんとなくユーリくんの方を見てしまいましたけど、困った顔をしていました。お姉様の苦悩も知っていたんでしょうか。


「アイルードさんから聞きましたけど、そこに責任を感じるのは」

「慰めてくれてありがとう。でも事実は事実だから。タイミングを完全に逃した土壇場でやる気になって足掻いて失敗したのは」


 お姉様はユーリくんに感謝と後悔の混ざった笑顔を向けてから、わたしの目をまっすぐ見ました。


「わたしたちの世界にはいろんな機械、こちらで言う魔道具に相当するものだけど、命を救うための技術がたくさんあったのよ。わたしがそれをちゃんと知っていればお母様は今もまだここにいたかもしれないの」


 思わずまたユーリくんの方を見てしまいました。わたしを見ていたユーリくんは、まだ困った顔を続けています。

 わたしの視線に気づいたユーリくんは、大きなため息を吐きました。


「……おそらく、強化を応用したり探知魔法の技能を上げれば代替できるものはあると思う。お母さんの状態がどうであったかはわからないが、原因を掴むのは無理じゃなかったかもしれない。治療については未知数だっただろうけど」


 たしか、聖国教会の光魔法使いの方にも回復魔法を使ってもらいました。それでもだめだったものを、そのキカイの力なら?

 残念だと思わなかったと言ったら嘘になります。それでも、かつてわたしがしていたような顔をしているお姉様を見ると責めるなんてことをできるはずがないです。

 だってお姉様は。あ。


「……お姉様。お母様がお姉様に最後に言った言葉を覚えていますか?」


 なんだか、いろいろと繋がっちゃいました。そういうことだったんですね。


「え? えっと。なんだったかな。頭の中がぐしゃぐしゃだったからちゃんと覚えてないかも。『幸せになってね』だっけ?」


 違いますよ。いえ、ただ聞いただけならそう思えるかもしれません。


「『貴女が幸せになることを諦めないで』です。わたしには『お姉ちゃんを好きでいてあげてね』でした。お父様には『二人のことをお願い』でしたよね。やっとお母様の言葉の意味がわかった気がします」


 お姉様はお母様が亡くなったことに責任を感じ過ぎで、その理由と感情に囚われないようにと。わたしやお父様にはその理由を知ってもお姉様の味方でいてあげて欲しいと。そういうことだったのでしょう。


「……リースリーナはいい母親だな」

「……お母様。ありがとう」


 お父様は満足そうに微笑み、お姉様は祈るように手を組んでいます。

 ユーリくんも、やっと優しい顔で微笑んでくれました。

 人はいつか死ぬものです。わたしだってそれからは逃げられません。お母様はそれが少し早かった。だから絶対にお姉様のせいではないです。

 ……ユーリくんはなんだかそれも跳ね除けてしまいそうですけどね。いえ、一度跳ね除けているんでしたっけ。

 お姉様に近づいて。ちゃんと笑って。手を取って。


「お姉様はわたしのお姉様です。何があっても」

「ありがとう、レア。ありがとね」


 これまで背負ってきたものをやっと下ろせたのでしょう。お姉様はぽろぽろと涙を零しました。お父様もわたしたちのそばに来て、お姉様の肩に手を置いて微笑んでくれています。ユーリくんは少し離れた場所で満足そうな顔をしていました。わたしの視線に気づくと頷いてくれます。

 無責任という言葉からこれ以上ないほど遠い位置にいそうな気さえする転生者の二人。この二人だけでなく、わたしの愛する人たちのためにもっと強くならないといけませんね。魔法も、心も。

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