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風魔法使いの転生無双  作者: Syun
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第四十三章 風魔法使いと十字属性魔法使いと

 今の皆なら既にハーシュエス家と王都くらいは日帰りの距離だが、積もる話も色々あったので泊まっていくことになった。フレイアの話も聞いていたからすでに夕方近いし、風呂の改造もあったし。

 いい加減、ハーシュエス家に詰めかけると建て増しが必要になる人数になってきたな。ここにララ達まで加わることがあるかはわからないが、無いとは言い切れないな。

 それはまた考えるとして、今は「三人で少し話すことがある」と断ってエルとレヴと一緒に家の外に出てきている。いまさら内密の話をする必要もないのかもしれないけどさ。


「まずはエルに魔力結晶ペンダントを渡しておこうか」


 残り二本になったペンダントのうちの片方を取り出す。


「ん、ありがと。せっかくだから私もつけてもらっちゃおうかな」


 言われたとおりというか恒例というか、正面から手を回してつけてやる。レヴとネレはオレより低いか大して身長が変わらないくらいだったけど、エルは多少見上げるくらいなのでちょっとやりにくい。


「よかったね、エル」

「うん」


 別にシリアルナンバーが振ってあるわけでもないし形状的に大きな違いがあるわけでもないが、今の所は世界に五つしかない。そういう意味では特別か。

 これで手元には残り一つ、リーズの分だけ。長かったような早かったような。

 それにしてもなんか儀式じみてきてるな。ララとリーズにもやる事になるのか。


「そう言えば魔法銃は受け取ってないのか?」

「ううん、まだだね」

「あ、リーズから預かってくるの忘れちゃった」


 ふむ。こっちについてはタイミングが悪かったのか。


「ならコイツを預けておこうか?」


 空間収納から魔法銃を取り出す。

 時間のあった時にホルスターも作っておいた。銃が出てくる映像作品だと脇だったり太腿だったり足首だったり袖からだったり色々あったが、今回は無難に腰にしてある。


「あの時渡したやつだね。使ったの?」

「いや、実は試し撃ちもまだなんだ」


 どこで使えばいいかって問題もあったからな。今ならみんなの前で使ってもいいんだろうけど。


「試しに撃ってみるか。と言ってもオレも本物を撃ったことがあるわけじゃ」


 言いながら。村外れの森に向かって適当に構えて、適当に引き金を引いた。

 頭にあったのはフィクションでの普通の拳銃の威力……とは言っても空想は空想。かなり距離もあるし精々弾丸が幹にめり込むか負けて終わりくらいだと思っていた。

 しかし。人差し指の感触以外に予兆も発火も反動も余波もなく弾は発射され、知覚の範囲を遥かに超えた速度でどこかへ飛んでいった。

 三人で固まる。


「……すっごいね。ユーリの世界の武器ってこんななの」

「……いやよくは知らないが絶対にここまでじゃない」

「……これ、わたしでも耐えられないかも」


 失念していた。リーズは天才だった。

 何度か銃の話をした時、当然超音速貫通撃オーバーソニックスラストの話もした。なら拳銃サイズに付与する事も考えるし、彼女ならそれくらいはできるか。通信用魔道具を作るよりずっと簡単だろうし。

 何故か三人とも忍び足のようになって歩き、撃ち込んだ木に近づいて状態を見る。

 幹は完全に貫通している。延長線上を探すと、さらに一本を貫通して二本先の木にめり込んで止まっていた。無茶苦茶な威力だ。

 ……一応、弾は回収しておこう。証拠隠滅。


「これ、持ち歩いて大丈夫なやつ?」

「危ないだろうな。確実にまずい。使い所を間違えたらとんでもないことになる」

「うん。私じゃなくてユーリが持っておいたほうがいいと思う」


 三人共に、青ざめて震える事になった。映画だとよく「クルクル回してカッコつける」みたいなことをやっていたが、冗談でもやらなくてよかった。暴発させたら大惨事になる。

 それにしても、改めてリーズの凄さを実感させられたな。発射機構は空気圧砲エアプレッシャーカノンくらいに下げておいたほうがいいだろう。それなら空気銃の範疇に収まるだろうし。

 発射時についても音や光なんかの効果があった方が威嚇用途としてはよさそうだ。必殺武器としてはこれが最強なんだろうけど。


「じゃあリターニングダガーを……いやこれも一歩間違うとまずいか」


 皇城で勝手に使われた時、三人の使用者それぞれが鞘を捨てたせいで引き戻されて激突するという珍事があった。思わずネレと二人で爆笑してしまったが、アレが使用者とダガーでも起こるかもしれないんだよな。


「心配してくれてありがたいけど、なんだかんだで危険な目にはあってないから大丈夫かな、今は。精霊のみんなも守ってくれるし、明日にはレヴがネレとリーズのところに連れてってくれるから」

「うん。まかせといて」


 なら問題ははないか。

 しかし。エルの身に危険がないとなるとやっぱり、出会った時のあれこれはオレのせいじゃないのか。アカネちゃんとも話したし翼の皆にも聞いたけど、関係構築する為に相手が不幸になるってどんな呪いだよホント。


「そう言えば今のオレって精霊にはどう見えてるんだ? 転生前は異世界人だから興味を持たれてるんじゃないかってことになってたよな」


 ユーリ・クアドリの状態だとエルに力を貸している火精霊サラ水精霊ディーネ風精霊フィー土精霊ノゥにとってはマイナスイオン発生器みたいなものになっていたらしいが、転生してこの世界の存在になった後はどうなのだろう。


「状態としては転生する前とそれほど変わってないってさ。でも風精霊フィーがね」

「あはは」


 うん? レヴはなんで笑ってるんだ?

 風魔法使いになったからっていうのはわかるが、何かあるのか?


「左肩に乗ってすっごく寛いでるよ。ちょっと羨ましい気もするかな。わたしもやってみたいかも」


 こんな風に、とレヴが前傾姿勢のキョンシーみたいなポーズをする。表情は完全に緩みきった人のそれ。肩でそういう風になってるってことか。

 ふむ。たしか風精霊シルフィードは手のひらサイズの大人の妖精みたいな外見なんだったっけ。想像するとたしかに興味深い光景かもしれない。

 なんにせよ、オレの本質自体が変わったわけではないということだろうか。レインノーティアさんを見てもらったらなにかわかるかな。その感覚を目印に転生者を見つけたりとかも。


「なにはともあれ、火精霊サラ水精霊ディーネ土精霊ノゥにも嫌われてないみたいで良かった」

「嫌われるわけないと思うけど……ん、だよね。『私の友人を嫌いになるわけがないし、そもそもユーリとも友人だろう』ってさ」

「当然だよね」

「ありがとう皆。本当に、直接話せるような何かがあるといいんだけどな。もっと風魔法使いとして完成されたら少なくとも風精霊フィーとは話せるのかな」

「『早くそんな日が来て欲しいよね』だって」


 精霊達が変わらずオレと話してみたいと思ってくれているのは嬉しい話だな。エルの霊力の事もあるし、何かしらそういうブレイクスルーがあるのは遠い話でもないのかもしれない。


「楽しみは尽きないな、色々と」

「そうだね」

「うん」



 家の中に入ると、皆それぞれ母さんが夕食を作るのを手伝っていた。いまさらだが自活するならこういうスキルも要るのか。エクスプロズ火山にいるってことは既にほぼ隠遁生活なんだろうし。


「あ。話は終わったの?」


 最初にこっちに気づいたのはセラ。というか最初に調理系をギブアップしたのもセラなのかな。


「ああ。悪かったな、時間をもらって」

「いえ、積もる話もあるでしょうから」

「十二年だもんね。ユーくんとエルさんたちにだって話すことはいくらでもあるでしょ?」


 レアと姉さんに言われたような“十二年分積もっていた話”をしたかというとそうでもない気がする。主には魔法銃の威力に対する驚愕のせいだとは思うが。


「私たちも手伝おうか」

「いい。エルフェヴィア姉に料理ができた記憶がない」

「うーん、わたしもできないかなぁ。ネレの手伝いはするんだけどね」

「レヴさんは食べ歩く方が好きなんじゃないかって気がするよネ」


 無限色の翼プリズムグラデーション・エールの二人も皆と馴染んでいる。「仲良きことは美しきかな」だな。

 オレも皿を並べるくらいは手伝うか。


「それにしても、ユーリとアイリスが帰ってくるたびに人数が増えるわね」

「オレも同じ事を思ったよ。ちょっとは食費とか補填したほうがいいかな。正直、金は有り余ってるし」

「それはそれで親としてはどうなんだって気もするけど、話を聞くにユーリの方が稼いでるのは事実なんだよなぁ。アイリス共々学費もほとんど自分で出しちまってるし」

「わたくしたちも滞在費用として幾らかお出ししたほうがよろしいのでしょうか?」

「家に泊まる冒険者の人たちからもそういうのはもらってないし、ユメたちはそこまで気を使うこともないよ」


 姉さんの言うとおり、旅人がハーシュエス家に泊まっても基本はこっちの持ち出しだ。もちろん探知を使えるようになる前から悪質な奴を泊めるほど見る目がなかったわけじゃないし、食材とか手伝いとか知識とか武勇伝とかのリターンはいつもあった。姉さんの一件があってからは相手が力づくで来ても正面から返せるようにもなったし。


「昔なら火魔法でもっと役に立てたんだろうなー。魔法が戦闘用途にしか使えないのはなんとかしないと」

「……料理に火魔法は使ったことが無いですね」

「そう? 便利だよ? 今やると消し炭にしかならないけど」

「うーん、一つ試してみても」

「……食材を直で焼くのは最終手段だろ。せいぜい火起こしとかならわかるが。火魔法でも消し炭だし魔道具のほうが楽だ」

「……ですよね」


 聞こえてきたフレイアとアカネちゃんの会話にツッコんでおく。やってやれないことはないし火力調整も容易だが、それなりに魔力を使うことになる。そういう機会は早々無い。


「熱ってひょっとしてそういうのにも有用だったりする?」

「“加熱”って言うくらいだし、そうだろうな。氷もだが、案外生活系の用途の方が向いてるかもしれないな」

「……せっかく手に入れたのにビミョーなんですけど」


 言葉通りこれ以上なく微妙な表情をしているが、そうでもないと思う。


「絵面として微妙だって言いたいんだろうが、生活用途ならそれこそ戦闘用途と比べ物にならないくらい絶妙な力加減が必要だぞ。さっきも言ったが出力任せだとフレイアの魔法じゃなくても消し炭になる。それに、火じゃ無理でも熱ならパンが焼けるからな」

「うーん……」


 割とそこそこの問題なんだけどな。火力って料理に一番重要なものだし、温泉玉子みたいに火だと困難なものもあるし。

 セラの試行錯誤は近くで見てきたが、熱属性はほぼあらゆるものの温度を操れるみたいだからな。科学世界出身のオレですら思いつかないような用途がある可能性はいくらでもある。やってみたいこともあるしな。


「ずっと討伐で稼いできてばかりだったから生産系のことは何も話してこなかったな。戦闘用途にだけ魔法を使うのはもったいない。レアの大杖スタッフを見繕う時も言ったが、姉さんの杖も加工はウォーターカッターでやってるし。だよね」

「うん、そうだよ」

「そういえば言ってたかな。でもあんな強力な魔法をそう使うんだ……」


 そう使うって言ってもな。


「逆逆。ウォーターカッターは転生前の世界の技術だけど、そもそもは切断用の工具でノコギリのすごいやつって感じだよ。武器じゃない」

「……はい?」

「え? そうなのユーくん?」

「……驚きです」

「……今明かされる。衝撃の事実」

「アー、記憶のどこかで見た気がする」

「……完全に攻撃のための魔法だと思ってたわ。封印して損したかも」


 母さんを含め、水魔法使いにとっては衝撃だったらしい。そりゃそうか。何でもぶった切れるなんて普通はそういうものだと思うよな。

 って、やっとこういう話もできるのか。曖昧で嘘まみれな説明よ、永遠にさようなら。


「それこそ作業台に据え付けて使われるような大掛かりなものだったよ。だから攻撃に使う方が邪道なんだ本当は。必殺技もたしかに大事だけど、そういう使い道を考えるのも結構面白いし生計の役に立つぞ」

「そういえばユーリ、お皿とか花瓶とか作って売ってたよねー。わたしも絵を描いたりしたっけ」


 手っ取り早くできるものがそれだったからな。耐久性や量産性重視だからだろう、木製品や金属製品が多くて焼き物は珍しかったし。原材料も含めて土練りの工程が面倒だって何かで聞いたような気がするけど、模索はしたもののそこも魔法で即解決だった。

 焼き物について言えば、逆の流れで焼成矢に繋がってるのも不思議な感じだ。


「白状すると、風魔法使いになったら食べ物を乾燥させて売ろうかって考えてた。空気の温度を下げればものを凍らせたりもできるだろうし、そこからさらに乾燥させるとお湯を注ぐだけで元に戻せるっていう技術もあったからな」


 何をするにも先立つものは必要だ。オレだってできれば遊んで暮らしたいし、市場を破壊しない程度なら荒稼ぎしても許されると思いたい。ダメかな。


「ふむ。今ならワタシたちも同じ事ができる」

「アイディア盗んじゃダメだヨ、ティアちゃん」


 ティアさんが悪い顔をし、ミアさんが苦笑いでたしなめる。実際、水分を操るわけだし水魔法使いにも同じことができるな。木材乾燥なんかに使われてたと思う。


「そもそもはオレの作った技術じゃないですし、流通量が増えれば相応に価値は下がりますけどね」

「いえ、冒険者用の非常食としても一定の需要があると思いますよ。今ギルドが手掛けているのがとんでもなく不味くて不味くて……」


 アカネちゃんが心底嫌そうな顔をしているが、そんなにひどいのか。

 日本って保存食とかもわりとこだわる方だったからな。その分ガチの保存食は高かったけど。


「食料の長期保管はいざというときの為にも役立つ技術かもしれませんね」

「士団でもその辺は気を使ってたなぁ。案外両殿下とか喜ぶかも」


 ならその辺りを置き土産にでもするか。ファイリーゼ家の食事を考えるとレインノーティアさんは料理系の知識を持っていそうだし、協力してもらえばまたできることもあるかもしれないな。積極的に知識を使っていく宣言もしてたし、お望み通りの王子とのロマンスも、ってこれは下世話か。

 ……しかし、魔法の有効活用ね。


「ミアさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「ン?」


 せっかくだし、面子が揃ってる機会にちょっと色々と企んでみるか。



「あれ、寝なかったっけ?」

「だと思いますし、どうして日が昇ってるんでしょうか?」


 眼の前に広がるどこまでも続く草原にセラとレアの二人は首を傾げている。セラが言ったとおり、二人ともハーシュエス家のベッドで眠っているはずだからだ。

 もっとも、そのはずなのは彼女達だけではない。


「ミアの夢魔サキュバスとしての力だね」

「ええ。何度か連れて来ていただいたことがありますよね」

「なんの意図があってこんなことを」


 水精霊の祝福ブレス・オブ・ウンディーネの三人は言うまでもなくここがどこかわかっているらしい。


「ということは、みなさん本人ということですよね?」

「になるのかな。面白いね」

「種族の力ってのはこんなこともできるのかぁ」

「不思議な感じよねぇ」


 アカネちゃんもフレイアも父さんも母さんも不思議そうに辺りを見回している。


「こういう光景は初めてかな。当たり前だけど」

「そうだね。ひょっとしてユーリの世界も見れたりするのかな?」


 オレ達より遥かに長生きしているであろうエルとレヴも、さすがに夢の中を旅したことはないのか。


「ンート。前より詳細に再現してもいいのカナ?」

「構いませんよ。もう記憶がどうとか隠す必要もないですからね」

「よっし。ソレじゃあ全力で行くヨー」


 ミアさんが空に手を伸ばすと、草原だった地面がアスファルトに変わっていき、少し離れた所からはビルや電柱や標識が生えて来る。オレも頭の中で記憶を整理してサポートする。


「うわあっ、何これ!?」

「四角い塔がたくさん、というわけではないですよね」

「なんだか光ってるけど、なんだろこれ」

「青と黄と赤の……ランプでしょうか?」

「こっちは。人の絵が描いてある」

「この食べ物の絵の下なんて書いてあるのこれ? 文字だよね?」

「まったくわかりません……けどキラキラしてるしおいしそうですね」

「こっちは服屋か? 同じものがどれだけ並んでるんだこれ」

「でも生地は良さそうよね。デザインもいい。なのに値段はそこまででもないのね」

「すごいね。でもちょっと物悲しい感じ?」

「うん。生命の感じが薄いかな。精霊たちがいないのもあるだろうけど」


 各々それぞれ辺りを興味深く見ている。当然だな。こんな光景はこの世界にはありえないのだから。


「前と同じで完全に再現できていない気がするのは、やっぱりオレの記憶が薄くなってるからですかね」

「マァ、一応二回死んでるわけですからネ」


 それに、外から見ただけじゃ全部把握できるわけでもないしな。実際、ビルの看板は多くが真っ白になってるし二階以上はほとんどが空だ。


「えっと……さっきから聞こうと思ってたけど。誰?」

「人数から言って誰かはわかるんですけど……」


 ようやく言及が来た。

 さっきまで家で団欒してた面子の中にいきなり黒髪黒目の二十歳前後の野郎が混ざってたら、まずそっちにツッコむはずなんだけどなぁ。


「半数以上はこの姿でははじめましてになるな」

「うっわー、懐かしいー」

「ええ。本当に」

「私たちからするとユーリといえばこっちだよね」

「うん。転生してからの方もいいけどね」


 前世からの付き合いのある面々からすればそういう感想になるのか。オレとしても、九羽鳥悠理から計算すれば外見の付き合いはこっちの方がまだ長いわけだし。


「じゃあ、今の姿が転生前のユーくん?」

「ああ。前に夢で繋がった時も同じような事をしたし、まとめて招待できるかミアさんに聞いたらできるって言うんで、折角だから。そう何度もこうやって集まるわけじゃないだろうし」


 しかし、前はそうでもなかったのに今は手足の長さに違和感があるな。自意識でこの姿になったからか。


「おもしろーい。じゃあわたしもやってみようかな」


 何を?

 聞く前にレヴの姿が輝き、ってちょっと待った!


「ミアさん周り元に戻してヤバい!」

「え? あ。ウンわかった!」


 一瞬で辺りが最初の草原に戻る。更に一瞬遅れてドラゴン状態のレヴが現れる。

 間一髪。日常劇から怪獣映画になるところだった。


『じゃーん』

「うわでっか」


 セラが口を半開きにしたまま言う。

 サイズ的には例の大蛇より一回り大きいくらいか。それでも。


「こうして眼の前にすると、ユーリくんがヴェノム・サーペントから変化したあの魔物を“ドラゴンモドキ”って呼んだのもわかる気がします」


 だよな。神性みたいなものも当然感じられるし敵意も皆無だが、それだけじゃない。存在感から何から違う。


『これで証明になったかな?』


 再びドラゴンとしての身体が輝き、今では見慣れた人としてのレヴの姿になる。あの巨体がユリフィアスとしてのオレより小柄になるのは質量保存とかぶっちぎってるな。完全にいまさらだけど。


「本当にドラゴンなのですね、レヴさんは」

「ユリフィアスの知り合いは。やはりユリフィアスの知り合い」

「ナニソレ?」


 ホントなんだろうな。わかるようなわからないような。


「でもユーくんならもっと知り合いが多くてもおかしくないって気もするけど」

「既に言った以上は打ち止めだよ。フェニックスとかフェンリルにも会ったことは無いし」


 この姿をしていた頃、神獣の類の話はいくつか聞いた。ただ、ケルベロスが魔物だったりするから話の通じる相手なのかはわからない。ドラゴンとフェニックスは方位守護の四聖獣と似た面も持つが、白虎や玄武に相当する神獣もいるのだろうか。


「わたしも会ったことないなー」

「私も。でもユーリならそのうち会うんじゃない?」


 どうだろう。そうなったらそれこそいろんな事を本気で考えないといけないのかもしれない。


「さて、と。ぶっちゃけこの姿を見せる為にミアさんに協力してもらっただけなんだが。このまま解散して各々の夢に戻るか、あるいは」

「ふふ。ほらやっぱりユーくんはどんな姿でもユーくんだね」


 姉さんはオレが何を言わんとしているかわかってるらしいな。


「いつもと同じ、よくあるノリだね」

「ええ。ですけど、やってみたいと思ってしまうのはどうしてでしょうか」

「それはユリフィアスがユリフィアスだから」


 大杖スタッフ二本と木製の細剣一本。さらにロッドが一本空から降ってきて持ち主の手に収まる。それに応えるようにオレの前には木剣が現れる。刀ではないのはユーリ・クアドリがそれを使ったことがないからだ。

 ここまで形が整った以上はわざわざ口にする必要がないが、距離を取り、あえて言葉にする。


「何事も経験だ。十字属性魔法使い(クアドリクスマギカ)としてのオレも見せてみようじゃないか」



 口火を切るという言葉を示すように、セラから火の玉(ファイアボール)が飛んでくる。いや、熱魔法も混ぜ合わされているこれは高位火球ハイ・ファイアボールとでも呼んだほうがいいのかな。


「ならこっちも」


 火球に弱めの風球ウィンドボールを混ぜて飛ばす。ほぼ互角の威力に調整したこともあって、二つの火球はぶつかりあい弾け飛ぶ。


「さすがだね」


 細剣を突き出したセラが突っ込んでくる。剣身はすでに火に包まれている。

 属性相克。こちらは水の魔法剣で受ける。火と水が干渉しあい、蒸気が辺りに撒き散らされる。


「っ、そっか。十字属性クアドリクスなら当然楽にできるよねあいたぁ!?」


 視界が無くなった瞬間に力を抜いて距離を詰め、デコピンをしてやった。魔力探知と防壁の張り方がまだ甘いな。

 振り向かず、鍔迫り合いから外れた剣を振り上げる。視界が奪われたのはオレも同じ。そこを突いてレアが殴りかかって来ていた。


「まだです!」


 魔力放射。反射的に張った魔法防壁が軋む。それだけではなく、大杖スタッフが燐光を放ちながら押し込まれてくる。

 加えて、別方向から水属性放射ウォーターブラスト。こっちは姉さんからだ。


「と」

「きゃっ」


 直撃の瞬間、風属性防壁ウィンドウォールでレアの方に逸らせる。遅ければ当然オレに当たるし、早すぎると強引にでも修正されてしまう。タイミングは上手く取れたか。

 しかし、さらに別方向から水属性放射ウォーターブラストが来る。こっちは単純に避ける。

 回避行動の途中で火の玉(ファイアボール)を放つ。姉さんとティアさんの居場所は全属性探知でずっと把握済みだ。


「完璧に捉えられちゃった。隠蔽はしてたのに」

「レリミア。水精霊ウンディーネの力が借りられない。というか。いない」

「ゴメンネー。精霊は連れてこられなかったんだよネ。アタシ知覚できないし」


 存在の全てを把握する全属性探知を欺くのは無理だからな。精霊のものならわからないが、その辺りは夢の世界も万全万能ではないか。


「分が悪すぎる。けど。仕方ない」


 精霊との協力攻撃の代わりにティアさんから大量の水球ウォーターボールが飛んでくる。こちらは土と水と火で焼成土球セラミックボールを作り出し、風魔法で撃ち出す。

 互角……ではない。卵型かつ小さめに作った陶器の球はそれぞれの水の球の真ん中を貫いてティアさんの元に届く。減衰された分だけ防壁を抜くには弱かったが。


「っ。性格悪い。ユリフィアスめ」

「ならこういうのはどうです?」



 そう言い放った瞬間、四人が展開しようとしていた魔法のすべてが一度に力を失う。



「なぁっ!?」

「なんでですか!?」

「魔力が流れてきたのはわかったけどっ」

「ユリフィアス! ずるすぎる! レリミア!」

「アタシはナニもしてないヨ?」


 詠唱にしろ魔道具にしろ魔法陣にしろ、たとえその一部分を代用できたとしても魔法としての手順を無視することはできない。

 入学試験でやったように、粗い構造式なら高濃度の魔力の塊である魔弾を使って構造の破壊や阻害ができる。

 さらに、探知で魔力や魔法の把握ができれば現象化した魔法の制御は奪うことができる。姉さんは既にやれているが、他の皆も慣れればすぐに出来るだろう。

 そのもう一段階上には、魔法式や魔道具に強引に魔力を叩き込むことで魔力の流れを壊す方法がある。バーストはこれを促進方向に調整したものだ。

 今オレが使ったのはその並びではおそらく最上のもの。魔法構造を把握し、点を突いて魔力を注入し構成を阻害する。全属性探知であらゆる事象を把握できる十字属性魔法使い(クアドリクスマギカ)だからこそできる技だ。というか、出力問題で単属性シングルに対してはこっちの阻害しかできないんだけどな。

 次だ。

 魔法展開、土の壁(アースウォール)。特に場所は決めず周囲に乱立させる。


「目眩まし? でもこっちにだって探知があるよ。ユーリ君の居場所はばっちり」


 知ってるし、それもある。

 水魔法で霧を作り出す。風魔法で周囲にばら撒き、同時に魔力を放射と隠蔽。探知ができなければ魔力をどうこうしなくてもそれだけで撹乱になるが、この面子だとそうは行かない。


「甘い。ユリフィアス」


 オレとティアさんの間の霧が払われ、視界が通る。だが。


『わわわっ!』

『ひゃっ!』

『あううっ』


 霧の中からセラとレアと姉さんの声が響く。そこまで威力を上げたわけでもないが。


「……何?」

「答えはこれですよ」

「っ」


 四方八方から土塊がティアさんを襲う。そのすべての起点はこの状況になる前に作った土の壁(アースウォール)だ。

 目眩ましだと思わせる事がフェイク。実際の用途は弾倉。


「このっ!」


 気合を込めた一喝、霧がすべて晴れる。辺りに残るのは穴だらけになった土の柱と防壁を展開する魔法使い三人。

 ユーリ・クアドリとして探知のできる魔法使いと戦ったことはなかった。もしも探知や無詠唱が標準化するとこうなるのか。想像くらいはしていたが実際にやりあわないとわからないことは多いな。

 魔力斬四閃。そいつに注意を向けて、四人を土のドームで覆う。普通の相手ならこれでチェックメイトになる……が、ウォーターカッターや魔力斬で破壊されて出てこられた。本来なら生き埋めにするんだが、実戦でもないしそうは行かない。


「残念ながら千日手だな」


 何より、実力的な相性がよくない。

 終わりということで剣を下げる。


「だめだー。転生してもユーリ君はユーリ君だったー」

「本当に今のユーリくんより弱いですかね……?」

「魔法使いとしての力もだけど、何をしてくるかわからない怖さが大きいかな。全部の属性の魔力が絶えず動いてる感じだから」

水精霊ウンディーネがいれば。いやわかってる。無理」


 この状態での魔法使いとしての経歴は話にならないくらい短い。強みはこの世界での常識に囚われない事と科学知識の流用だけだ。長期戦になればやられるのはオレの方だろう。


「やっぱりこの方向性は駄目だな。転生して正解だった」


 魔法を組み上げる事によるラグはあるが、疑似精霊魔法エクスターナル・エレメントマジックの方が出力を上げられる。バーストを使えば状況によっては無限に魔力を込められるし。


「十分のように思いましたけれど……」

「あぁ。これがうちの息子の元々の姿かぁ……」

「これならあれだけ魔法が使えてたのも納得よね……」


 ユメさんと父さんと母さんは半ば放心しているが、ユーリ・クアドリを知る面々の表情はオレと同じく微妙だ。


「昔はもう少し魔法の使い方が鮮やかだった気がします。記憶が美化されているのかもしれませんけど」

「ウーン、アタシもユーリさんの記憶しかわかんないですからネ。でも、たしかにもっと思い切りは良かったカモ」

「魔法の使い方が変わっちゃってるのかな? レヴはどう思う?」

「風以外をずっと使ってなかったんだから当たり前じゃない?」


 あれ? オレ自身への感想か。しかも魔法の使い方がなってないというダメ出し。


「相手が相手だからねぇ。ミアちゃん、ここって魔物とか出せる?」

「エート。戦ったコトのあるのナラ、一応。ナカミまで同じかはわかりませんケド」

「じゃあ、私も協力するからいくつか出してくれない? ボス級のやつね」

「は? フレイア何を言って」


 抗議より早く出てきたのは、ケルベロス、サイクロプス、グリフォン、ミノタウロス、キマイラ、デュラハン、ヒュドラ。どれも上級ダンジョンのボスとして出てくるような魔物だ。

 ……いや出しすぎだろ。スタンピードか。


「……やりすぎたかな? でもこういう相手なら本気を出せるんじゃない?」

「さてな。夢の中で死んだら現実でも死ぬことになるかもしれないから気をつけないと」

「え、嘘」


 リアルな夢は精神を通して身体にどんな影響を与えるかわからない。まあ、いざとなればユリフィアス・ハーシュエスに“変身”もできるだろうから大丈夫か。

 木剣を捨て、かつて使っていたネレリーナ・グレイクレイ謹製の剣をいくつか現出させる。直剣の一本は抜き放ち、もう一本と短剣は腰に装備。

 準備はできた。やって見せようか。


「ウォォォォ」

「オァァァァ」

「キェェェェ」

「ウモォォォ」

「コォォォォ」

「オォォォォ」

「キィィィィ」


 各々の魔物が吠えるのを開始の合図代わりに。

 身体強化。行動補助の風魔法。人体としての強度が上だからこっちの方が強くはなるが、魔力効率が悪いのはもちろん風魔法が弱い。

 それでも不足ではない。ユーリ・クアドリにはユーリ・クアドリのやり方がある。

 敵は七体。まずは数を減らす事を考えるべきだろう。

 周囲に各属性球を展開。探知で標的をロックし、手当り次第に撃ち込む。

 注意を奪った隙に地面を蹴って突撃。

 武器強化。ケルベロスに肉薄して飛び乗り、剣を突き刺す。魔力を放射するとともに土針柱アースニードルピラーを多方向に展開。体内から串刺しにする。

 素材の事を一瞬考えてしまったのは貧乏性故かな。ここでは関係ないのに。


「グルォォォ……」


 まずは一つ。

 飛び出ていた土の針を掴み、折り取り、強化。風魔法を纏わせ、サイクロプスの目に向かって投擲。向かってきたミノタウロスに真正面から土の壁(アースウォール)をカウンターでぶつけて押し留め、属性球を回避して上空から襲ってきていたグリフォンに水属性と風属性を混ぜ合わせた水圧放射ハイドロブラストを放つ。


「グァァァァ!」

「ブモォォ!?」

「ギャウ!」


 サイクロプスの目は潰せた。ミノタウロスは転倒。グリフォンへのダメージは軽微だが後退させることには成功。剣に風魔法を付加しながら土で出来た足場の上を駆け抜け、ミノタウロスの喉元を切り裂く。


「グボッ……!」


 これで二つ。

 土と風と火の魔法を重ね、小さなボールを作る。それをキマイラの口に向かって投擲。

 当然噛み潰されるがその瞬間、内部に込めておいた火球のバックドラフト現象で爆発燃焼が起こる。動きが止まった瞬間に足元から土針柱アースニードルピラーを発生させて蜂の巣様に串刺しに。


「ガ、ボォ……」


 これで三つ。

 防壁を蹴って空へと駆け上がる。目指すは視界を失ったサイクロプスの頭上。持っていた剣を脳天に突き立て、身体強化した踵落としで体内まで蹴り込む。想像したのはネレの作った剣だ。この程度で壊れはしない。


「ッ、バ!?」


 頭を一文字に貫かれたサイクロプスはそのまま膝をつくように倒れていく。これで四つ。半分を切った。

 防壁で宙に浮いたままもう一本の剣を抜き放ち、グリフォンの起こした風をこちらも風の魔法剣で薙ぎ払う。即座に火の魔法剣にスイッチ。


「っ、と」


 視覚の範囲外から放たれた氷のブレスを回避。ヒュドラか。

 だがまずはグリフォンを複合防壁で囲い込む。そのまま取り付き、内部に向かって火と風を放つ。必殺技の話をした時に出した火牢獄ファイアプリズンだ。


「ギ、グギャ……」


 足元の防壁以外を解除すると、真っ黒に焦げたグリフォンが地面に落下していく。これで五つ。

 火の魔法剣の出力を上げる。身体の周りには複合防壁を展開し、ヒュドラのブレスを真正面から貫くように突進。九本の首のうちの一つを燃やし斬る。


「ギャェェェ!?」


 こうすれば斬り落とした首は再生しない。混乱に乗じて二本斬り飛ばす。その首の切り口それぞれにルビーとエメラルドの付いた短剣を突き刺し、火属性放射ファイアブラスト風属性放射ウィンドブラストを叩き込む。


「ボァァァァ!?」


 ヒュドラは氷のブレスではなく体内で混合された高温の火を吐き出して力尽きた。これで六つ。

 残ったのはデュラハン。だが騎士の魔物に対してわざわざ剣技で相手はしない。もう魔力のやりくりを考える必要も無いからな。

 全属性放射クアドリクスブラスト。残った魔力を四色の奔流に惜しみなく注ぎ込む。前方からのものを受け止められたので、後左右上あらゆる方向から。


「ォ……」


 圧殺か消滅か。デュラハンはチリとなって消えた。


「……ふう」


 これで終わり。

 おそらく現実ではこうは行かないだろうが、一つの指標にはなったな。

 レヴがやったのを真似……はできないが、目を閉じて頭の中で姿を思い浮かべる。手足が縮んでいく感覚がし、魔力構造も今では馴染んだものへと変わっていく。

 目を開ける。服は魔法学院の制服になり、武器は風牙に変わっていた。


「やっぱり転生前の線は駄目そうだな。結局は一対一かそれに近い状況に持ち込むしかないし時間も掛かり過ぎる。この状態のオレの方がずっと上だ」


 ユリフィアス・ハーシュエスなら、状況を有利にすることを考えるまでもなく完全停滞エアロフリーズで動きを止めて超音速貫通撃オーバーソニックスラストを撃つだけで終わる。素材の回収には威力過剰ならリーズの作ってくれた魔法銃でもいいわけだし。


「ソウデスカネ?」

「ジュウブンデショ?」


 レアとセラはカタコトみたいな話し方になっていた。よくある光景か、これも。


「ともかく、ミアさんに協力してもらえばユーリ・クアドリにも戻れるし魔法を見せることができるんだな」


 そこに価値があるかと言えば、どうせすぐに無くなるとは思うが。今でさえそれぞれの属性なら皆オレを超えているだろうし。


「セラの師匠としてはむしろフレイアに魔質進化前に戻って貰った方がいいのか」

「なるほどね。やってみようかな」


 フレイアが笑うとその身体が炎に包まれる。って大丈夫かこれ?


「こんなところだっけ?」


 炎の中から現れたフレイアはやや身長と体重が減り、いつも結んでいる髪も解けてややくすんだオレンジ色になっている。服装も、冒険者にありがちな擦り切れたマントと装飾の少ないもの。何より幼さと余裕のなさが同居したような独特の雰囲気を持っている。

 フレイアはそのままボール魔法を発動。できたのは炎の玉(フレイムボール)じゃなくて火の玉(ファイアボール)だな。


「わー、懐かしの火魔法だ」


 言葉通り、懐かしむように魔法を使っている。当時の逆で出力の低さに苦笑いもしているが。


「でもこの時っていろいろ未熟さの塊みたいな状態なんだよねぇ。今見ると恥ずかしい」


 完成した魔法使いなんてどこにもいないと思うけどな……ってそうじゃないか。今でも過去を吹っ切ったわけじゃないだろうけど、今の方がいい顔をしてるのも事実だ。


「……私もできますかね」


 アカネちゃんもポツリと呟く。と、同じように手足が縮んでいき、耳と尻尾が。


「できました!」


 初めて会った頃の姿か。その時は耳と尻尾のある姿は見なかったけど。


「えへへ、なつかしいです。ゆーりさんとであったころはこんなかんじでした」


 やや舌っ足らずな喋り方。五歳ごろだったっけ。今の年齢での獣人姿も可愛かったが、みんなそれだけでない目の輝かせ方をしている。一番は、



「アカネちゃんかわいいわぁー!」

「わううう!? ふぃりすさん!?」



 母さんだった。抱きしめて頬ずりしている。ただ、アカネちゃんも本気で嫌がっていないっぽいのとエルとレヴと父さん以外はウズウズしているのが伝わってくるのでちょっと止めるのを躊躇ってしまう。

 まあそんなことをしていると当然アカネちゃんは真っ赤になってしまうわけで、


「お母さん。そのくらいにしておいてあげた方がいいよ。アカネさんも苦しそう」


 姉さんが止めた。


「わふう……」

「あ、あら。ごめんなさいねアカネちゃん」


 それにしてもだ。この姿だと年齢的なものに引っ張られてるのもあるんだろうけど、なんか最近徐々に犬っぽくなってるような。気のせいかな。


「うーん、ソレはマァ、ネェ」


 そう言えばミアさんはこの世界だと考えが読めるんだったか。ならこの疑問に対する答えもくれるのかな。


「イワヌガハナ、ってヤツですかネ」


 なるほど?

 そうだな。必要ならアカネちゃんが教えてくれるか。


「……その時は戦争カナァ」


 何それ。


「その答えは現実で、ですネ。ティトリーズ様も交えないと舞台は整いませんからネ」

「そういうものですか」


 まあ、その時を震えて待てってことかな。本当にこの面子で戦争になったらそれこそ怪獣映画の世界になりそうな気がするけど。


「アハハ、ですネ。さてミナサマ。夢現は永遠の現に非ず。一時の宴はお楽しみ頂けたでしょうか?」


 柏手を打ったミアさんが高らかに宣言する。そう言えば前の時も言ってたなこの文言。


「とカッコつけてはみたケド、アタシの魔力が限界っぽいんだよネ。さすがにこの人数は初めてだったし」


 なるほど。これも魔法なんだからノーリスクってわけはないのか。


「どうもありがとうございました、ミアさん。オレの無理を聞いてくれて」

「ナンノナンノ」


 意識が現に無いからこそ、現のミアさんがどういう状態にあるのかわからない。思ったより無理をしている可能性はあるのかな。何より、これだけの人数分の思考が流れ込んでる可能性もあるんじゃ。考えから抜けてたけど。


「……さすがユーリさん。スルドイ」


 やっぱりか。思ったよりの無理ってレベルじゃないだろそれは。頭の中で自分以外十二人が好き勝手喋ってるようなものだろ。


「貴重な時間をありがとう、ミアちゃん。懐かしい気分になれたよ」

「わたしもです。ありがとうごさいます、みあさん」

「久しぶりにクアドリの方のユーリも見られたし。欲を言えば火精霊サラたちにも見せてあげたかったけど」

「夢の中に精霊を呼べる日も来るのかな?」


 夢の中で姿を変えた二人とかつてのオレを知る二人が笑う。オレも十二年の重みを見た感じで感慨深かった。


「ユーリくん……あの姿だとユーリさんですけど、数年であれだけ強くなれることもわかりました。頑張る目標ができました」

「そだね。特化型魔法使いがあれより上に行けるっていうのはワクワクするかな」


 レアとセラにもいい経験をさせられたようだ。


「レヴさんの本来の姿も見られましたし」

「ユリフィアスの世界も興味深かった」


 ユメさんとティアさんも満足そうだし。


「ユーリの過去が知れてよかったよ」

「ええ。今度は起きてるときに色々教えてね」


 父さんと母さんにもオレの記憶を見せられた。


「ありがとう。ミア、ユーくん」


 多くを言葉にしなくても、姉さんからは十分なものが伝わる。

 これだけお世話になったんだ。何かできることがあったら遠慮なく言ってくださいよ。


「そうするネ」


 本来の眠りに落ちていく間際、ミアさんからの確かな返答が聞こえた。

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