Offstage 転移者と最重要文化的なもの
さて。
今回家に帰ってきたもう一つの重要な仕事を終わらせてしまおうか。続いていた懸念を断つために。
「って言ってもな。放熱石を設置するだけだけど」
最初から浴槽に埋め込めば良かったがいまさらそれは無理だ。簡単にやるなら袋に入れて吊るしでもすればいいが、ここは栓に仕込んでみるか。温度による比重と対流のことを考えれば底にあるのがベストだからな。
というわけであっさりと完成。風呂としてはこれでほぼ完全体だ。いちいち魔法を使うことを考える必要もなくなった。
「なんかさ。ユーリ君ってお風呂にすごい情熱かけてない?」
「シャワーもユーリくんが作ったんですよね?」
「そうだよ。途中は何をしてるのかわからなかったけどね」
風呂周りに関してはそれ用の小屋を建てるところから始めたからな。給排水の事を考えると既存の部屋を改造するわけにも行かなかったからだが。
「そういう国の人間だったからな。毎日湯船に浸からないと気が済まないみたいな」
逆に何日も入らない人も居たみたいだし、「カラスの行水」って言葉もあったけど。面倒くさかったりとか節約でシャワーで済ませる事もあったものの、基本的にはオレも風呂好き民族の一員だった。
「ステルラでもお風呂にこだわりのある種族は結構いますよね」
「ええ。紅狼族もその傾向はあるかもしれません」
ユメさんとかアカネちゃんとか、名前から日本っぽいのと関係あるのかな。あるいはカピバラみたいな温泉に浸かる動物がいたようなものだろうか……ってこの発想は失礼過ぎる。和む映像ではあったけど。
「薬草風呂みたいなのはたぶんこの世界にもあるよな。石鹸の泡風呂も。他には牛乳風呂だとかワイン風呂ならこの世界にもやってる人がいるかもしれない。薔薇なんかの花びらを散らすのもありそうか。オレがいた国では時期によっては柚子っていう柑橘系の果物を入れたり菖蒲っていう植物の葉っぱを入れたりしてたな」
「温泉っていうのもいろいろあったんだっけ? わたしのところに来たついでに探してたって言ってたよね」
「へー。面白いねユーリの国って。ネレの作った刀もそうだけど」
レヴやエルにはその辺りは話したんだったな。
別に何もかも日本が発祥ってわけじゃないんだろうけど、サウナとか温泉以外の大衆浴場が完全に娯楽化してる国の話ってあんまり聞かなかったよな。オレが無知なだけかもしれないけど。
「あとは細かい泡を吹き出すジェットバスってやつとか、雷のすごく弱いものを流す電気風呂とか」
「前者はともかく。後者は恐ろしいことをする」
たしかに。説明や言葉から恐れを感じるのは否定できない。
「一回入ったことありますけど、ちょっとピリッとする程度ですよ。どっちも刺激で血の巡りが良くなるとかだと思います。風呂の目的っていうのもほぼそれですし。あとは、シャワーじゃなくて細い水流を浴びる打たせ湯とか、寝っ転がりながら入れる風呂とか、温めた平らな岩の上に寝る岩盤浴とか、砂に埋まって地熱で温まる砂風呂とか」
「イロイロあるんだネー」
ほんとに色々あったな。それこそ再現するならスパリゾート並みの敷地が必要だろう。
その中で今回用意したのは、風を発生させる魔道具を適当な目の布袋に詰めたもの。タオルで風船を作る遊びを応用したジェットバスだ。
これを科学でやろうとするとそれこそ感電風呂の危険がある。配線なんかも気にしなくていいし、魔道具のこういう面は電気製品には持たせられない利点だな。
「既に実験済みだからうまく動くと思うよ。気に入らなかったら使わなくてもいいし」
「ううん、ありがとうねユーリ。お風呂を作ってもらってから明らかに調子がいいのよねぇ」
「ああ。公衆浴場よりずっと疲れが取れる感じがする。ユーリがこだわる理由もわかる気がするな」
家族風呂なら好きに温度も調整できるし、人の目がないから精神的にも楽だしな。母さんと父さんに好評なら親孝行にもなったし良かった。
さすがにこれ以上の物を作るならリーズの力を借りないと駄目だろう。彼女も開発を楽しんでくれるだろうか?
学院を卒業したらエクスプロズ火山に行くことになるんだろうし、その時はリゾートじみた施設の建築でも考えてみようかな。少なくとも、温泉を掘って露天風呂を作るのだけは外せない。地獄蒸しとかもやってみたかったし、楽しみな事ばかりだな。
「まーたなんか企んでる顔してるなぁ……」
失敬な。企んではないぞ。入念に計画を練ってるだけだ。
「でも、お風呂だったら……ですよね?」
「ん。そうだろうね」
「え? あう、わうう……」
「あー、あー、あー、うわー、うん」
オレを見たレアが顔を真っ赤にし、姉さんが意味不明のそれに同意し、アカネちゃんがいつかのように頭を抱えて顔を真っ赤にし、フレイアは謎の呪文を唱えている。なんだ一体?
「まったく。ユリフィアスは罪深い」
「それは……否定できませんね。ごめんなさいユリフィアスさん」
「ソレもオウサマの特権ってやつカナー」
水精霊の祝福の三人には何やら好き放題言われ。
「……王様の特権、な。そこは誇れるか微妙なところだ」
「……大丈夫かしらね。本当に」
両親には遠い目をされ。
「どゆこと?」
「なんだろね?」
エルフとドラゴンには首を傾げられた。
温泉を作ったら、オレを含めた全員の疑問に答えが出るのだろうか。はてさて。




