Memory 転移者の披瀝
世界が完全ではないことを意識している人間は案外少ないのではないだろうか。九羽鳥悠理もどちらかといえばわかっていない側だったと思う。
世界は不完全だ。それが“未解明の部分があるから”なのか“そもそも完全ではないから”なのかはわからない。けれど少なくとも、歪められているから不完全になっている部分はあると思う。それがエゴなのか自己防衛からなのかはわからないが、誰もが自分の思う通りにしか世界を見ていない。そうやって誰もが歪んだレンズの中の世界を重ね合ってできた虚像を生きている。
七十億方向からそんなレンズで見た世界はどんな形をしていたのだろう。そんなだと形を成せていたかも定かではなさそうか。
そんな世界で、俺は何者かになれる気はしなかった。でもこっちについては七十億のうちのいくらかの人は同じことを考えていたんじゃないかとは思う。自分の存在意義を失った人なんていくらでもいただろうから。
では、この世界ならオレは何者かになれるのか? それはまだわからない。オレだけで判断できることでもないだろうし。
九羽鳥悠理や新草雨音をこの世界に送り届けた“誰か”がそれを教えてくれたとしても、それはそれでまた悩みはするんだろうけどな。




