Connect そこで待つ者は
セラの事も解決した。
レアの事も解決した。
残るはオレの事だけだ。
「オレも一度家に帰って今後のことを話さないとな」
「そういえば、卒業のこと考えたのってユーリ君の家を出た後だっけ」
「でしたね」
面倒なタイミングだったのか、それともいいタイミングだったのか。アカネちゃんがララ達と話したのもフレイアに打ち明けたのも王都に戻ってからだからな。
家に帰ることは特段問題ないが、どうやってみんなに同行してもらおうか。
「久しぶりでもないけど、楽しみだなー」
「そうですね」
ん?
「ついてくる気でいたのか?」
「え? 置いてくつもりだったの?」
「わたしも無理を言いましたし、お付き合いするのは当然かと思っていましたけど」
そういうことか。
「いや、どう誘ったもんかなと思ってた。そっちから切り出してくれてありがたいよ」
あとは、姉さんは無条件についてきてくれるだろうとして。他の人はどうすればいいかな。
「他に誰か誘おうって顔かな?」
「姉さんは当然として。あとはユメさん、ティアさん、ミアさん、アカネさん、フレイアさん」
「多すぎませんか……?」
「なんの報告に戻る気ですかい旦那様……」
と言われても。
「それなりに重要な話をするつもりだからな。あまり何度も話を重ねるのも優劣をつけるみたいで嫌だし」
「だそうですけど、ルートゥレアさん的にはどんな感じで?」
「……今はノーコメントで」
うーむ。
「正直、父さんと母さんと姉さんを除くとレアに一番にしないといけない話なんだけどな」
「早く行きましょうユーリくん! アイリスさんたちのところとアカネさんのところとフレイアさんのところですよね!」
「え、なんだいきな、っ!?」
「ちょ、うおおお!? 待って待ってレア! ユーリ君を返せ!」
いきなりテンションを上げたレアに身体強化で強引に引っ張られ、オレは半分以上後ろ向きで廊下を進むことになったのだった。
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「そうだね。お父さんとお母さんにも報告しないとね」
「構いませんよ」
「別にいい。行かない? 違う。行くという意味」
「リョーカーイ」
「何度もお邪魔していますけど、問題ないのであればお付き合いします」
「当面暇だし、興味あるからいいよ」
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皆はもう少し悩むとか断るとかしたほうがいいと思う。今回は助かったけどさ。
いい加減、大人数で移動するなら車みたいなものを開発したほうがいいのだろうか。この人数はバスでもないと完全に定員オーバーだが。って、別世界の法律に縛られる必要はないのか。
「ウーン、さすがにフレイアさんも身体強化の使い方が安定してますネ」
「ええ。アイリスさんの仰ったとおり走って交流を図るにはもう少し修練が必要でしょうね」
「帝都に行くときもやったけど。ついていくだけで精一杯。ユリフィアスの補助が強力なのも思い知った」
なるほど、今回の行程はそういう検証にも使えたわけね。なら意味もあったか。
「ティアちゃんには見せたし知ってたみたいだけど、防壁と放射の組み合わせで加速する方法もあるよ?」
「それもそれで細かい調整が……慣れが必要です、ししょー」
セラはぐったりした顔をしている。自力でここまで長距離を移動したのは初めてか。距離としては帝都より少し遠いくらいだが、帰りはオレが担当したからな。
「わたしもまだまだ頑張らないといけませんね」
レアは少し余裕があるようだ。日々の鍛錬の成果だな。
「くっそー、私が一番ダメダメかぁー。ユーリ君のイジメを受け入れるしかないんだね」
「ユリフィアスさん?」
「ユリフィアス。人でなし」
そう思うならまずその他人を取り込もうとするのをやめたほうがいいと思うねオレは。
そもそも、この世界でのホントのイジメってのは……やめておこうか。フレイアのトラウマを掘り起こす事になる。
実家の近くまでたどり着いたので、例によってあとはゆっくり歩く。九人も勢いよく人が滑り込んできたらそれだけで事件だからな。
「……おいおい」
「うわ……何これ」
フレイアも気付いたか。さすが一日の長。探知距離が違う。
魔力探知に掛かるこの反応は……まったく、どんな偶然だ。
「え。なに。水精霊? って。前もこんなことが」
一番最初に気づくのは当然精霊か。
「でっかいこの魔力……いまさらだけど魔力じゃないよねこれ」
「レヴさんですよね?」
「それと、ティアみたいな……」
さらにこれも一日の長。セラ、レア、姉さんの三人が気づく。
「たしかに、ティアリスさんによく似ているというか、ティアリスさんからわたくしたちを引いたような」
「てコトは、そういうコト?」
「こういう感じなんですね。ギルドではお会いしたことはないです。でも、どこかレヴさんに似ているというか……」
残りの三人もさほど間を開けず気づいたようだ。。
見えてきたハーシュエス家の庭では、薄い緑の髪の女性が寛いでいた。中空に話しかけるような動きをしていたが、視線が動いてオレ達の方向で止まる。
「あ、もしかしてティアリス?」
「……エルフェヴィア姉? なんで?」
まさかそこに居たのがエルだとは思わなかったのだろう。感情の読み取りにくい普段と比べるとはっきりわかるくらい動揺している。
「あはは、なんでだろうね。私としてはたまたまとしか言えないけど。久しぶり。大っきくなったね。元気にしてた?」
エルは言葉の途中でチラリとオレの方を見た。そう言えば前もこんなことがあったな。“たまたま”なのも本当なんだろう。神がかり的な“たまたま”だが。
「どもども。私、エルフェヴィア・ニーティフィア。見てのとおりエルフだよ。ティアリスから聞いてるかな?」
「エルフェヴィアさんってたしか、ティアさんに精霊魔法を教えた人だったよね?」
「そう聞きましたね」
「ちゃんと聞いてるんだね。よかったよかった」
エルはウンウンと頷いている。妹のようなティアさんにちゃんと友達ができているのが嬉しいということかな。
だが。みんながそれを信じられるかはなんとも言えない。
「あの、エルフェヴィアさん。エルフェヴィアさんは本当にエルフなのでしょうか?」
「うん? そうだよ? なんで?」
ユメさんは恐る恐る聞き、エルは首をかしげる。
二人それぞれの戸惑い。どちらがわかるかと言えば、ユメさんのほうだろうか。
「エルフェヴィア姉。耳は?」
「あ、そうだった。はい」
手を叩いたエルが指輪を外すと、丸かった耳が一瞬でティアさんのものよりやや長い形に変わる。なるほど、あれが変装の魔道具か。
「……やっぱり。エルフェヴィア姉はポンコツ」
ティアさんがため息を吐いた。
気持ちはわからないでもない。抜けているというのと、考えてしまっていたような悪い事が無かったことへの安心だろう。
エルの自己紹介が終わったところで、家の中からレヴが出てきた。
「わあ。みんな久しぶり……でもない? 偶然ではあるけど」
頭の上には洗濯物の入った籠を乗せている。なんだろうな。ハーシュエス家に来た人間は手伝いをしなきゃいけない決まりでもあるのだろうか。
「レヴさん! お久しぶりです。その節はありがとうございました」
レヴの姿を目に留めて、何より素早くユメさんが進み出て頭を下げる。まるでこれだけを考えていたような感じだ。実際、心に引っかかってはいたんだろうけど。
「え? えと、どういたしまして?」
レヴは、ユメさんの気迫のこもった言葉に一瞬しどろもどろになった。けれどすぐに笑顔に戻る。
「そんなに気にしなくていいよ? ユメにとって悪いことじゃなかったのなら。それに、わたしはほとんど何もしてないから」
「いえ、そんなことはありません。このお礼はなんとしてでもいたします」
「あう……うにゅー……」
レヴは困ってオレを見る。ってもな。
通信魔道具を起動して、風魔法で周囲への音を遮断して。
「なにか困ったことがあったときに手を貸してもらえるように言っておけばいいんじゃないか?」
「そっか。そうだね。なにか困ったことがあったときに頼りにさせてもらうよ」
「はい。必ず」
ユメさんはまっすぐにレヴに目を向けている。貴族の矜持を完全発揮って感じだ。
レヴだけでなくエルとも目が合い、なぜか微かに頷かれる。なんだ?
「さてと。なんかみんな用事があるみたいだから私たちは退散しようか」
「そうだね」
おいおい。そういうことか。
「別にどこに行かなくてもいいだろ、エル、レヴ。むしろここで別れたら次会うのはいつになるんだ?」
そそくさと逃げようとする二人を呼び止める。そもそも、その頭の上のものはどうする気だレヴ。
「ちょ!?」
「ユーリ!?」
ただまあそういう心の中のツッコミはともかく、当然というか、振り向かれて驚いた声を出された。
いやいや。隠すならそこは怒るか何かしないと駄目だろ。それ以上にこっちも既に事情をご存じの三人を除いて言葉を無くしているが。
「ユリフィアス。説明を要求する。エルフェヴィア姉とどういう関係?」
事情を知らない中でもただ一人だけ、ティアさんがフリーズを免れていたようだ。エルの知り合いだからだろうな。
「友人です。エルとティアさんが知り合う前からの」
「なるほど。それなら辻褄が合う」
ティアさんは納得したような顔をしているが、その認識は絶対に間違っていると断言してもいいだろう。
「たぶんティアが考えてるのとは違うよね、ユーくん」
「さすが姉さんは鋭いな。たぶんティアさんが……いや、みんなが考えているよりもう少し前のはずだ。レヴもね」
「もう少し前ですか? 幼児期より前だとして、ユリフィアスさんに赤ちゃんの時の記憶が……」
そこまで言って、ユメさんは“さらにその前”に気付いたのだろう。言葉が止まる。連鎖するように、レアとセラとティアさんの顔が恐ろしいものを見たような表情になる。フレイアとアカネちゃんとミアさんの表情も硬いけどな。
姉さんだけはあまり感情が読み取れない。黙っていたことを責めている顔ではないというのがわかるだけだ。
前世と今生の間に引かれた線。今生側のセラが、他の仲間を庇うように手を伸ばしながら一歩前に出る。
「……ユーリ君。君は何者なの」
「最後に残ったその問題を片付けるためにわざわざみんなに来てもらったんだ」
それじゃあ、信頼するこの人達に話そうか。
ユリフィアス・ハーシュエスのすべてを。




