第四十一章 ファイリーゼ家の真実
ファイリーゼ邸についたのが昼過ぎ。それからだいぶ長い間レインノーティアさんと話し込んでしまった。ということは同じ時間だけレアのことをほったらかしにしていたわけで。
夕食前の食堂であらためて話をすることになったのだが、セラに思いっきりジト目で見られた。隣で親し気な雰囲気を出していたこともあるだろうな。
「ユーリ君さぁ……ちょっとさぁ……ないわー」
「申し訳ありませんセラディアさん。わたしが引き止めたのです」
レインノーティアさんはしっかり腰から上を折って謝罪をした。そこにはさっきまでの気安い感じは一切ない。
「お話を伺うに、妹がこれ以上なくお世話になったようで。そのお礼もあって長く話し込んでしまうことになりました。セラディアさんにも気を使わせたようで失礼致しました」
「お、おうわ……いえいえこれはご丁寧に。こちらこそ非難するようなことを図々しくも。申し訳ありません」
おお、第二皇女殿下が気圧されておられる。なるほど、慇懃も時に強力な刃になるのか。
そんなことを思っていたら、外からバタバタと足音が聞こえた。
「レインノーティア! ルートゥレアが戻っているというのは本当か!?」
扉が勢いよく開き、壮年の男性が入ってきた。二人のお父さんか。
彼は脇目も振らずレアに駆け寄って、思い切り娘を抱きしめた。
「ルートゥレア。よく帰ってきたな。大事ないか?」
「お、お父様!?」
自分を抱きしめる父親に、レアは手をバタつかせて慌てている。その光景を見たセラも唖然としている。二人でいる間になにか聞いたのだろうか。
「おまえの活躍は噂程度だがよく聞いて」
「あ、あのっ!」
レアは父親を押し退け、距離を開け。
「二人共、どういうことですかっ!?」
叫んだ。
魂の叫びってこういうことなんだろうなあと思ってしまう。咆哮威圧には遠く及ばないが、わずかに声には魔力が乗り、魔力放射に似た現象も起きている。
「えっ、と?」
「ルートゥレア?」
父と姉は、意味がわからないという表情を浮かべている。魔力の揺らぎを見ると、レアも含めて三人共困惑しているらしいことだけはわかるが。
「なんで……あんなに……ずっと冷たかったのに……それで……わたしは……」
絞り出すように、レアは口から言葉を吐き出す。
それどころか、目からボロボロと涙がこぼれおち始める。
「わた、わたしは……ずっと、疎まれて……いらない子なんだって……それなのに魔力が……これ以上なく綺麗で……わけがわからないですっ……」
「「「「え……」」」」
みんなで絶句する。
家と確執がある気はしていたが、そんなことを考えていたなんて思いもしなかった。
しかし、似たことはセラも思っていただろうが、父親と姉も同じ反応なのはどういうことだろう。
「いや、疎んでいたなんて誰もそんなことは……ルートゥレアはかわいい娘なのに」
なんだろう。そういえば、DVって外面をかなり取り繕ってて外からはわかりにくいみたいな話を聞いたことがあるような。いや、二人の魔力の清浄さを見るにバイオレンスな要素はなさそうだがっていや何考えてんだオレは。動揺しすぎだ。
そうじゃなくて、単に受け取り手がどう感じるかの問題なのかもしれない。
「……レア。参考までに、どんなことを言われたんだ?」
「『レインノーティア・ファイリーゼの妹である限り強くなければいけない』とか、『今のままでは生きていくには弱すぎる』とか。王都に行く前には、『強くなるまで帰ってこなくてもいい』とか」
「いや駄目でしょそれ……」
セラが呆れているが、オレも似たようなものだ。ただ、“レインノーティアさんの妹”というところに微かな引っ掛かりを感じる。
そういえば聞くのを忘れていた。視線が合ったので、彼女にジェスチャーを送……ろうと思ったが、通じるかわからない。
十数年ぶりだが、使ってみるか。
「“お父さんは転生のことは?”」
日本語。新草雨音としての記憶があるなら通じないはずはない。
「“……うん。知ってる”」
驚いた顔をしつつも、意図を察して同じように返してくれた。
なるほど。もしレインノーティアさんが転生者だと知られてしまうようなことがあれば、レアはともすれば迫害に巻き込まれるかもしれない。知識を奪う為の人質として使われる可能性もある。だからこそ、それを振り払う実力をつけてもらうために魔法学院に入らせたのかもしれない。あるいは何かあった時に身を守るためか。
まあそういう裏を推測できたところで、入学試験時のことを考えると千尋の谷に突き落とすどころか命綱を切って放り出したように見えるな。
話せないことがあるにしても……いや、オレも困っているのだから二人が困っていないはずがないのか。ただ、第三者としてはどちらの気持ちもわかるだけにフォローしにくい。
「すまない、ルートゥレア。言葉足らずで苦しめていたのか」
お父さんは、ちらりとオレとセラを見た。そうか、オレ達がいなければここで全てぶちまけられるのか。
でもここで出ていくのはおかしい気がするし、何よりレアが望んでいないと思う。
続いてその視線はレインノーティアさんに向けられるが、彼女はわずかに首を横に振った。さすがにこの場で事情は明かせないということだろう。
「……今のファイリーゼ家には秘密がある。それをこの場で明かすことはできないが。それがなくてもおまえは昔から優しすぎたからな。だからいつか利用されるだろうし潰されるかもしれない。貴族とはある種そういう世界だ。もちろん、理不尽に屈さなければならないこともあるのだが……と、うーむ。こうじゃないのだな、勘違いされないためには」
言っている通りまだ伝えられないこともあるが、それ以上に口下手なのかな。オレだって心の内のどれだけを伝えられてるかわかったもんじゃないが。
考えなければならないことが増えるとそれだけ言葉も鈍るものだが、貴族ならさもありなんというところか。レインノーティアさんの言っていた結婚相手のこともあるからなぁ。
「ともかく、強くなれば目の前の壁は全て壊していけるだろうと。そういうことだったんだが……」
「あの……女の子にそれを言うのは酷では? そういうトンデモ人間はたしかに居ますけども……」
セラがおずおずと手を挙げる。トンデモ人間ね。誰のことだろうねホントに。
「かと言って、守ってくれる人を見つけろとも言えないだろう?」
それはそうだな。「裏切る可能性は拭えない」なんて救いのないことを言うつもりはないが、人生はそううまくは行かない。フレイアのこともあるし、貴族の世界は魑魅魍魎が跋扈する魔窟の面もあるんだろう。笑顔で近づいてくる人間がみんな味方ではないし、オレだって魔力探知がなければ人の善悪は推し量れる気がしない。悪人は悪人の顔をしているとは限らないのだから。
「だからこそ自分自身の力もつけなければならない。私たちがいつでもいつまでも守ってあげられるとも限らないのだからね。それでもルートゥレア、よく頑張った。さっきも言ったが、おまえの冒険譚は伝わってきている」
「……お父様」
「これで心配しなくても良さそうですね。もっとも、期待していたよりずっと力をつけたようですけど」
「……お姉様」
二人共、レアに微笑む。そこにはレアが感じていたというマイナスの感情は一切ない。
「わたし、娘で……妹でいていいんですね?」
「当たり前だ。すまなかったな、追い詰めるような言い方しかできなくて」
「もちろんです。今まで勘違いさせてごめんなさいね、ルートゥレア」
家族二人から微笑まれて、レアは解放されたような笑顔を浮かべていた。
/
「改めて、アイルード・ファイリーゼです。娘が大変お世話になっております」
アイルードさんは、これ以上ないくらい綺麗な最敬礼をしてくれた。そこに感謝以外の感情は微塵も感じられない。
「いえいえ、こちらこそレアには……ねえ?」
セラはオレとレアを交互に見て、ニヤニヤと笑った。
「なんですかその意味深な笑顔は!?」
レアが焦った顔になるが、さっきまでの空気を変える意味もあるのだろう。こういうところセラは気を使えてすごいよな。
「ほう……」
ただ、アイルードさんの視線が険しくなる。何度か向けられた真っ向からの敵意の視線とは微妙に違うが、ここは受け流しておこう。
「ユーリくんには入学試験のときに他の受験生たちから助けてもらったんですっ!」
「ほう」
お、視線が和らいだ。
「しまった……そういう可能性は考慮してなかった……」
ただ、レインノーティアさんは後悔の感情を滲ませていた。
いじめ問題は前の世界でも度々報道されてたものな。それからこうなっているというのはどこか因果なものを感じはするが、手放しに歓迎できることではない。
「そういえばあの時ってどうして絡まれてたんだ? 今更だけど」
「んー、なんだかよくわからないけど、今思えばレア狙いだったような気がする」
「そうなんでしょうか。わたしにもよくわかりません。魔力酔いもしていましたから」
まあ、いじめや嫌がらせに最初から個人攻撃の要素があるとは限らないか。もしも当時のレアが「自分に価値がない」と思っていたのなら、そういうのを感じ取る感覚に優れた輩は探すまでもなくいるんだろうし。
「相手の名前は覚えているかい?」
なんだっけ。オーストラリアの駄馬、ってこれをそのまま言うとレインノーティアさんが笑いそうだ。
「名前は……ユーリ君が覚える気がなかったからわからないですけど、家名はダヴァゴンだったと思います。屋敷が吹っ飛んだ時に噂になりました」
「ああ、あの家か」
セラの口にした名前に、アイルードさんは心当たりがあったようだ。どこか哀れんだように笑う。
「悪しき血統主義の見本みたいな家だよ。それで目を付けた先が貴族だというのはどんな愚行なのだか。家格は向こうが上にはなるけどね」
ふむ、色々あるんだな。派閥関係だからかそういう情報は貴族自身の方が詳しいってことか。相手も貴族様の筈だが、俺様野郎はそんなこと気にしないんだろうな。
もしくは、名字の有無は人を慎重にはしないってことかな。
「だが、だとしたら少なからず礼を言わなければならないのかもしれないな。ユリフィアスくんと知りあわせてくれたわけだからなぁ」
「そ、それはっ、そのっ」
「……強くしてくれたことについてだよルートゥレア。今は、ね」
「あ、はい。そうですね。ええ」
何やら親子間で攻防があり、自動的に解決したらしい。なんのことやら。
「そう、今は無理なので気にしないほうがいいですよその話題。けど本音のところ、アイルードさんにとっても絶対に許せないって話でもないですよね? 複雑なだけであって」
「いやまあ、うん。それはそうだねぇ」
「やめるのか蒸し返すのかどっちかにしてもらえませんか!? いえ蒸し返さないで下さいやめてください!」
セラがまたニヤリと笑い、アイルードさんは困った顔をし、レアは真っ赤になって叫ぶ。だいたいいつもの流れだが、これも一種のイジメなのでは、とさっきの話を聞くと思ってしまう。
レインノーティアさんは白い目でオレを見ていた。さっき二人で話したことのせいだろうな、うん。
「ともかく、食事にしよう。ルートゥレアにとっては久方ぶりの帰郷だし、久しぶりの大人数だ。二人とも、うちの料理は一味違うから期待してくれたまえ」
アイルードさんの号令で夕食となった。
話が流れたレアは安心した表情をしていたが、気付かなかったことにしておこう。
/
風呂から上がって落ち着いていると、例によってというかドアが叩かれた。
「どうぞ」
「夜分にすまないね」
「いえ、お気になさらず」
マコトさんの時にもあったからな、こういうの。今回はあの時とは違う理由だろうけど。
アイルードさんにもさっさと席を勧めて座ってもらう。
「ユリフィアス・ハーシュエスくん。今しがたレインノーティアから話は聞いたよ。きみも転生者だそうだね。ああ、勝手にきみの事情を聞いたのはマズかったかな」
「いえ、話さないほうがおかしいでしょうから気にしていません。彼女にも不安はあったはずです。これまでたった一人の転生者だったわけですし」
「達観しているね」
「幸運なことに、オレには秘密を共有できる仲間がいますから。アイルードさんだけだったレインノーティアさんと比べればずっと恵まれてます。そのせいでしょう」
「なるほどね。ああ、もちろん秘密を漏らす気はないから安心してくれたまえ」
「そこを疑ってはいませんよ」
現に、レインノーティアさんの秘密は守られているわけだからな。オレの秘密だけで色々取引が成り立ちそうだが、彼がそんな人のわけもないし。
「ただ、レアに話すタイミングを奪ってしまったのは申し訳ないとは思います。さっき話せていればもっと物事はうまく行ったでしょう」
「いや、あの場で告げても言い訳にしかならなかっただろうし混乱させただろう。それで許されるはずもないし逆に良かったかもしれない。それに、心から信頼しているきみの話を先に聞いたほうがルートゥレアにとってもいいと思う」
そこまで買ってくれるのか。責任重大だな。
「まあ、親としては複雑ではあるけどね……」
「オレが言えることではないですけど、細かいことでも話し続けるしかないでしょうね。レアの傷が癒えたかはきっと彼女自身にしかわからないでしょうから。レインノーティアさんのことも可能な限り早く打ち明けられるようにします」
「それだけではないのだが……すまないね。本来なら我が家のことが先のはずなのに」
謝る必要はないと思うのだが、勘違いさせていた反省とかだろうか。
レインノーティアさんのことはある意味とんでもない爆弾だ。普通の人にとっては人生観を一変してしまうほどの。
「成功するかどうかの実験台だとでも思ってもらっていいですよ。ただ、もしオレのことが受け入れて貰えなかったらレアの未来を変な風に捻じ曲げないかなって不安はありますけど」
「いやそれはないと思うよ?」
レインノーティアさんと同じく、アイルードさんも「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をした。そこまでレアに信頼されてるってことなのかもしれないが、それとこれとは別の話だと思うんだけどな。
「まったく。きみと出会えたことはルートゥレアにとって幸運なのか不運なのか。でも、できればあの子も……あの子も……」
そこでアイルードさんは言葉に詰まっている。だが、感極まっているわけではないようだ。戸惑いか。
「失敬。実質は年上の娘というのもどう扱うか難しいところがあるのだが」
「気持ちはわかります」
精神的な経過年齢だけ考えればオレもアイルードさんとさして変わらないからな。だからってレア達と話が合わないってこともないんだが。この辺はオレが転移前にまだ社会人になっていなかったことも多少は関係あるのだろうか。
「できるなら、レインノーティアも救ってあげて欲しい。彼女が秘密を打ち明けてくれたのは、リースリーナ……妻が倒れた時だった」
そう言えば、お母さんの話は一切出てこなかったな。魔力探知にもそれらしい反応はなかった。ということは。
「その時は悔やんでいたよ。自分がもっと気をつけていれば、もっと知識があれば気づけたのではないかと。回復しない妻を見る度に笑顔で励まし、対処法を考え続け、夜は一人で己の無力に泣き続けていた。葬儀の時は後を追いそうなくらい涙と声を枯らして謝っていた。私にもだ。救えたのではないかと。救えたはずだと。ルートゥレアも自分のことを責めたのだろうか内向的になってしまったが、レインノーティアはそれを超えてどこか自罰的になってしまったように感じる。妹に対して悪役じみた役割を買って出たのもそのせいなのだろうな。さっきは勘違いさせたと言ってはいたが、実際のところ彼女は敵の役目を引き受けると言っていた」
身近な人の死。幸運か悪運か、オレはまだこの世界に来てから経験がない。レインノーティアさんはすぐに経験したのか。
この世界では、魔法が表面に立つことによって医療技術の発展は殆ど無い。寿命はどうあっても超えられないだろうが、医術で克服できる疾病は多くあるだろう。リースリーナさんがそれであった可能性はある。
もちろん、人為的ミスを極限まで減らすという意味で回復魔法には絶対的な利点はあるのだが。
「こう言うと皆さんの思いを踏みにじることになるのかもしれませんけど……たとえ知識があったとしても、一朝一夕でどうにかなるものでもないことはいくらでもありますからね。医療技術は最先端科学の元に成り立っていたものでもありますし万能でもなかったですから、レインノーティアさんに知識があってもどうにもならなかった可能性が高いと思います」
「私もそう思う。“えむあーるあい”に“しーてぃー”に“れんとげん”だったか。詳しく説明された今でもよくわからないからね。少なくとも、レインノーティアのせいではないさ」
「オレもどういうものかはわかりますけど、原理まではわかりません」
魔法による再現はできるかもしれない。ただ、ああいう機器の最大の利点は外部出力できることだろう。そこが形にできない限りは恩恵は得にくいと思う。さらに言えば、手術器具が無ければ活かすことができない可能性が高い。
「いつかこの世界にもそういうものができるのかもしれないが、それを言うとこれまで亡くなった人たちも同じことだろうからね」
「そうですね」
「天命と受け入れるつもりはないが、誰かのせいにするつもりもない。むしろレインノーティアが悪いのであれば、私などはリースリーナと同じところには行けないだろう」
今のレインノーティア・ファイリーゼとしての彼女の在り方が自分への罰なのだとしたら。たしかに彼女は救われるべきなのだと思う。同郷のオレと話をしてその辺りが緩んだのが昼間のアレだったのかな。
人を救うことに妥協は許されないとは思う。ただ、医療技術の発達は聖国との確執を生むかもしれない。さらに下世話な話をすると、人が増え寿命が延びると生まれてしまう問題もある。手放しで望んでいいかといえば首を横に振らざるを得ないところもあるかもしれない。
こんなことを考えていたかはわからないが、心の中の色々に折り合いを付けられるくらいならレインノーティアさんも悩んではいなかったんだろうな。人生にしがらみは付き物だとは思うが、転生者ゆえの苦難が彼女に付きまとうならこんな不幸なことはない。
「情けない親だよ、私は」
「子供が転生者の親なんてそうそういませんよ」
それを明かされて受け入れているだけで、アイルードさんは立派な親だと思う。
レインノーティアさんが転生者じゃなかったらレアはどんな生き方をしていたのかな。姉さんはオレの存在で人生が大きく変わったはずだけど、案外同じような生き方になっていた可能性はあるのだろうか。貴族の次女としてつましく暮らすか、アイルードさんの懸念していたように使われすり潰されてしまっていたのか。だとすれば、少なくとも父と姉は正しい道の一つを選んだと言えるのではないだろうか。
「人生何がどう転ぶかわかりません。結果だけで成否を語れるものではないですが」
「それでも、ね。レインノーティアについてもルートゥレアについても上手いやり方ではなかったのだと今ならわかる。少なくとも泣かせてはいけない」
「過ちを認めず改めないことこそが過ちだ。そんな言葉がオレ達の世界にはありました。今はそれで十分なんじゃないですか」
そもそも、誰だって間違う。
オレだって間違えていることは山ほどあるはずだ。気づいていることも気づいていないことも。今は正しいと思ったことだって、振り返れば間違っていたと思うかもしれない。
「なるほど。覚えておこう」
「なんにせよ、まだ取り戻せるじゃないですか。いえ、取り戻すまでもないのか。家族の絆は無くなっていなかったんだから」
「そうだな。その通りだ」
さっさと帰郷しておけばよかったのに、というのも今更論だな。それに、間違っていたと断じることもできない。もちろん、もっと早くレアの目を上げさせてやることはできたんだろうが。
あるいは、この出会いがなければもっと遅れていたのか。人の縁というのは読み難い。もしかするといつか、オレに出会わなければよかったと身近な誰かに言われるのかもしれない。
「これからもルートゥレアを頼むよ、ユリフィアスくん。レインノーティアのことも。きみの信ずるに足る仲間であれば二人のことも受け入れてくれるだろう」
「はい」
背負うものが増えた気もするが、このくらいで歩みは止められない。人助けを続けるのがオレの人生だって、レヴも言ってたからな。




