#恋って④
スウェットにビーサンで
知らんマンションのベンチにひとり座っていると
急に目の前にパピコが差し出される。
驚いて、思わず顔を上げると
もう片方のパピコを吸った女の子に
「食べる?」と聞かれた
「…いや、いらねえ」
ってまともに返事したけど
こいつ誰だっていう疑問。
女の子はそっかー、と言いながら
自分の持ってるビニール袋を漁り
「じゃあこれ」と言って
ホットのミルクティーを俺の膝に置いた。
「ビーサンだと風邪ひいちゃうよ」
と言い残し、えへへ と笑って
マンションの中に消えていった。
あまりに一瞬のことで
自分の理解が及ばずにフリーズ。
ミルクティーは貰った状態になり
女の子を追いかけることも
声をかけて呼び戻すことも出来なかった。
ちょっとパニックになったおかげなのか
さっき彼女にフラれた事実も
この一瞬はかき消されて、
なんだ今の? に支配される。
手元に残ったミルクティーを見つめて
とりあえずもう家に帰るしかないから
この生あたたかいペットボトルを持って
家路を急いだ。
気がついたらそのまま寝てて朝になってた
というか10時で。普通に遅刻じゃん。
とりあえず適当に飯食って学校に向かう。
教室の後ろのドアからしれっと入ると
英語の授業だったみたいで、
担任のうっちーに「遅いよ」と注意される。
「すみません」とだけ言って席につくけど
やる気なんて起きなくて、
教科書も開かずにただぼーっと窓の外を見てた。
グラウンドからキャーと黄色い声が聞こえる。
おそらく1年が体育の授業でサッカーをしていて、
長身の男子生徒がシュートを決める度に
見ている女子たちが沸いているようだった。
そういえば、純平が
1年に超イケメンいるとか言ってたから、
たぶんそいつ?
俺たちのナンバーワンモテ男の座が危うい、って
俺はどうでもいいし興味無いなと思いながら
純平の話を聞いてたことを思い出した。
授業が終わってお昼、
いつも通り他人の教室にズカズカと入ってきて
俺の席まで来る。
「翼寝坊したー?…ってクマやべえな」
と俺の顔を見て言う。
「あー、あんま寝てない」
そう答えると、めずらし、と言いながら
俺を購買に連れ出してそのまま屋上に向かった。
「りなちゃんとなんかあった?」
「なんかあったってか、別れた」
「え、まじか」 って言葉では驚いてるけど
バリバリ飯食ってるし全然びっくりしてない。
「まあ、翼にしては続いた方じゃね?」
確かに、4ヶ月ちょっと?
俺にしては長くもったな、と思いながら
そこからあんまり深く聞いてこないこいつは
一緒にいて楽だな、と実感した。
脳死で選んだいつもの昼食を頬張る。
めんたいフランスとミルクティー。
そういえば、昨日のミルクティーどうしたっけ。
てかあいつまじで誰だったんだろう。
しばらくペットボトルを見つめる俺を
不思議に思ったのか
「ミルクティー間違えた?」って純平に聞かれるので
「いや、昨日さ」
とよく分からん女の子に会った話をする。
「なんかすげえな、その漫画展開」
「お礼というか返した方がいいよな」
「翼はマジメだね〜」
いや、どこがだよ。ってツッコミを入れるけど
実際名前も歳も何も知らない。
おそらく、
あのマンションの住民であることくらいしか知らない。
歳はそんな変わらなそうだったから
高校生かなとは思うけど。
「翼、気になってるんだ?」と顔を覗かれて
「は?」と、割とガチトーンで返してしまう。
「ごめんごめん(笑)
でも翼が人に興味持つの珍しいからさ」
「いやだって明らかに不審者じゃん」
「まあたしかにな」って純平は笑ってた。