#恋って③
液晶を見れば23:54
もうすぐ日付が変わる。
今日はなんとなく寝れなくて携帯をいじる
特に見たいものもないけど。
そこら辺のSNSを流し見していると
着信がある。画面には りな の2文字。
こんな時間にどうしたんだろう、
「もしもし」
「あ、出た。翼寝てるかと思った。」
「なんか寝れなくてさ。こんな時間にどした?」
と聞くと、少し黙る。
「あのさ、翼の家の近くまで出てるんだけど…、今から会えないかな?」
「え?」
「遅くに、ごめんね」
そういうりなの電話からは、
車の音や通行人の足音やらがかすかに聞こえて、
外にいるのは本当らしい。
「まって、行くから。 どこ?」
コインパーキングのとこ、と言われ、
真夜中と呼ばれる時間に高校生の女の子ひとり
外に置いておくわけにもいかないので
寝巻きのスウェットのままビーサンを履いて
通話したままの携帯だけ持って家を飛び出した。
パーキングの看板の前にりなは立っていた。
いつも通りの私服だけど顔はすっぴんで
暗くてよく見えないけど、
少し目が腫れているようだった。
ここまでで、ちょっと察しちゃうけど。
「こんな時間に危ないだろ」と伝えると
「そういうとこ優しくてずるい」と言われる。
なにがずるいのかは、分からんけど、
とにかく 少し話すために
近くのマンションのベンチに座った。
りなは話があるだろうに何も言わないから、
俺から、
「話あるの?」と聞いてみる。
りなはゆっくり顔を上げて遠い、
どんよりした空の方を見ていた。
「翼って、わたしのこと好き?」
と、聞き慣れた言葉。
いつもの俺のフラレ文句だ。
いつもこう。
自分から告白したこともないし、
自分からフったこともない。
けど、いつも
わたしのこと好き? と聞かれて
それに俺が返事できなくて別れる。
今回もそうだ。
これを聞かれた時に、
なんて言えばいいかわからなくなる。
好き、じゃなかったら一緒に居ねえよな
好き、じゃなかったらこんな時間に外出てこねえよ
好き、じゃなかったら電話なんてしねえ
とか
そうやって一通り反論を考えるんだけど
その次に
一緒に居るから好きなのか? を考えると
腑に落ちなくなって
結局 好き、とか 恋、とかよく分からなくて
この人と一緒にいた時間もまた
恋人ごっこだったのか、とか。
「…分かんない」
と素直に答える自分は相当最低な男だなと思う。
りなは 1粒おおきな涙を流して
「そっか」 と言った。
「じゃあもう終わりだね」
立ち上がって、無理して俺に笑いかけるから
「りな」 と呼ぶ。
「…やっと、名前呼んでくれた」
「え、」
「やっぱり気づいてなかったんだ」
頭の中では何度も りな って呼んでたのに
声に出して、本人に伝えたことは無かったらしい。
せめて、
りなの手を引いて 抱きしめた。
「ごめん」
腕の中のりなはさらに泣いていて。
「今日、翼が電話でてくれたから、
神様が別れろって言ってるんだなって」
だってこの時間いつも寝てるでしょ、とまた笑う。
告白された時とは違う
でも、この人の笑顔は確かに
好きだったのかもしれないな、と思った。
「家まで送る」と言えば
「やめて、諦められなくなるから」と返される。
「じゃあね、幸せだったよ、」
そう告げられて、りなとのレンアイは終わった。
あっけなく
また繰り返したな、同じこと。
りなが見ていた空は曇天で
隙間から少し月が見えて。
だからなんだって感じで。
涙は出ないけど、その場から動く力は出なかった。