新学期、新しい風④
お昼が終わり翼と一緒にクラスに戻ると、案の定クラスの女子からの視線を受けることになった。あいつ翼くんと仲良いんだと言いたげな、たくさんの目に、俺もその気持ちわかるよ、と心の中で返事をしておく。驚いたのは、隣の席の大人しめの女の子が席に着いた俺に
「和久井くんと仲良いの?」と尋ねてきたことだ。こんな子まで翼は虜にしているのか、もはや感心すると同時に、この子達が翼に彼女がいることを知ったらどうするんだろうと考える。
「1年の時に同じクラスだったから」と返すと、
「へえ、羨ましいな。」と。その瞳がすごく純粋で美しくて、恋する女の子ってこんな感じなんだと、叶わないかもしれない彼女の心を少し応援したくなった。
そんな熱を向けられている当の本人は、今日も眠そうに頬杖をついて板書する化学教師の背中をぼーっと眺めていた。
放課後になり教科書をまとめていると、目の前のドアがガラリと開けられて
「翼、いますか?」と綺麗な女子生徒に声をかけられる。リボンの色を見る限り3年生か。
窓際の1番後ろの席を指さして
「翼ならあそこです」と教えると、彼女は少し背伸びをして手を振った。多分この人がお昼に話してた彼女さんかな。翼は彼女に気づいたのか、カバンをとってこちらに来る。並んで見るとそれはそれは、美男美女のカップルで。まさにお似合いとはこの事だった。
「相澤じゃあな」と翼が俺に挨拶する時、彼女さんにもニコッと会釈される。その時、まだ教室には結構な数の女子が残っていて、2人が去った後は言うまでもなくザワザワと、あの人誰?彼女さんかな?という声が聞こえ、しばらくはこの話題でもちきりなんだろうなと思った。
隣の席の彼女も、目の前でバッチリあの光景を見ていた。美しいと思った瞳は揺れていて、ああ、残酷だなって、この子はどうするんだろう、なんて、現代文の問題を解く時と同じことを考えてしまった。
隣の彼女と目が合う前に、荷物をまとめて教室をあとにした。