2話
「…ろ」
誰かが俺を揺すっている。待ってくれまだ眠いんだ。
「…きろ」
さっきよりも揺さぶる力が強くなった。それに聞こえる声も大きくなったように思う。
「起きろ!」
あまりにもうるさかったので、眠り続けることを諦め目を開ける。
どうやらベットで寝かされていたようだ。
そこには門の前で戦っていた衛兵達の隊長らしき人が。改めて近くで見るとなかなか厳つい顔をしている。彫りが深く、巌のような顔、そして三白眼、トドメに右目に斬られたような痣が縦に走っていた。
どう見ても山賊の頭領です。衛兵がしていい顔じゃないです。
「どうした兄ちゃん?どこか痛むのか?」
「大丈夫です。起きたばかりで混乱してて。」
「そうか。それならよかった。」
あんたの顔がおっかなくてビビってたんだよなとど言える筈もなく、当たり障りのない返事をしておいた。
ベットから起きると椅子に座るように促されたので椅子に座る。
「混乱してるとこ悪いが、兄ちゃんの今の状況を説明させてもらう。ここは衛兵の詰所だ。そして兄ちゃんには現在、邪教徒の疑いが掛かっている。」
「はい?俺が邪教徒ですか?」
「そうだ。ゴブリンの討伐に協力してくれた兄ちゃんに疑いをかけるのは心苦しいが、流石にあんなもん目の前です召喚されたらな。これでも衛兵長なんでな。もし兄ちゃんが邪教徒だったらここで拘束させてもらう。」
「確かにあんな悍しい物を召喚すればそう思いますよね。」
あの時の悍しい魔物、ハスターを見てその召喚主に邪悪なイメージを抱くのは余りにも当然の帰結過ぎて、苦笑を漏らしてしまう。
「今から質問を行う。この水晶玉に手を置いて、俺の質問に正直に答えてくれ。」
「わかりました。」
そこから、邪教徒ではないか、どこから来たのか、何の目的でこの街に来たのか、様々な事を聞かれた。
始めは転生者である事を隠すべきかと悩んでいたが、衛兵の長であると言う事は、この街でもそこそこの地位と信頼を持っていると言う事から、自分の事を話す事にした。
「まさか転生者だとはなぁ。」
「やっぱり珍しいんですか?」
「俺が聞いたことがある話だと、300年前の御伽話に出てくるくらいだから、かなり珍しいな。」
「まあ、兄ちゃんが邪教徒じょなくてよかった。今更だが、俺はこの街で衛兵長をしているロックだよろしくな。」
屈託のない笑顔をこちらに向け、手を差し伸べてくる。
「こちらこそよろしくお願いします。俺の名前…は…名前は…なんだ?」
どれだけ考えても自分の名前が思い出せない。何故?どうして?
「あ〜そういや御伽話にも転生者は、自分の名前を忘れていたとかかいてたな。」
「とりあえず今はシュバルツとでも名乗っとけ。」
ロックさんの声でハッとして顔を上げる。
「シュバルツ…ですか?」
「おうよ。兄ちゃんのその見事な黒髪に因んで名付けたんだがダメだったか?」
少し厨二クサイが郷にいれば郷に従えと言うしな。何より「名は体を表す」と言う言葉があるように自分の事を的確に表している所が気に入った。
「いえ、その名前有り難く使わせてもらいます。」
「そうか、ならよかった。じゃあ改めてよろしくなシュバルツ。」
「こちらこそよろしくお願いします。ロックさん。」
ロックさんとガッチリと握手を交わす。
「これでシュバルツの邪教徒の疑いははれた訳だが、お前さんこれからどうするつもりだ?」
「どうするとは?」
「お前さん転生者だろ、どうやってこの世界で生活していくんだ?」
確かに前世では学生で、親がいたから問題なかったが、この世界で頼れる家族、親友などはいない。
「誰でも金が稼げる仕事ってないですかね。」
半ばやけくそ気味にきく。
「誰でもとなると冒険者だが、お前さん職業はなんだ?」
「召喚士です。」
「召喚士だとぉ!?」
ロックさんの急な大声をに驚き、一瞬体が硬直する。
「召喚士だとなにかいけない事でもあるんですか?」
もしかして実は召喚士は忌み職的な感じ?やらかしたか?
「シュバルツ頼みがある。」
ロックさんに両肩をがっしりと掴まれる。目の前に凶悪な山賊フェイスが迫る。怖えよ、何、俺今からコンクリ詰めにされて海に沈められんの?
「な、なんでしょうか?」
「俺の息子を、ザックを救ってくれ!」