ノンストップアドベンチャー
ティルノーアが『ポイポイ』の遊び方を説明している間に、騎士団からの呼び出しがありキールズとその側近のアルガが離脱した。
ちなみに、ポイポイというのは複数の小石を空高く投げ、落ちてくるのを避けるという遊びだった。木の実を使った子ども向けから、ナイフを投げる大人向けまで様々あると説明されたカインは「死人がでるじゃないですか!」と思わず大きな声をだしてしまった。
マクシミリアンとラトゥールがキールズに便乗してこっそり離脱しようとしたのだが、「魔法使いが沢山いた方が楽しいから」とティルノーアに見つかってしまい、その場に残されていた。
「じゃあ、暴風竜ゴッコからやろうか」
「ディアーナとコーディリアがスカートなので暴風竜ゴッコは却下です」
「えぇー」
ティルノーアはクリスやゲラントの父親であるファビアンと同学年で、アルンディラーノの母親である王妃殿下の先輩にあたる。
つまり、世代としてはカイン達の親世代なので遊びが少し古いし内容が過激なのだ。
「ポイポイも石やナイフでやるのはだめですよ。木の実も、今の時期は実が付いているでしょうから服が汚れるのでダメです」
「カイン様のケチ~。じゃあ、何をしてあそぶっていうのさぁ」
「ジャンウーでも良いんですが……走り回るのはやはりスカートの女性に不利でしょう」
「じゃあ、さっき言っていた『カカシもどき』をやりましょう~」
『カカシもどき誰だ』という遊びは、カインの前世でいうところの「だるまさんがころんだ」という遊びのことである。
畑仕事を手伝わずに遊んでいると、カカシもどきという魔物にさらわれてしまうぞ。という農民達の迷信からきている。
背を向けて「かーかしもーどきだーれだ」と言いながら振り向くのがこどもで、振り向いた瞬間に動かないのがカカシ、動いたのはカカシもどきという割り振りになり、カカシもどきであることを見破られた者は、脱落する。
「じゃあ、いくよぉー」
最初のこども役はティルノーアに決まった。
三メートルほど離れた場所に、カインとディアーナ、イルヴァレーノ、ジャンルーカ、コーディリア、ジュリアン、ハッセの順で並んでいる。コーディリアの侍女のカディナとディアーナの侍女のサッシャは近くの四阿で待機中。遊びが終わる頃に冷たいお茶を出せるように準備すると言っていた。
「かーかしもぉ~どきぃ~~~~」
背中を向けたティルノーアがのんびりとした声をだす。
ディアーナはダッシュで半分ほど距離を詰め、闇魔法を発動して自分の存在感を薄くした。
ディアーナの動きを見たカインは三歩だけ歩くと、グッと軸足に体重をかけて姿勢を低くした。
イルヴァレーノとコーディリアは動かず、ジュリアンとハッセとジャンルーカは様子見をしながら普通に歩いて前へと進んでいく。
マクシミリアンとラトゥールの魔法使い組はむしろ後ろへと下がっていった。
「だれだっ!」
ティルノーアが普段のしゃべり方からは想像もつかないほどの素早さで叫び、振り向いた。
振り向きざまに腕を振り、風魔法で突風をぶつけてくる。
「うわあっ!」
「ぐっ」
「ジュリアン様!!!」
ジャンルーカは咄嗟のことに反応できずその場で転び、飛ばされそうになったジュリアンはハッセに抱えられて何とか体勢を維持した。
闇魔法で体を浮かせていたディアーナは踏ん張れずに風に流されて後ろへと流され、動かずにいたイルヴァレーノにしっかりとキャッチされた。
踏ん張っていたカインは風魔法に耐え、微動だにしない。
「魔法を使うなんてズルいのではないか!」
「魔法を使わないとも言ってませんからぁ~」
ジュリアンが抗議をしたが、ティルノーアは涼しい顔だ。
「カイン、そなたは知っておったな!?」
「ティルノーア先生ならやるだろうなぁって予想していただけですよ」
「付き合いの長さというヤツかっ」
悔しがりながら、ジュリアンはあずまやの方へと移動して行った。
結局、ジュリアンとハッセ、ジャンルーカのサイリユウム組が脱落となった。
「さすがカイン様とディアーナ様ですわね」
「風魔法がくると予測して踏ん張っていたカイン様はともかく、ディアーナ様も? 吹っ飛ばされてしまいましたよね?」
ジュリアン達があずまやに入ると、サッシャとカディナの侍女二人組が今の流れについて語り合っていた。
「さすがのカイン様も、魔法がくることは予想できるでしょうけれども何魔法がくるかまでは分からなかったのでしょう。お嬢様が闇魔法を使うのを見て、自分は風魔法に対処しようとしたのです」
「? つまり?」
「かかしもどき誰だという遊びは、タッチしにくる人達のバランスを崩す遊びですから、ティルノーア様が使うのは吹き飛ばす風魔法か、足下を揺らす土魔法だと予測できるわけです。ディアーナ様が体を浮かすことで土魔法に対応したのをみて、カイン様は風魔法に対応し、全滅を防いだのです」
「な、なるほど?」
「おそらくですが、土魔法が来ていた場合はカイン様がすかさず風魔法を使ってディアーナ様を押し出し、ディアーナ様を勝利に導いていたはずです」
「あ、体が浮いているディアーナ様は風魔法で移動できるんですね…」
サッシャがカインとディアーナの連携について詳しく解説をしていた。
「あの兄妹の絆はそれほどのものなのか? ……いや、それほどか」
サッシャの解説を耳にしたジュリアンは一瞬懐疑的に目を細めたが、カインが妹の為に女装する男だったのを思い出して納得したのだった。
その後も、サッシャはカインとディアーナの連携を理解した上でイルヴァレーノが動かなかったことや、イルヴァレーノがディアーナを受け止めるコトを信じて動かなかったカインの心情について熱く解説をつづけていた。
「わたしも、ジュリアン様をお守りするために後ろに控えておりました」
「あそこの兄妹に張り合おうとするでない」
ハッセが対抗して言いつのったが、ジュリアンは片手をふって軽く流した。
「次はお守りするだけでなく、ジュリアン様へ勝利を捧げるためにうごきます」
「張り合わなくて良いんだって…」
さらに言いつのるハッセに呆れる兄をみて、ジャンルーカが「相変わらずだね」と楽しそうに笑っていた。
久しぶりすぎて申し訳ない。




