表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/465

さようなら

 夏も盛りにはいり、夏休みも折り返しという時期に、王兄殿下は静かに息を引き取った。


 元々、もう長くはないだろうと言われていたのもあって王妃殿下はアルンディラーノを連れてアイスティアに視察に来ていたのだ。

 先代国王と王太后によってその存在を隠され続けていた王兄は、葬儀もひっそりと行われた。しかし、アイスティア領騎士団の団員や領主館の近くに住む領民達、王妃殿下とエリゼ、そしてリベルティとティアニア。近しい人達から、心から惜しまれて送り出されていることがわかる、良い葬儀だったとカインは思った。


「穏やかなお顔でしたわ」

「そうだね」


 涙をこらえて、笑顔を作ろうとしているディアーナの肩を抱き頬を寄せてカインも頷いた。


 ゲームには出てこない、画面の外の人物。カインとしての王兄殿下はそういった認識の人であった。それでも、イルヴァレーノの姉貴分であるリベルティを通じてその不遇な人生を知り、ビリアニアやティアニアと接している時の言葉遣いや態度から優しい人柄を知った。

 カインは王兄殿下とは会うのが今回で二回目という程度の顔見知りでしかない。今夏はひと月ほどアイスティア領主館に滞在していたが、やはり体調不良の日が多いせいか顔を合わせた回数は少ない。

 それでも、その程度でも顔見知りの人物が亡くなるというのは悲しい物だった。


 カインとディアーナの祖父母はカインが生まれる前に馬車の事故で亡くなっている。曾祖父母は健在だが諸国漫遊の旅をしていてあった事も無い。


 ディアーナは初めての死別、葬式を体験したことになる。ディアーナが体験する初めての『永遠の別れ』が、この穏やかな別れで良かったとカインは思った。


 青空に響き渡る弔慰の鐘に、カインは深々と一礼をした。

淡々と、粛々と受け入れていたつもりのカインだったが、頭を下げた視界の先、自分の靴にぽつりぽつりと水の玉が落ちるのが見えた。


 思ったよりも、あの穏やかな老人のことが好きだったのだと、その時カインは気がついたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TOブックスより全9巻発売中!
秋田書店よりコミカライズ6巻発売中
― 新着の感想 ―
この夏に亡くした父を思い出しました。 優しい王兄陛下、安らかにお眠り下さい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ