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クリスの葛藤 2

 ジャンルーカを見送り、コーディリアを迎えた後、キールズとコーディリアを含めたカインたちで近場の魔獣発生場所に行って間引きをすることになった。

ラトゥールは最初城に戻って書庫の本が読みたいと言っていたのだが、「じゃあコーディリアと一緒に戻って母上に書庫の場所を聞いてね」とカインが言ったら、「やっぱり魔獣退治について行きます」と意見を変えた。


 カインやディアーナ、他の攻略対象者達とは仲良くなりつつあるラトゥールだが、まだまだ人見知りが激しいのだ。よく知らないコーディリアと二人で城に戻るだけでも相当難易度が高いのに、エリゼなりアルディなり、または見知らぬ使用人なりに書庫の場所を聞いて閲覧許可を取る、というのは到底出来そうに無いと思ったようだ。

 ジャンルーカの見送りのついでに外で遊んでくると母達には言ってあるので、すぐに戻らなくても連れ戻される恐れは無かった。


「ようは、バレなきゃいいんだよ。バレなきゃ」

「カイン様、悪い顔してますよ」

「ディアーナの楽しさが先だよね」

「ねー!」


 アルンディラーノの護衛として近衛騎士が二名付いてきているので、「ナイショだよ」と言ったところですぐに「遊びじゃ無くて魔獣退治でした」と報告されてしまうだろうが、それは全てが終わって城に戻ってからの話である。

 アルンディラーノが学生になってからは、王太子として過保護にするよりは、為政者としてしっかり成長するように見守り体制に入っているらしいことにカインは気がついていた。

おそらく王妃は見逃してくれるはずなので、そうなれば母エリゼもディアーナに対して面と向かっては叱れないに違いないと踏んでいる。


「じゃあ、今日はこの国境の川沿いに北上して行く感じでやっていこう」


 リムートブレイクとサイリユウムは、太い川を挟んで隣り合っている。少なくとも、ネルグランディ領内の国境ではそうだ。

そして、国境ぎりぎりは畑も牧場も作っておらず、保安の関係で領民の立ち寄りも推奨していない。そうやって領民が近づかない場所なので、魔獣頻出状態になってから見回りなども後回しになってしまっていた。そのため、普段は適度に間引きが出来ている小型の魔獣が増えている可能性があるとキールズが説明する。


「こっちは大物の目撃情報も上がってきてないから、数を減らせれば良いんだ。川の上流に魔石の鉱山がある関係で、魔魚やら小型の魔獣やらがちらほらいるんだ」


 と言うことだった。キールズとカインを先頭に、ディアーナとアルンディラーノとラトゥールと続き、クリスとゲラント、そして最後尾をアルンディラーノの護衛騎士二名が務める形で川沿いを歩く。

 時々飛び出してくる角ウサギや牙タヌキを、カインの魔法とキールズの剣で危なげなく狩っていく。

 川から勢いよく飛び出してくる魔魚をディアーナが闇魔法で目隠しして勢いを殺し、落ちてきたところをラトゥールが火魔法でこんがり焼く。

 草に擬態していた魔獣をアルンディラーノが刈り取り、鳥の姿をした魔獣をクリスが風の魔法剣で打ち落とし、ゲラントがとどめを刺す。

 最後尾を歩いていた近衛騎士二名は、常に『その先の危険』を予測して周りを警戒し、細々とした魔獣退治には参加しなかった。

 最初のうちは元気のなかったクリスだったが、魔獣を倒し、アルンディラーノとハイタッチをして喜び合ったりしているうちに楽しそうに笑うようになっていた。


「クリスは裏表無くて良いよなぁ」


 明るく笑うクリスを見てそうつぶやいたカインの言葉に、ゲラントは少し寂しそうに笑うだけだった。


 魔獣退治もいったん落ち着いた頃、アルンディラーノの予定に合わせてアイスティア領へと移動する事になった。王都で仕事をしている父、ディスマイヤが「こっちにカインもディアーナもエリゼも居ないなら」ということで、王都に残っている警備用の騎士を全部領地に戻す事にしたのだ。研修目的で王都に配属になっていた二年目と三年目の新人騎士達も、王都邸勤務として配属されていたベテラン騎士達も全てである。


「警護対象が居ないとはいえ、全員引き上げたら泥棒とか大丈夫なんですか?」


 とカインが父親の決定に疑問を持ったが、


「パレパントルも居るし、メイドや使用人のふりした戦闘員もいるから大丈夫よ」


 と母エリゼは笑い、


「ウェインズさん達がいれば、大丈夫だと思います」


 とイルヴァレーノも目を泳がせながら言っていたので、大丈夫なんだろうとカインは納得することにした。

 ネルグランディ領の騎士不足がとりあえずではあるが解消したことで、近衛騎士の貸し出しの必要もなくなった。むしろ、ネルグランディ城に王妃殿下と王太子殿下が滞在していると城の警備に人手を割かなくてはいけない為、移動した方が良いという判断をしたのだった。

 ネルグランディ領とアイスティア領の間にある領地は相変わらず治安が悪く、近衛騎士が馬車の周りを固めての移動となっている。ゲラントとクリスは護衛として行く事を希望し、騎馬での移動となっているが、事が起こる前に周りの近衛騎士達が片付けてしまうので出番はなかった。


「俺たちがどう警戒していて、どう動いているのかをよく見ておくのがおまえ達の仕事だよ」


 と、近衛騎士の一人がにこやかに声をかけていたが、クリスは悔しそうに顔をゆがめていた。

クリスとゲラントは、近衛騎士団の訓練に混ざっている関係で弟や息子のように見守られているのだが、先日のアルンディラーノの言葉が胸に刺さっているクリスにはその心遣いが届いていなかった。





「……。帰りたい」


 馬車の中では、ラトゥールが半べそをかいていた。

 ジャンルーカを見送り、その後ディアーナやカインとエルグランダーク家の領地で過ごすだけだと思っていたのに、また知らない土地へとドナドナされているのである。実家に帰りたいとは思っていないが、だからといって知らない人の家を転々としたいとは思っていないのである。


「ティアニア様はね、とってもお可愛らしいんですのよ」

「リベルティ夫人も、おしゃべりが楽しい方だよ」


 色々と配慮してくれたらしい母親世代の二人が一台目の馬車に乗り、学生組の四人が二台目の馬車にまとめて乗っていた。ぐずるラトゥールを励ますために、ディアーナとカインで行き先の楽しみを伝えようとしているが、小さい子が居るとかおしゃべりな女性がいるというのは、却ってラトゥールを萎縮させてしまっていた。


「滞在中、わたしは馬車で、寝泊まりする……から」

「いやいや、そんなわけに行かないでしょう」


 ディアーナは何度かリベルティとティアニアに会いにアイスティアに来たことがあるらしいのだが、カインは留学していたのでマクシミリアン事件の時しか行った事が無い。

 ラトゥールを励ますには魔法を思う存分使える場所があるとか、教えを請える著名な魔法使いがいるとか、とにかく魔法関係だろうと思うのだが、ほとんど行った事の無い他人の領地で邸なので、カインは何も思いつかなかった。辺境でもないのに騎士団があるんだよ、というのはきっとラトゥールには響かないだろうと、頭を抱えた。


「伯父上は読書家だから、書庫がすごい充実しているんだ。滞在中に読ませて貰うと良い」


 馬車の窓から外を眺めていたアルンディラーノが、珍しくしずかな口調でそういった。金色の髪に緑色の瞳という、自分と同じ色を持つティアニアの事を、アルンディラーノは妹の様に可愛がっていた。対外的には従妹という関係なのであながち間違いでもない。いつもは、ディアーナにうざがられるほどに「ティアニアに会いに行くんだ~」「ティアニアに会ってきたんだ~」とテンション高く語っていたアルンディラーノが大人しいので、ディアーナとしてはラトゥールよりもアルンディラーノのことが心配になってきた。


「お兄様、アル殿下も元気がないですわね」

「朝早かったから、眠たいのかな」

「そうかもしれませんわね。私もすこし眠たくなってきましたわ」

「じゃあ、僕の膝を貸してあげるよ。少し休むと良い」


 早朝出発すると、日付が変わる頃に到着する距離のアイスティア領。通り抜ける領地の治安が良ければ途中一泊という旅程にもできるのだが、そうも行かないので強行突破することになっている。

 ディアーナがウトウトしはじめ、カインもそれを見守って口を開かなくなると、馬車の中は静かになった。


 少し暑い馬車の中で、カインとディアーナ、そしてアルンディラーノとラトゥールはやがて寝落ちして、気がついた時にはアイスティア領の領主館へと到着していた。


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