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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
339/465

ピクシー・アンモレア伯爵令嬢とフェイリス・ファンクション伯爵令嬢

それから三十分ほど経った頃。


「そうですのよ。女性乗馬は基本横座りでしょう? でも、駆け足や襲足は横座りではなかなか難しいですし、女性も乗馬服でまたがって乗ることが一般的になってくれると嬉しいのですけどね」

「私はまだ幼いからおてんばで許されますけれど、やはり人目のあるところで馬に乗るとなると女性は横乗りなのですね」

「鞍も女性用と男性用で違いますし、今のままだととても不便だと思いません事? いざという時、何かあった時に男性用の鞍に乗れた方が対処しやすいと思いますの」

「その通りですわね。私も、少女騎士ニーナという絵本が好きで乗馬を始めたのですけど、絵本では馬にまたがって思い切り走らせていましたもの。憧れますわ」

「そうですの、スカートよりもマントをひらめかせて馬を駆けさせるのが夢ですの」


二人目の令嬢、ピクシー・アンモレアは乗馬の女性に対する区別に対する不満をディアーナにぶちまけていた。乗馬についてディアーナから水を向けられ、話題が男女で馬の乗り方が違うことについてに移り、ディアーナがうんうんと受け入れてくれる事でどんどんと口が止まらなくなっていた。

貴族令嬢も最低限の教養として乗馬は学ぶ。しかし、男性との二人乗りで落ちない様にとか、一人で乗るにしてもドレスのまま横向きに乗ってゆっくりと歩かせる所までしか学ばない。それ以上本格的に乗馬をしようとすればおてんばだのじゃじゃ馬だの言われてしまって揶揄される。

その現状に理解をしめして同意してくれるディアーナに対して、もうカインの妹だからという忌避感は無くなっていた。


「そういえば、サイリユウムの第二側妃様が不思議なワンピースを着ていらっしゃったの。スカートなのに邪魔にならずに馬に乗れるんですのよ」

「まぁ!? 乗馬服でなくて、ワンピースなのに馬に乗れるんですの? 横乗りでなくって?」

「はい。一目みただけですと薄布を重ねたスリット入りのスカートに見えるんですけど、実は下がズボンになっているんですの」

「まぁ、具体的にどんな作りだったかをお伺いしてもよろしくって? 是非まねさせていただきたいですわ」

「もちろんですわ」 


ピクシー・アンモレア伯爵令嬢も、ディアーナとの会話が楽しくて仕方が無くなっていた。





さらに三十分後。

カイン嫌い令嬢最後の一人、フェイリス・ファンクション伯爵令嬢はニコニコと始終笑ってディアーナと二人の会話を見守っていた。

その手の中のお茶はすでに三杯目となっている。


「フェイリス様。今日のお菓子はいかがでしょうか?」


心配そうな顔でのぞき込むようにディアーナが見つめると、フェイリスはにこりと微笑み返した。


「綿菓子は、味としては素朴ですわね。物珍しいですし口当たりも柔らかくて面白いですが、お菓子としては少々味気ないと思いました。でも、お茶へ入れる砂糖の代わりとしては素晴らしいですわね。雲のようにカップを覆う砂糖は見た目も可愛らしいですし、徐々に溶けていくのは見ているのも楽しゅうございました。ディアーナ様のおっしゃるとおり、猫舌の方には失礼にならずにお茶を冷ます口実にもなりますし、普通のお砂糖か綿菓子かを選べるお茶会が増えれば参加しやすくなる方もいらっしゃるかもしれませんわね」


ニコニコと優しい笑顔のまま、フェイリスが綿菓子について感想を述べた。それについて、ディアーナはふんふんと真面目な顔で頷きまくる。


「綿菓子はお砂糖を細い糸にして絡めただけの物ですから、味はお砂糖でしかありませんものね。おっしゃるとおり見た目で楽しむのが第一ですけど、糸状にしてあるので口の中でしゅわぁと消えていく食感を楽しむのも私は好きですの」

「あぁ、確かにただ砂糖をスプーンで掬って舐めるよりもなめらかで食べやすいですわね」


砂糖をスプーンで食べてるのか…。ニコニコと笑って話すフェイリスに、心の驚きを隠してディアーナもニコニコと笑う。


「アイスクリームはいかがでした? 色々な果物ソースをお試しくださってましたよね」

「もともと、アイスクリームって氷魔法か氷結の魔法が掛かった魔石を使って二時間ぐらいかけて作る物ですのに、目の前であっという間に出来るのはとても驚きましたわ。今は甘くしたミルクで作って果物ソースで味を変えて楽しんでおりますわよね? あれはもう少し粘度の高い液体でもいけるのかしら?」

「どうでしょう? 兄か、道具の改良をした厨房のものならわかるかもしれませんが、何かアイディアがございますの?」

「例えば、カスタードクリームでこの即席アイスを作ることが出来ればもっと幅が広がるのではないかしらって思ったんですの。ソースでは無くて、果物と果実入りのミルクを使ってみるとか、果実水で作ったらシャーベットの様にならないかしら? とか、色々想像して楽しい気持ちになってしまいますの」

「まぁ素敵! フェイリス様はお菓子にお詳しいのですね?」


カインが考え出した製菓道具に対して、次々と応用アイディアを出していくフェイリスは本当にお菓子が好きなようだ。


「チョコレートフォンデュですけど、一見目新しいですけれどチョコレートコーディングした果物というデザートはすでにございますのよ。あと、フランベっていって最後の仕上げを目の前でしてくれる調理方法もございますの。チョコレートフォンデュはその融合とでも言うのでしょうか。でも、自分で何をチョコレートコーティングするか選べるっていうのは素敵ですわよね。今は果物を用意してくださっておりますけれども、小さく焼いたパンケーキや、一口サイズのパイなどを用意しても良いかもしれませんわね」

「素晴らしいですわ、フェイリス様。ね、厨房係にも直接アイディアを聞かせてくださいません事? そして、是非お菓子作りを体験していただきたいですわ」


フェイリスは今のお茶で五杯目だ。

立食で、お菓子作り体験が出来る様にしているお茶会のため普通のお茶会よりも長時間になっている。立食だからこそ自由に抜け出してお手洗いにも行ける様になっているが、この場にいる三人の令嬢とディアーナは椅子に座って話し込んでいるため、お手洗いに立つためには断りをいれなければならない状態だった。

ディアーナは、フェイリスのお菓子好きという情報を元に、今日のお菓子やお菓子作りについて話題を振った。思ったよりも食いつきが良く、お菓子についての知識を披露してくれてディアーナも楽しく話が出来ていた。

しかし、そろそろ限界だった。


「では、私は綿菓子を作ってみたいですわ」

「私は、アイスクリームが花の形になるところを見学させていただくわ」

「チョコレートフォンデュの可能性について、お話を聞かせていただこうかしら」


それぞれがそう言って立ち上がり、一旦この場は解散となった。

東屋から出る際に、ティモシーもピクシーもフェイリスも、ディアーナににこやかに一礼した。もうディアーナに対して怯えても居なかったし嫌悪もしていなかった。


ディアーナの作戦は一応成功したと言えるだろう。


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