なまはげ参上!
イルヴァレーノが幼い頃に身を寄せていた、王都西の神殿に併設されている孤児院。
ディアーナはそこに慰問として遊びに来ていた。
ディアーナが一番最初に遊びに来た時のメンバーはすでに居ないのだが、数人卒業しては数人入ってくるという感じでいつでも人数は許容一杯になっている。そのため、二月に一度ぐらいの頻度でやってくるディアーナは常に顔見知りの子が居る状態だ。
「おびえさせてしまった人と仲直りするにはどうしたらいいかしら?」
「ディおねえさま、悪いことしたらごめんなさいだよ?」
「そうよねぇ。でも、お兄様はこんなに素晴らしい! ってお伝えしただけなのよ?」
「それでこわがられちゃったの?」
「そうなの」
「カイン様楽しいお兄ちゃんなのにねぇ」
「でしょう? お兄様が素晴らしくてごめんなさいって謝るのは違うきがするの」
「カイン様が面白すぎてこわくなっちゃったのかなぁ?」
そんな会話をしながら、ディアーナと孤児院の女の子達が並んで刺繍をさしている。六歳以上の年長組は神殿の裏庭にある畑の世話をしている時間帯なので、五歳以下の小さい子たちばかりが残っていた。
カインが素晴らしいことを全く疑っていないディアーナと、カインが夏休みに遊びに来て沢山遊んでくれた面白お兄さんだと思っている幼女たちの不毛な会話を、後ろに控えているサッシャとイルヴァレーノが『違うそうじゃ無い』と心の中で突っ込みながら聞いていた。
ディアーナは母エリゼと一緒に孤児院に訪問したのだが、エリゼは布と糸を含めた寄付品を置いたらすぐに次の予定へと向かってしまったので今はディアーナだけである。
五歳以下の小さい子達へ刺繍の刺し方を教えつつ、令嬢と仲違いしてしまった事を相談してみたり、最近食べたお菓子の話題や石はじき大会が開かれた事など、とりとめの無い話をしながらまったりと時間が過ぎていった。
そろそろハンカチの刺繍が完成するかというところで、
バンッ!
と勢いよく食堂のドアが開いた。
ディアーナがとっさに孤児達を背中に隠すように立ち上がり、そのディアーナの前に護衛の騎士二名とイルヴァレーノが壁になるように素早く移動してきた。
「ふぅーははははは。怪我してる子はいねぇがあっ! 具合悪い子はいねぇがぁ~!」
わざと作ったダミ声でそう叫びながら飛び込んできたのは、両手の人差し指を立てて頭に添えたピンクの髪の毛の美少女だった。
「あれ? お客様?」
小さな子を脅かす為に作っていた悪い顔を瞬時にきょとんとした美少女顔に戻し、こてんと首をかしげて見せたピンク髪の少女。手は相変わらず鬼の角を模して頭に添えられたままであるが、愛らしい表情でディアーナ達を見つめるのは、アウロラであった。
「アウロラお姉ちゃん!」
ディアーナの背中に隠れていた小さい子らが、飛び出してアウロラの方へと駆け寄っていく。
「ディおねえさま、アウロラお姉ちゃんだよ。変だけどあやしくないよ!」
可愛く首をかしげつつ、がに股で踏ん張り鬼の角を指で生やしたポーズのアウロラに、幼女が三人ほどかばうようにひっついた。
騎士二人は顔を見合わせ、イルヴァレーノはディアーナの顔を伺った。
「夏に、お兄様とセレノスタのお店に行ったときに居た子かしら」
ディアーナはさらにすぐ後ろに来ていたサッシャを振り向きながら聞き、
「そのようでございますね」
とサッシャは答えた。
「孤児院出身の男の子と懇意にしている少女です。ディアーナお嬢様とは一度顔を合わせたこともあるので、警戒不要のようです」
サッシャの声に、騎士二人は顔を見合わせつつも剣から手を離して壁際へと下がっていった。
サッシャの言葉が無かったとしても、入ってきたのがディアーナと同じ年頃の女の子だったのを確認した時点で剣を抜く気はそがれてしまっていたのだが。
「あ、えっと。おひさしぶりでございます。アクセサリー店以来ですね」
ようやく姿勢を正したアウロラが、見よう見まねといった様子でスカートをつまんで腰を落とした。
ディアーナもお手本のような淑女の礼を取り、
「お久しぶりね、アウロラさん。お元気そうで何よりだわ」
と挨拶を返した。
アウロラは、三ヶ月ほど前に治癒魔法が使える事が判明したということだった。
それ以来、時間があるときにご近所さん達の医者に掛かるほどでは無い怪我や体調不良を見てあげているそうだ。
そのついでに、王都の東西南北四カ所にある孤児院にも顔を出して怪我や体調不良の子どもを治療しているのだという。
「えらいわ、アウロラさん。私と同じぐらいの年齢で奉仕の心がしっかりとありますのね」
「ディアーナお嬢様だって、こうして孤児院へ訪問して刺繍の指導をなさっているじゃないですか」
ディアーナは引き続き孤児院の食堂で、孤児とアウロラに囲まれてお茶を飲んでいた。
本当は刺繍が完成するぐらいで引き上げる予定だったのだが、アウロラが来たことで一緒におやつを食べようと子ども達に誘われたのだ。
そのお菓子類も、今日エリゼとディアーナが持ち込んだものだ。
「私は貴族ですもの」
「ふふふっ。実はね。無償で治療してると見せかけて、おじいちゃんやおばあちゃんなんかはお小遣いをくれるし、おじさんおばさん達は卵やお野菜を持って帰りなぁ~って分けてくれるんですよ。孤児院の子達だって、こうやって大事なおやつを分けてくれるんです。全然奉仕活動なんかじゃないんですよ」
隣同士に座ったディアーナに、アウロラが顔を寄せてこそっと秘密を打ち明けるようにささやいた。
「まぁ、アウロラさんたら」
と言ってディアーナがくすぐったそうにクスクス笑う。きちんと貴族令嬢としての気品を持ちつつも年相応の可愛らしい笑顔だ。
「んんんんんん。ディ様良い匂い! マジ可愛い! やはり改変が起きているか!?」
「ディおねえさま、ディおねえさま。アウロラお姉ちゃんはお友達が沢山いるんだよ! お友達と仲直りする方法をおしえてもらったらよいとおもう!」
アウロラが鼻の穴を広げながら口の中でつぶやいた小声は子どもの声にかき消されてディアーナには届かなかった。




