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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
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秘密兵器その3

コールドプレートでのアイス作りもディアーナはやりたがったが、こちらは危ないからとやらせなかった。


「厚手の手袋を用意してからにしましょう。素手でやっては危ないですから」


というイルヴァレーノの言葉を聞いて、エリゼが大人用と子供用の手袋を作らせるようにと侍女に指示をだしていた。



お次のカイン考案の茶菓子第三弾は、実に簡単な物だ。

テーブルの上で、イルヴァレーノがパチンとスイッチを入れるのを見てディアーナが首をかしげた。


「湯沸かしポット?」

「そうです。湯沸かしポットの上半分を切り落とした物です」


熱を発する魔石の力で湯を沸かすという物で、貴族の家なら各部屋に一台という頻度で置いてある日用品である。

その、上半分が切り取られてポットの中身が見える状態になっている。


「甘い匂いがするわ。これはチョコレートかしら」


クンクンと鼻をならしつつ、エリゼがポットの中身をのぞいた。その中には茶色い液体がゆったりと波打っていた。


「奥様正解です。これはポットの熱で溶かしたチョコレートです。こうして、串に刺した果物やビスケットを浸してチョコレートを付けて食べます」

「口の中やけどしないからしら」

「チョコレートがたれてお洋服が汚れたりしない?」


すでに、串刺しの果物を手に取り、準備万端の体勢になりつつもエリゼとディアーナが一応という感じにイルヴァレーノに声をかけた。楽しみにしすぎである。


「脇に、冷気がでる様に小さめの氷の魔石が入っていますので、容器の外に出すときにチョコが固まるようになっています。安心してお試しください」


イルヴァレーノの言葉に頷くと、エリゼとディアーナは同時に串刺しの果物をチョコレートの中へと突っ込んだ。先端だけをチョコに浸して取り出したエリゼと、欲張って果物を全部沈めた上にぐるぐると回しているディアーナ。

先にチョコ掛けオレンジを食べたエリゼは、目を瞬かせたと思ったら口角をあげて幸せそうな顔をした。


「甘くて美味しいわ。チョコが固まると言っても表面が少し堅くなるだけで十分柔らかいのね。食べやすいわ」

「あっ!」


食べた感想をエリゼが述べている脇で、欲張っていたディアーナはチョコレートを付けようとしすぎて串から果物が落っこちてしまっていた。


「ディアーナ様。中でぐりぐりとかきまぜてしまうと果物に刺さった串が緩くなってしまいます。サッと付けてサッと食べるのがコツですよ」

「はぁい」


イルヴァレーノはコツを伝授しつつ、スプーンで沈んだ果物を取り出した。それをディアーナにあげても良かったが、ディアーナは自分で串を差し入れてチョコを付けたいのだろう。もう次の串を手に取っていた。


「はい、味見」


仕方なくイルヴァレーノは皿に乗ったチョコまみれの果物をサッシャに渡した。


「仕方が無いですね。お嬢様のミスをカバーするのも侍女のつとめですからね」


そう言いながら、サッシャは嬉しそうな顔でフォークを構えて皿を受け取った。


カインが考案した茶会用の目玉となる茶菓子第三弾は、チョコレートフォンデュである。




綿菓子、即席アイスクリーム、チョコレートフォンデュはエリゼとディアーナの他、パレパントルやティールーム所属の使用人達、材料を提供した関係で様子を見に来ていた厨房の料理人数名にも大好評で、用意していた材料はあっという間に終わってしまった。

イルヴァレーノが、


「ディアーナ様がご友人を招いてお茶会を開くようになったと聞いてカイン様が考案なさったんです。サラティ侯爵令嬢達にもきっと喜んでいただけるのでは無いかとおっしゃっていました」


とカインからの伝言をディアーナとエリゼに伝えた。招待を拒んでいる令嬢を呼ぶ為に考えたとは、悟らせないように。

ちなみに、サラティ侯爵令嬢というのはケイティアーノの事である。

この言葉にエリゼはノリノリで、間に合うお茶会から使っていきたい。むしろこのお菓子を出すためにお茶会を計画したいと言い出した。

早速、厨房を預かる料理人達で道具をよく見聞し、改良と複製をする作業が始まった。

元々、砂糖を水で煮詰めて細く垂らし、蜘蛛の巣状に固めた物を料理やデザートの飾りとして添える事はこの世界にもある。

なので、綿菓子機を見た厨房の面々はなるほどなぁとうなずきながら、すぐにその構造と理屈を理解してくれた。

厨房メンバーがパレパントルを通じて呼んだ金物工房の職人と打ち合わせをする事数回、カインとイルヴァレーノが二人がかりで試行錯誤して、有り物を組み合わせて工作した製菓玩具類よりスタイリッシュな物が複数台作成された。


綿菓子機については、カインは前世でよく見知っていた子どもの頭の大きさほどもある綿菓子を作る事を想定していたが、料理人やティールームスタッフ達はあくまでも貴族のお茶会で提供される茶菓子として考えた。

そのため、綿菓子機はコンパクトになり、一度に入れる砂糖も少量で棒の先に握りこぶしほどの大きさの綿菓子を作ってはトングでそっとつかんで棒から外し、皿に盛り付けるという形に落ち着いた。

もちろん、子どもや学生が招かれるような場では自分でくるくると綿菓子を作れるようになっている。


即席アイスメーカーであるコールドプレートも、カインとイルヴァレーノが作った物は上部の鉄板は四角かったのだが、料理人達が改良した物は鉄板部分が円形になり氷の魔石からの冷気の伝達量を調整する事で冷えすぎることも無くなった。

ヘラもお好み焼きのコテぐらいの大きさだった物をティースプーンより少し大きいぐらいのサイズにして、円形の鉄板の形に添って丸く削っていくことでアイスクリームを薔薇の花のように巻くことが出来るようになった。


チョコレートフォンデュは、半分にぶった切った湯沸かしポットでは底のチョコレートが焦げてしまうため、二重底になったボウルを作り、重なった底の間に水を入れて熱の魔石で暖める方式になった。お湯が冷めない湯煎器である。


綿菓子機もコールドプレート式のアイスメーカーもチョコレートフォンデュ機も、カインの前世で子ども向けの製菓玩具として存在していた。

前世では「男の一人暮らし飯」的な自炊をしていたものの、お菓子作りなんてやったことの無いカインであるが、商品として扱っていたからこの三つだけは仕掛けや理屈を知っていたのだ。

本当は練れば練るほど色が変わるとか、粉を付けて水につけると固まってブドウの形になるとかの不思議菓子なども用意したかったのだが、知育菓子は玩具メーカーの範囲外なのでさっぱり理屈がわからなかった。多分化学反応なんだろうということは想像できたのだが、それだけ。今回は諦めた。


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