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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
328/465

出張! 代理お兄ちゃん

もうすぐ秋も終わる頃、イルヴァレーノがカインからの手紙と土産を持ってリムートブレイクのエルグランダーク邸へと帰ってきた。



「お帰りなさいイル君」

「ただいま戻りました。奥様、お嬢様」


使用人用の門から馬車を入れたにもかかわらず、裏口前でエリゼとディアーナが迎えてくれた。びっくりして挙動不審になりかけたイルヴァレーノだが、なんとか表情を取り繕って侍従として主人に対する礼を取った。


「ネルグランディ城にも寄らずにまっすぐに帰ってきたのでしょう? 早く部屋にもどってゆっくりお休みなさい」


下げた頭の上から、エリゼの優しい声が降り注ぐ。


「お気遣いありがとうございます。荷物を下ろし終えたらお言葉に甘えて休ませていただきます。日も暮れて参りました、奥様とお嬢様はお体が冷える前に室内にお戻りください」


ねぎらいの言葉をもらったことでイルヴァレーノは頭をあげ、裏口などに出てきている主人二人に室内に戻るようにと促した。


「意地悪ね! カインから何か面白い物を預かってきているのでしょう? それが見たくて待っていたのよ」

「お兄様からのお土産を、見せてもらったらお部屋にもどるわ!」


イルヴァレーノの言葉に、わざとらしく怒ってみせるエリゼと好奇心があふれた表情のディアーナが、そう言ってずいずいとイルヴァレーノへと距離を詰めてくる。

どうやら、カインが出してくれたイルヴァレーノが戻るという知らせの手紙に、お茶会用秘密兵器があることが書かれていたようだ。

イルヴァレーノは目の前にいる二人に気づかれないように小さくため息をつく。


(稼働させるまでは内緒にして驚かせようって言っていたのはカイン様なのに!)


どうせ、ディアーナに良いところを見せたくて我慢できなくて匂わせるような事を手紙に書いたのだろう。エリゼは何か面白い物としか言っていないしディアーナもお土産としか言ってこないので、どういった物なのかはかろうじて漏らしていないようだ。


「箱から出しただけでは役に立たない代物なのです。組み立てが必要なので、明日のお茶の時間に披露させてください。別に用意する必要のある物もあるのです。カイン様からも、くれぐれもそうするようにと厳命されておりますので、どうぞご容赦ください」


そう言って改めてイルヴァレーノが頭を下げれば、非常に残念そうな顔をしつつも二人は承諾した。好奇心は旺盛だが礼儀正しく育てられた令嬢と女性なので、好意を持っている相手に対して無理やわがままを押し通す様な事はしない。

淑女である。


「わかったわ。でも、イル君はもうお風呂に入ってやすんじゃいなさい。荷物は屋敷の者に運ばせるわ。どこに運び込むのが一番良いのかしら?」

「普段使っていない方のサロン、もしくはお茶会が出来る方の温室へお願いします」


イルヴァレーノの言葉を聞いて、エリゼが後ろへと合図をおくれば次々と使用人が出てきて馬車から降ろされた荷物を運んでいった。

エリゼはひらひらと手を振って邸の中へと戻っていき、ディアーナはイルヴァレーノと一緒にカインの私室隣にあるイルヴァレーノの部屋まで移動した。


「イル君、イル君。こっそり教えて? お兄様は何を贈ってくださったの?」


という感じで、ディアーナはお土産の中身を聞き出そうと、イルヴァレーノの回りをぐるぐるとまわりながら色々と質問してきた。

イルヴァレーノはその度に、


「内緒です」

「秘密です」

「明日のお楽しみです」


と部屋の前に到着するまで答え続けて、ディアーナはほっぺたを膨らませつつも諦めた。


「じゃあね、イル君。おやすみなさい、明日はお土産とお兄様のお話を楽しみにしておりますわよ!」


ぶんぶんと大きく手を振りながら、ディアーナは自分の私室へと戻っていった。


「元気そうに見えるけど」


つぶやきつつも、大げさにわざとらしく手を振るディアーナの表情にイルヴァレーノは眉をしかめた。

カインと離れていた一年半、イルヴァレーノはパレパントルにくっついて仕事を覚えるようにしていたが、パレパントルは主人であるディスマイヤの執事である。

王城へ出仕するディスマイヤについて行くこともあり不在にすることも多かった。そんな時、イルヴァレーノはほとんどの時間をサッシャと共にディアーナに仕えていた。

近くで見ていたディアーナは、人目が無くても淑女として振る舞えるようになっていたし、元からの元気の良さを発揮しつつもちょうど良いバランスで淑女らしさを崩さずに居られるようになっていた。

それからすれば、今の袖が振り切れそうなほど大きく手を振り、パカンと口を開けて笑う様子はとても不自然である。


「空元気じゃんか」


心配させまいと無理に笑って見せているディアーナに対し、無理をしている事への心配と、使用人として頼られない不甲斐なさと、カインと同じ様に兄貴分として見栄を張られているむずがゆさを感じるイルヴァレーノ。

サッシャを引き連れ、廊下の角を曲がっていくディアーナの後ろ姿を見届けた後、自分の任務の重さに身を引き締めつつイルヴァレーノは久々の自室へと入っていった。


誤字報告いつもありがとうございます。


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