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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
319/465

ディアーナの計画

おまたせしました

夏休みは、長いようで短い。


「でぃああああああああなああああああ」


だんだんと小さくなっていく馬車の後ろ姿とカインの泣き声を見送って、ディアーナは大きく手を振った。

父と母、そして使用人総出でのお見送りの場でカインは戻りたくないと駄々をこねていたが、サイリユウムへと一緒に戻るイルヴァレーノに首根っこを掴まれて馬車に引きずり込まれていた。

王都のエルグランダーク邸で働いている使用人達はカインの相変わらずのディアーナ溺愛ぶりに「変わりませんねぇ」と微笑ましく見送っていた。


カインの乗った馬車が見えなくなると、ディアーナはサッシャを引き連れて邸の玄関へと戻る。

カインとイルヴァレーノが居て一緒になって沢山遊んでいたそこは、二ヶ月前よりも静かになったように感じられた。


「さみしくなってしまったわね」


父と母もそれぞれ執務室や私室に戻り、使用人達もそれぞれ持ち場に戻った今、玄関ホールにはディアーナとサッシャの他には人影が見当たらない。

ディアーナは誰もいない静かな玄関ホールを見上げて静かにため息をついた。


「カイン様の事ですから、来年の夏休みもお戻りになりますよ。それに、飛び級のために頑張っていらっしゃいましたから、一年半後には留学を終えられるでしょう」


サッシャはさみしそうなディアーナを慰めるようにそう言うと、優しく肩を撫でた。そんな優しさにディアーナも小さく笑うと、肩に乗っているサッシャの手をポンポンと軽くたたいて答える。


「そうね、お兄様はとっても頑張っていらっしゃったわね」


ディアーナは自分の部屋へと続く道ではなく、図書室へと向かって足を進めた。


カインは夏休みでリムートブレイクへと帰ってきている間、暇さえあればディアーナと一緒に遊んでいた。

刺繍の会で課題として出されている図案を一緒に刺繍したり、冷やして美味しい果実茶を見つけようとして色々な果実茶をブレンドして飲みまくってそろってお腹を壊したり、王都邸の裏庭にもブランコを作ってみたり、鳥男爵の邸へ羽をもらいに行ったり、羽ペンを自分で作ってみたり。

とにかく、イルヴァレーノやサッシャも巻き込んで夏を満喫していた。


しかし、ディアーナはまだ学生ではないため夏休みという物がなく、家庭教師の授業が通常通りにあった為、夏休み全てをフル回転で遊んでいたというわけではなかった。

そんな時には、カインもそばで自分の勉強をやっていた。貴族学校の課題だったり、飛び級するために必要な勉強だったり、それは様々な内容だった。ディアーナの授業の合間に、イアニス先生に質問することが出来て勉強がはかどったとカインは喜んでいた。

勉強時間もカインと一緒に居られたことを、ディアーナは素直に喜んでいた。しかし、夏休みも後半になって、わかったことがあった。


カインは、ディアーナの勉強中以外にも、早朝や夜中に勉強をしていたようなのだ。

サイリユウムとリムートブレイクにはなればなれになっていても、お互い習慣として続けていた早朝ランニング。それを、カインは夏の後半になって三日に一度ほど休むようになっていたのだ。

若干寝不足気味になっていたカインを、イルヴァレーノが無理矢理布団に縛り付けて二度寝させていたのだと、夏休みも終わり頃になってサッシャから聞いた。


「それほどまでに、三年連続して飛び級するというのは難しいことなのですよ」


とは、イアニス先生の言葉だった。

カインはすでに、アンリミテッド魔法学園を卒業できる分の勉強は済ませている。そのため、留学先でも算術や物理学、現代経済については問題ないのだ。

しかし、国が違えば歴史が違う。経済についても国が違えば発展課程が違う。文学についても、詩のルールが違ったり、魔法がある国と無い国では情緒がちがったりして『この時の主人公の心情を述べよ』といった設問にカインは苦労していた。

サイリユウムは魔法の無い国なので、体が出来てくる高学年からは剣術や弓術なども授業に入ってくる。

六年分で学ぶことを、三年で学ぼうとしているのだから、やはり忙しいのだ。


「お兄様は、約束通り飛び級して三年生になってくださった。そして、次も飛び級して五年生になる為に頑張ってくださってた」

「さようでございますね」


ディアーナは図書室へと入ると、一番奥の窓際の席へとすわる。サッシャはその後ろへと立つ。


「きっと、お兄様はアンリミテッド魔法学園に四年生から編入してくるよね?」

「間違いございませんね」


図書室へと入り、近くには後ろに立っているサッシャのみ。ディアーナは少し言葉を崩して椅子の背もたれに体をあずけた。

サッシャが入り口側に目をやると、エルグランダーク家の図書室を預かっている司書係が小さく会釈して奥の部屋へと下がっていった。


「サッシャは覚えているかしら。お兄様が留学の前にお見合いというか、顔合わせのお茶会をしていたのを」

「……。覚えておりますとも」


留学前、カインは同年代の令嬢を招いての一対一のお茶会を何回か開催している。セッティングしたのは両親であるが、招待状の名義はカインになっていた。

そこにカインは、ディアーナを同席させた。そして「プレお見合いなのだから、妹さんには遠慮していただいて」という発言をした令嬢には冷たく接し、まるでディアーナなどいないかのように振る舞った令嬢にはカインも無視をして返した。


カインの理想のお嫁さん像は「カインと一緒になってディアーナを愛してくれて、カインがディアーナを優先しても嫉妬しない女性」なので、そのふるいにかけたのだと言えばそうなのであるが。


「あれは、ちょっとお相手の令嬢たちに同情いたしました」


頬に手を添えて、困ったような顔をしたサッシャがつぶやく。

当然、相手の家からも抗議の手紙が届き、母エリゼは頭を抱え、父ディスマイヤはカインの留学を決めたのだ。


「未だに、お兄様と同じぐらいのご令嬢達のあいだで、お兄様の評判は最悪だそうよ。二年後、アンリミテッド魔法学園に転入してきたときに、お兄様の居場所が学校にないのでは困るの」


ディアーナは目の前のテーブルに肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せた。お行儀がわるい格好ではあるが、最近読んだ絵付き小説の探偵がよくやっているポーズをまねているのがわかっているのでサッシャは見て見ぬふりをする。


「お兄様が、私との約束を守ろうと頑張っているのなら、私もお兄様が帰ってきやすいように頑張らないとね!」


令嬢というにはほど遠い、口角を片方だけつり上げるようににやりと笑って見せたディアーナ。これも、小説の探偵が解決編のはじめにする表情である。


「ふむ、ではどうなさいます?」


そんなディアーナの顔をのぞき込んでいたサッシャも、探偵小説の聞き手役の台詞でディアーナに問いかけた。


「ふふっ。それは、今から考える!」


アイディアのひらめき具合までは、探偵バリと言うわけには行かないようだった。


ここからしばらく、ディアーナのターン

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