ちょっとおかしい人
アクセサリー工房は、裏口入ってすぐが広めの土間の様になっていた。壁には道具類がぶらさがり、小さな作業台が三つほど壁沿いに並べられている。奥には職人達のいる工房へとつながるドアがあり、その前に接客用のカウンター台が置かれていた。
「ここでは、アクセサリーの修理に来た人の対応をしたり、商人などの取引先の対応をしたりしています。簡単な物ならこの場で修理して返す事もありますし、取引先の要望で既存の商品に手を加えて試作品を作って見せたりもするので、道具類が一通りそろっているんですよ」
見守り役の職人がそう紹介してくれた。
実際の工房は危ないし秘密の工法などもあるため、カイン達の羽ペン作りはここで行うということだった。カインとしても、職人達の仕事の邪魔をするのは本意では無いので承諾する。
「羽ペンなんですけど、羽の軸を直接削ってペンにする方法と、木軸を付けて金属のペン先を付け替えられるようにする方法がありますけど、どっちにしますか?」
そういって、セレノスタが二本の羽ペンを見せてくれた。
片方は、羽の軸先が紙パックに刺すタイプのストローの先のように斜めに切り取られ、とがった先から切り込みが入った状態になっていた。もう片方は、羽の先にツヤツヤとした木製のペン軸が付けられていて、付け替えの出来る金属のペン先が差し込まれている。カインの前世の同人作家の友人が使っていた丸ペンやGペンのお尻から羽が生えているみたいな形だ。
「デリナの羽ペンはこっちだった気がしますわ」
ディアーナは羽の先に木製のペン軸が付いた方を指差した。カインもその手元をのぞき込んで、
「たしかに、こっちだったね」
とうなずいた。
デリナの羽ペンは、デリナの孫が拾ってきた羽を細工師の息子が加工した物だ。デリナは下位貴族の夫人であったが、領地を持たない貴族であったので次男以降はそれぞれ手に職を付けて独立しているということだった。
「ちなみに、庶民の間では羽の軸を直接ペン先に加工した物を使う事が多いです。金属のペン先は高価ですから」
そんな感じの説明を色々と聞いて、いよいよ羽ペンづくりを始めようということになった。ディアーナは木製のペン軸を付けて、ペン先を交換できるタイプを作る事にした。その方が長持ちすると言われたし、見た目もきれいなので。
せっかくなので工房に用意されていた焦げ茶色の羽や白い羽を使ってカインとイルヴァレーノも羽ペン作りに参加することにした。サッシャは「私は大人なので」と断っていた。
カインとディアーナで一つのテーブルを使い、向かい合わせでセレノスタが座って指導をしてくれることとなった。イルヴァレーノとアウロラでもう一つのテーブルを使い、そちらは見守り役の職人が指導をしてくれている。サッシャはカインとディアーナの机のそばに座ってニコニコと作業を見守っていた。
ペン作りそのものは大して難しいこともなく、十歳のディアーナでも問題なく進めていくことができていた。というのも、あらかじめ羽の軸を差し込む為の穴の開いたペン軸を工房の方で用意してくれていたので、ニカワを付けてその穴に羽を差し込むだけだったのである。
どちらかと言えば、そのペン軸に色を塗ったり絵を描いたりビーズやリボンを付けたりといった加工を楽しむのがメインとなっていた。
「ふぉぉぉ。何という二.五次元。マジンガヤバミチャン。推し変待ったなしかよ~」
ぼそぼそと、十歳の女の子が出すとは思えない低い声が背中から聞こえてくる。
カインが振り返れば、アウロラがイルヴァレーノに聞こえないようにと後ろを振り返って口元を隠しながら独り言を言っていた。イルヴァレーノと職人に聞こえないように配慮したせいで、背中側のテーブルで作業しているカインに丸聞こえになってしまっているのだ。
「セレノスタぁ」
「聞こえないふりをしてやってください」
カインが小さくアウロラを指差しながらセレノスタに訴えかけるような目でささやくが、セレノスタは可哀想な子を見る目でアウロラの背中をみるだけだった。
(二.五次元とか言ったよな? まさかとは思うけど、アウロラも転生者なのか?)
カインは手元の羽ペンの絵の具が乾くのを待ちながらチラチラとアウロラの様子をうかがっている。この世界の平民が二.五次元という言葉を別の意味で使っている可能性もある。そもそも、転生者だとしたらこんなことをブツブツと口に出すのはうかつすぎる気がする。
「まだだ、まだ焦る時間じゃない。落ち着けアウロラ氏」
「……」
「メリバ拒否勢だったけど、めっちゃ健康そう。お肌ツヤツヤ。もしや優しい思い出イベント別人と発生した系?」
「……」
アウロラ、転生者確定である。
ちょっと?




