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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
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お茶会は大混乱

温室庭園の扉を開くと、つる植物でアーチを作った通路が一メートルほどあった。その先に色とりどりの花が咲き乱れる庭園と、中央に丸いテーブルとイスが用意されているのが見えた。

植物アーチの通路は短いが陰になってくらいためか、通路の先はまぶしいぐらいに明るかった。

ディアーナは思わず目を細めて、テーブルに座って待っている人影をみる。逆光気味ではっきりと顔は見えなかったが、人影は小柄な人物が四人いるようにみえた。


「……あの子たちは、まったくしょうがない……」


ディアーナの隣に立っていたシグニィシスは、片手で目を覆うと大きくため息を吐いて首を横に振った。

しばらくじっとしていたが、もう一度大きく息を吐きだすとスッと背筋を伸ばしてくるりと振り返りエリゼに向き合った。


「申し訳ない。王女二人は不参加だとご案内していたかと思うのだが、出てきてしまったようだ」

「あら、そうなのですね。ディアーナと年齢が近いとお伺いしております。楽しくなりそうでよろしいですわね」


シグニィシスには茶会のテーブルについている人物がちゃんと見えているようだった。王女二人がいるということを、なぜか申し訳なさそうにエリゼに告げた。

エリゼは、急遽メンバーが増えたことに対する謝罪かと思って楽しそうで良いですねと歓迎の意をしめしたのだが、シグニィシスの顔は渋いままだった。


「いや……。いや、前もって言っておいた方が良いだろう。あの二人は、王宮内で甘やかされて育ったせいか少々わがままで、しつけが行き届いていないところがある。失礼な言動をする可能性があるが、どうか寛大な心で流してくれるとたすかるのだが」


シグニィシスがとても言い難そうにそういうのを聞いて、エリゼはなるほどそういうことかと理解した。

エリゼとディアーナはこの茶会で言えば他国の筆頭公爵家の夫人と令嬢という超要人という立場である。本音はカインに会いに遊びに来ただけなのだが、一応表向きの理由としてリムートブレイク王国王妃からの親書を預かってきたという事になっているので、正式な国賓である。

この茶会の主催者が名義上だけでもサイリユウム王国王妃となっているのもそのためだ。


「もちろんです。こちらといたしましても、まだ幼いディアーナの未熟な部分を受け止めていただけるとうれしゅうございますわ」

「そう言ってもらえると、助かる」


エリゼがお互い様ですね、という意味の返事をすれば、シグニィシスがほっとしたような顔で謝意をのべた。

エリゼとしては、ディアーナの『世を忍ぶ仮の姿』はほぼ完ぺきなのでこちら側の粗相はないと確信している。であれば、あちらの年の近い王女二人が本当にしつけのできていない女の子なのだとすれば逆にディアーナの株が上がるというものである。

それはすなわち、そんなディアーナを育てた母であるエリゼも一目置かれるようになるという事である。それは、今後の行動のしやすさや交渉ごとを優位に進めるのにとても役に立つので、かえってありがたい事であった。


おほほほ、はははは。とお互いの顔をみて笑いあい、じゃあ行きましょうかと庭園へと改めて体を向けたところで声がかかった。


「《何か問題がありましたか?》」


温室庭園に入ってすぐ、緑のアーチの下で立ち止まったままテーブルの方へとやってこないのを心配して、ジャンルーカが迎えにきたのだった。

心配そうな顔をしつつ、シグニィシスとエリゼ、そしてディアーナの順にぐるりと顔を見渡してリムートブレイク語で声をかけてきた。


「《あの二人が居ることについて謝罪していたのだ。もうそちらへ行くよ。……そうそう、エルグランダーク夫人。本日はあなた方を歓待するための茶会なので、茶会の間はリムートブレイク語で会話しようと思う。気楽に自国語でくつろいでほしい》」

「《まぁ。お気遣い感謝いたしますわ》」


シグニィシスがジャンルーカに返事をした後、エリゼを振り返って本日はリムートブレイク語で過ごす旨を伝えてきた。

もしかしたら、二人の王女はしつけもそうだがリムートブレイク語が堪能ではないのかもしれないとエリゼは思った。それで、今回の茶会の趣向には向かないので不参加となっていたのではないかと考えたのだ。


「《エルグランダーク夫人、ディアーナ嬢。お手紙では言葉を交わしておりましたが、こうしてお会いするのは初めてですね。お会いできてとてもうれしいです。ジャンルーカです》」

「《はじめてお目にかかります。エリゼ・エルグランダークでございます。お手紙の文字も美しかったですが、言葉も流暢でとても綺麗ですわね、ジャンルーカ王子殿下》」

「《はじめまして、ジャンルーカ王子殿下。ディアーナ・エルグランダークです。お手紙のやり取りが楽しくてはじめましての気がしません。でも本当にお会いできて光栄です》」


ジャンルーカが二人ににこやかに挨拶をすると、それぞれの手を取って自分の額に当てた。それを受けて、エリゼもディアーナも笑顔で返事をし、場は和やかな空気に包まれた。

そのまま、エリゼはシグニィシスが手を引いてエスコートし、ディアーナはジャンルーカが手を取ってエスコートをしてテーブルまで移動した。


テーブルには、ディアーナと同じ年頃の女の子が二人と、小柄な女性が待っていた。ディアーナ達が近づいてくると立ち上がり、テーブルへと到着すれば挨拶を交わして皆でテーブルへと着席した。


女の子二人は、フィールリドルとファルーティアである。ぎこちないがきちんと通じるリムートブレイク語で挨拶ができていた。

もう一人の女性は第三側妃でファニファールと名乗った。立ち上がってみると背丈がずいぶんと小さい人で、九歳のディアーナより少し高いぐらいしかなかった。その代わり胸や腰など出るところは出て、ウエストはキュッとしまった悩ましボディな女性だった。


最初のうちは、お茶会は和やかなムードで進んでいった。

会話の内容は、お互いの国の季節の話や流行りのお菓子やお茶のフレーバーについて、文化の違いに驚いたことなどの当たり障りのない物だった。

ジャンルーカはリムートブレイク語で交わされるそれらの話に難なくついてきており、自分の意見や感想なども積極的に発言していた。

二人の王女も、カタコトになりがちではあるものの笑顔を作りながら相槌を打ってなんとか会話に参加していた。


会話が盛り上がってくると、身の上話などになってくる。

第二側妃は高位貴族家出身の令嬢なのだが、小さなころからずっと騎士になりたかったと話した。

「サイリユウムには女性騎士がいるのですか?」

とディアーナが目を輝かせて質問すると、

「ごく少数だがいる。しかし、彼女らはみな平民出身なんだ。貴族令嬢が騎士になるなどはしたないとされてしまう。とうぜん、私も反対されてしまった」

と残念そうなしかしまんざらでもない笑顔で答えてくれた。

「それでもこっそり剣の練習をしていてな、それが陛下の目に留まったのだ。側妃という立場で入城し、王宮の居住区域、特に女子供の多くいるところを守る騎士となってほしいと乞うてくれたのだよ。だから、一応ドレスにも見えるズボンをはき、いざという時の為の帯剣も許されている」

茶会の場なので、今は剣をもっていないと言いつつ、ぴらりとドレスの裾をつまんで足先をみせてくれた。

ディアーナが目をランランと輝かせてその話を聞いているのをエリゼは心配そうに見つめていたが、第三側妃のファニファールが突っ込みを入れてきた。


「でも、シグニィシスもこのままでは表に出られないのよ。やっぱり貴族令嬢が騎士をやるのははしたないというのは常識になってしまっていますものね。ご実家の名誉の為にも、シグニィシスが王宮で騎士ごっこをしているというのは内緒にしてくださいましね」

「騎士ごっことは、きつい事を言うなぁファニファール」

「傍からはそう見えるというお話ですわ。でも、私たちは頼りにしているのよ。男性に守っていただくにははばかられる場所も、あなたたちになら安心して護衛してもらえるもの。ふふふ」


第二側妃のシグニィシスと第三側妃のファニファールの仲は良いようだった。


近々行われる建国祭の騎士行列には、シグニィシスは参加しないのだという。幼いころの『ちびっこ騎士行列』には参加できたが、学生になるともう『令嬢なのだから』と言われて参加させてもらえなかったといったことを面白おかしく装飾して話してくれた。

騎士行列の話を受けて、ディアーナは令嬢らしくおとなしく優雅に笑いながら話を聞いていたが目はランランと輝き興味津々であることがエリゼにはまるわかりになっていた。

参加したいとか言い出さないといいけれど、と心の中でため息をついた。


ジャンルーカも『ちびっこ騎士行列』に参加するのだと言って、洋服を仕立てた事や礼の仕方などを兄から習った事などを楽しそうに語っていた。


和やかなお茶の時間が過ぎているかと思われた。

一時間ほど経ち、お茶の種類を変えましょうという事になってテーブルの上の茶器がいったん片づけられ、給仕係のメイドが新しいカップや菓子用の小皿をセッティングするために人の間に入ってきた。

それぞれ、自分の目の前に置かれた新しいカップやメイドがポットに茶葉と湯をいれ用意する姿に視線を取られ、他人への注意がそれていたその時に、事件が起こった。


パシンと乾いた音が温室庭園に響き、すぐ後にガタンと椅子が倒れる音がしたのだ。


驚いてディアーナが振り向くと、第一王女のフィールリドルの手が顔の前まで上がっており、ジャンルーカが椅子から落ちて床にしりもちをついていた。


その場にいた誰もが、一瞬何が起こったのか理解できずに固まってしまった。

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