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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編
265/465

作戦会議だ!

サイリユウム王国の現王都サディス。

そのサディス内の、王宮近くにある高位貴族用の宿にエリゼたちエルグランダーク一行は滞在している。

三階建ての宿の最上階を丸々借り上げ、連れてきた使用人や御者、護衛も同じ階に宿泊させている。

連れてきた使用人の中にはサイリユウム語が堪能ではない者もいるので、コミュニケーション不全によるトラブルを避けるためであり、連れてきた少数の護衛で皆を守るためでもある。


エリゼとディアーナの利用している客室には居間や応接室、浴室なども完備されている。

主寝室の他に二つ寝室があり、主寝室でエリゼが、残り二つある寝室のうちの一つでディアーナが寝起きしていた。

フロアにある他の部屋にはエリゼが連れてきた使用人たちが寝起きしており、イルヴァレーノとサッシャもそれぞれ一部屋ずつ与えられていた。

こちらは、入ってすぐに文机と椅子があり、衝立の向こうにベッドが置いてあるという簡単なつくりの部屋ではあったが、広さはそれなりにあった。


カインへの手紙の配達を終えたイルヴァレーノは、お使いが終わったことを報告するためにエリゼとディアーナのいる客室へと赴いた。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、イルヴァレーノ」

「……」


客室の居間では、エリゼとディアーナが並んで大きなソファーに座ってお茶を飲んでいたのだが、ディアーナは相変わらずほっぺたをぷっくりと膨らませて怒ったような顔をしていた。

への字に曲がった口のまま、ふぅふぅと器用に紅茶に息を吹きかけて冷ましている。


「夜更けだったけれど、管理人さん? かしら。係の人に申し出れば大丈夫だったでしょう?」

「……はい、無事に手紙を渡すことができました」


イルヴァレーノも、ちゃんと一度は寮の玄関口へと訪れたのだ。しかし、玄関には鍵がかかっていて呼び鈴を鳴らしても誰も出てこなかった。

普通の侍従であればそれで引き返すところだが、イルヴァレーノは普通ではなかったためにカインの部屋へと忍び込むことにしたのだ。

夏休み前に迎えに来た時に、一度カインの部屋へと荷物を取りに行っているので部屋の場所がわかっていたのもイルヴァレーノの背中を押した。

王子と同室だとは思っていなかったが、めんどくさがりなのかおおざっぱなのか、当のジュリアンは不問としてくれた上に向こうから「他言無用」と言ってくれた。

カインがエリゼに漏らさなければ、イルヴァレーノのお()()はバレない。手紙を渡せたのは確かなので、嘘は言っていない。


少し目が泳いでいたイルヴァレーノを見て、エリゼも少し訝しげな表情を浮かべたが、すぐに朗らかな笑顔へと戻っていた。


「どうだったかしら? カインはディアーナがなんで拗ねちゃったのかわかっている様子だった?」

「嫌いと言われたショックからようやく立ち直ったところで、まだそこまで考えが回っていないご様子でした。滞在場所のメモを渡すと、すぐにでもこちらに来ようとしましたので、お言いつけ通りに『原因がわかるまで来ない方がよい』と伝えておきました」


イルヴァレーノの答えに、まあそうでしょうねと呆れた笑いをこぼしたエリゼは、隣に座るディアーナの膨らんだほっぺたをつんつんと突っついた。


「ディアーナ。お兄様はまだあなたの拗ねた原因がわからないようよ……。でも、あなたもいつまでも拗ねていても仕方がないわよ? カインはこちらの国でできた新しいお友達と仲良くしていただけなのですからね?」

「……わかってるもん」


母にほっぺたをつつかれ、ぷしゅーと音を立てて口から息を漏らしながら、ディアーナは不服そうに答えた。

自分に見せたことの無い顔で笑い、怒り、焦るカインを見てディアーナは驚き、焦り、そして嫉妬したのだ。

自分だけのお兄様だったはずなのに、自分以外の人間に自分には見せたことの無い顔をみせているカインが急に遠くに行ってしまった気がして寂しくなっただけ。カインは悪くない。そんなことはディアーナもわかってはいるのだ。


「でも、アル殿下やケーちゃんと一緒に遊んでる時もあんな顔しなかったもん」

「ふふっ。ディアーナ、ちっちゃい子みたいな言葉遣いになってしまっているわ。もう、それを飲み終わったらお風呂に入って寝てしまいなさい。きっと明日にはカインが来るでしょうから、言いたいことがあるのなら、その時にいっておやりなさい」


エリゼが、隣に座るディアーナをそっと抱きしめてやさしく頭をなでた。

エリゼは夏休み中にカインに会っていない為、一年弱ぶりにカインと顔を合わせたのだが伸びた身長や凛々しくなった顔つきに驚きつつ、応接室でのディアーナ甘やかし術の変わらなさに呆れもした。

ジュリアンも居る場所で流れるようにディアーナを膝の上に乗せる様子などを見るに、ディアーナが絡むと自制が効かずどうしようもなくなるのは治っていない。であれば、なんでディアーナが拗ねたのかがわかっていなくても、きっとカインは来るだろう。

イルヴァレーノを使って釘は刺したので、学校をさぼるような事はしないだろうからおそらく夕方頃に。エリゼは、そう予想している。


「ディアーナも沢山お友達を作って、逆にカインを嫉妬させてあげればいいのよ」

「!」


九歳のディアーナの世界はまだ狭い。家族と屋敷内の使用人、家庭教師、刺繍の会に参加している人たちぐらいしか知り合いがいない。刺繍の会は侯爵家以上の家格の者しか参加していないうえ、初回の子どもの会以降も参加し続けている子どもはとても少ない。

隣国であるこの国に遊びに来たエリゼは、この国の王妃殿下に面会する予定もあり、その後お茶会に呼ばれる可能性はとても高い。そう言った場でディアーナが年相応の友人を作れれば良いという軽い気持ちで言った一言だった


そんなエリゼの何気ない一言に、ディアーナは天啓を得た! という顔をした。

そして壁際で控えていたサッシャとイルヴァレーノの方へと顔を向けるとにやりと笑った。悪い顔である。


イルヴァレーノは、

(家人やアルンディラーノ王子殿下、孤児院の子らと遊んでる時にとっくにあいつ嫉妬しまくりなのにな。かわいそうに)

と、ここにはいない自分の主に同情した。


サッシャは、

(完璧侍女として活躍する時が来た! あの悪い顔を表に見せずに、いかにディアーナお嬢様にたくさんお友だちを作っていただくか……腕が鳴るわね!)

と、やる気に満ちていた。


ディアーナはカップに残っていたお茶をグイっと飲み干すと、母の腕の中から抜け出してすくっと立ち上がった。拗ねて半眼になっていたディアーナの目は、今やる気に満ちている。その中に炎が見えそうな熱血の瞳である。


「お母様! おやすみなさい! サッシャ! イル君! 作戦会議をします!」

「おやすみなさい、ディアーナ。夜更かししてはダメよ」


すっかりと淑女の皮がはがれてしまい、小さく駆け足で自室へと向かうディアーナの後ろ姿に声を掛けつつ、エリゼは思った。


「ディアーナも、カインがかかわるとダメねぇ」


結局、似た者兄妹なのである。




誤字報告ありがとうございます。助かっております。

茶碗蒸し、私はタケノコとか入ってるの好きなんですよね

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