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悪役令嬢の兄に転生しました  作者: 内河弘児
サイリユウム留学編

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あーべーせーでーえーえふげー

誤字報告、感想いつもありがとうございます

真っ白い石造りの廊下に、靴音が響く。

天井が高く、響いた音があちらこちらから聞こえてくるために音の発生源がわからない。

そんな廊下をカインはジャンルーカの後ろについて歩いていた。

その手首には、ジャンルーカとおそろいの魔法封じのブレスレットが付けられていた。


「ごめんなさい、カイン。そんなの付けられて嫌だよね」


前を歩くジャンルーカが、申し訳なさそうな顔をして振り向いた。カインはにっこりと笑うと小さく首を横に振る。


「王宮へとお邪魔するのですから、警備上当然の処置だと思います。気にしないでください」

「ありがとう、カイン」


先日、ジュリアンからジャンルーカの家庭教師をやらないかと声をかけられたカイン。その報酬の高さと、空き時間で自分の勉強をしてもよい、ジャンルーカと一緒なら王宮の図書室を利用しても良いという好条件を提示され、一晩悩んだが結局引き受けることにした。


サイリユウムの王族は一夫多妻制なだけあって、王子王女に関する予算・事務、その他もろもろを管理維持運営する組織が存在した。王子たちの家庭教師の手配なんかもそこがするらしく、ジュリアンからの指示でその組織の役員が動き、カインの採用が決定されたのだとか。

「弟妹のあれこれについては、父上や母上の許可なくともある程度私の意見が通るのだ」とジュリアンは言っていた。だからと言って口を出しすぎるのは控えているとも言っていたが。


「ここが、図書室だよ」


そういってジャンルーカが手で示した部屋には、警備の騎士が一人立っていた。この国でも本は比較的貴重品だし、王宮の図書室となれば持ち出し禁止の蔵書もあるのだろう。

ジャンルーカが声をかけると、騎士が重そうな扉を開けてくれる。重くてゆっくりにしか開かない扉というのも、それだけで防犯装置になりそうだなぁと思いながらカインは扉が開いていくのを眺めていた。


図書室の蔵書は、カインが思ったほどではなかった。実家であるエルグランダーク公爵邸の図書室よりわずかに大きいくらいだった。

これであれば、サイリユウム貴族学校の図書室の方が蔵書量は多いかもしれない。


「広さも、本の数もあまり多くはないんだけど、王家所有の貴重な本があるらしいよ。僕の勉強の合間に、カインも読んで良いからね」

「外国人の私に、見られて困る本はないんですか?」


図書室の中に入り、案内しながら魅力的な提案をしてくれるジャンルーカだが、カインは後々「機密を知ったからには生かしてはおけぬ!」とか言われてもやだなと思った。


「本当にみられて困る物は、父上の書斎や誰も入れない宝物庫とかに保管されているから大丈夫なんだって」

「なるほど。それなら、安心して見せていただきますね」


図書室の中を横切って、窓際まで行くと読書用の机と椅子が置いてあった。勉強道具を広げても十分なぐらいには広い机の上には書見台やルーペなどが置かれてあった。

カインは持ち込んだリムートブレイク語の教科書や私物の本などを机の上にどさりと置くと、隣に立っているジャンルーカへ向かってにやりと笑った。


「さ、では始めましょうか。リムートブレイク語のお勉強の時間です」



リムートブレイク語とサイリユウム語は、地続きの隣国ということもあって文法的にはほぼ同じである。しかし、使用している単語が全く違うし、母音の強弱の付け方……語感が違うので話し言葉は全く違う言葉に聞こえるのだ。

単語さえ覚えてしまえば、正しいイントネーションを覚えられなくても『訛りが強い』と思われるが言葉は通じるようになるだろう。

もちろん、王族であるジャンルーカが他国の言葉を覚えるのであれば『訛ってる』なんて思われないところまでやりこむ必要があるのだろうが。


そういったことを説明すると、ジャンルーカは感心したようにカインの顔を見た。


「カインの言葉は、とてもきれいです。まったく訛っていませんし、元からこの国で暮らす人みたいです」

「ふふっ。ありがとうございます。まずはリムートブレイクの単語をたくさん覚えましょう」


興味のある所から、と思ってカインは私物の小説本を持ってきた。しかし、今から一から言葉を学ぶという意味でも、九歳というジャンルーカの年齢的にも小説本から単語を覚えていくというのは少し難しかった。


「リムートブレイクの絵本を取り寄せましょうか。読んだことのある物がいいでしょう。ジャンルーカ様、お好きな絵本などはありますか?」

「僕はもう九歳ですよ? 絵本は子どもっぽくありませんか?」


絵本と聞いて、ジャンルーカはぷくっとほっぺたを膨らませてすねた。カインは、その様子をみて笑いそうになるのをこらえて目を細めた。その、絵本を読むということよりも、そのすねる様子の方がよっぽど子どもっぽいのにと思うが、言ったらさらに拗ねそうなので黙っておく。


「絵本は、絵がかいてあるでしょう? 知らない言葉で文字が書いてあっても、何が書いてあるかなんとなくわかるんです。だから、言葉を覚えるのに絵本は向いているんです。けっして、ジャンルーカ様がお子様だから絵本を薦めてるってわけではありませんからね」

「な、なるほど。言葉を覚えるため、ですね?」

「そうです。そして、読んだことがある絵本ならなおさら内容を知っているので書いてある単語が何を指しているのかすぐにわかります。……発音は、口にだして練習しなくちゃいけませんけどね」


リムートブレイクとサイリユウムは使っている基本文字は同じだが、読み方が違う。

カインの前世記憶的に言えば、「ABC」を英語では「えーびーしー」と読むのに対して、フランス語では「あーべーせー」と読むのに似ている。

教科書や小説本を準備してきたカインだが、今日のところは基本文字の読み方をじっくりやって終わることにした。


図書室ではお静かに。というのが前世ではルールであったが、王宮内の図書室はいわば王族専用であり、この場にはジャンルーカとカインしかいない。遠慮することはないだろうと、声をだして読み方の練習をした。

カインと一緒に、節をつけて歌うように練習してみたり、サイリユウム語の単語をそのまま読み替えるとどうなるかというのをクイズにしてみたりして、楽しく勉強の時間は過ぎていった。


「さて、今日はここまでにしましょうか。そろそろ寮に戻る時間です」

「楽しかったです! カインがリムートブレイク語の先生になってくれてよかった!」

「光栄です、ジャンルーカ様」


教科書はジャンルーカに預けていき、私物の小説本は一旦持ち返る。荷物をまとめて手に持ったところで、カインはジャンルーカをやさしく見下ろした。


「授業の初めにお伺いしましたが、好きで読んでいた絵本などはありませんか? もし、同じタイトルがリムートブレイクにもあるようでしたら、領地の従弟にお願いして取り寄せようと思います」


王都の実家にお願いするよりは、国境にある領地のキールズかコーディリアに頼んだ方が物は早く届くだろうという判断である。

カインの言葉に、しばし思案顔で悩んでいたジャンルーカだが、やがて顔を上げるとにこっと笑った。


「魔法使いファッカフォッカシリーズはよく読んでいました。あとは、うさぎのみみはなぜながい?という本も読みました」


カインはゆっくりと頷いた。

魔法使いファッカフォッカの話は、カインとジャンルーカが初めて会った時にカインが魔法が使えると知ったジャンルーカの口から話題が出たことがあった。カインもその後、本屋で見かけて購入して読んだし、お土産としてディアーナにも渡している。

そして、うさぎのみみはなぜながいというタイトルの絵本はとても思い出深いタイトルだった。


「うさぎのみみはなぜながい。なつかしいですね、私のいm……私の家族にもその本が大好きな人がいるんですよ。影響で私自身もだいぶ繰り返し読みましたよ」


嬉しそうに目を細めやさしい笑顔で答えるカインに、ジャンルーカも嬉しそうに破顔した。


「カインの妹さんも好きなんですね! ディアーナ嬢。カインの妹なら、きっと素敵な方でしょうね」


ジャンルーカの言葉に、カインの笑顔が固まる。ギギギと油の切れた蝶番のような音が聞こえそうなぎこちない動きで、首を動かしジャンルーカを見つめる。


「わたしに……いもうとは……いません……よ?」

「……? そうなのですか? でも、兄上が婚約を申し込んだって……」


ジャンルーカの言葉に、今度こそ無表情になったカインは手に持っていた本をぎりぎりと締め付けるように握りしめると、歯を食いしばりながらもなんとかその隙間から退去の挨拶を漏らした。

カインの変わりように驚き、ぎこちなく退去の挨拶を受けたジャンルーカは小さく手を振りながら勢いよく図書室を去っていくカインを見送った。


「え……。カイン怖い。どうしたの?」


一人図書室に残されたジャンルーカは、遠くから「あのくそやろー!」という声が聞こえたような気がして、そっと自分の腕をさすったのだった。

メリークリスマス!


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― 新着の感想 ―
[一言] 次回 ジュリの内死す でゅえるすたんばい
[良い点] 更新ありがとうございます!! 新刊4巻お待ちしております! [一言] ジュリアン死すですね。 または、ズタボロジュリアンですかね・・。 再起不能くらいで済むと良いですねW
[一言] 魔法封じ…それほんとに封じられるのけ?
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