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道具を使わない遊びは結構あるよ

「神殿長宛ての手紙を預けてある。近いうちにうちに来て父さんと面談して欲しい」


カインは、にこやかに告げると手のひらで隣の椅子を示す。

イルヴァレーノはちらりと椅子に視線を向けるが、首を横に振った。


「畑帰りだ。臭いと言ったのはお前だろう。水を浴びてくる」

「そうかい。それじゃあみんな、もう少し僕と遊ぼうか」


イルヴァレーノに頷き、傍らの幼年組の子らに向かって遊びの誘いをかけるカイン。道具のいらない新しい遊びを色々教えてくれるカインは、すっかり人気者になっていた。

後ろの正面誰だ?や、椅子を並べて椅子取りゲーム、フルーツバスケットなどをして遊んで待っていた。もちろん、この世界の言葉に置き換えた歌や名称で遊び方を説明している。


「カイン様!今日教わったあそびだとお兄ちゃんたちにも勝てそうです!」

「カイン様も椅子取りゲームに参加しよう~!お歌は騎士様歌ってください」

「え、僕ですかぁ?カイン様の後で歌うのやなんですけど」

「じゃあ、お歌はみんなで歌おうね。アルノルディア、適当なところで大きく手を叩いてくれ。それを合図にみんなで椅子取りだ。それでどう?」

「はぁい!」


カインと小さな子らで、童謡を歌いながら椅子の周りをぐるぐるまわる。アルノルディアがパンッと手を叩くのを合図にみんなで一斉に椅子に座る。

勢い余ってカインの膝の上に座ってしまった子に「羽根が膝の上に落ちたみたいな軽さだよ。もしかして天使の羽を隠してるんじゃない?」とカインが軽口を叩いている。ディアーナと遊んでいるときの癖が出てしまっているだけで、カインに取ってはいつも通りの事だったが、膝に乗ってしまった子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「息をするように口説き文句を言うのやめなよ。男の子まで対象なの?」


コツンと頭をノックされ、見上げればイルヴァレーノが立っていた。こざっぱりした服装で、髪の毛が少し濡れていた。

カインの膝の上に座ってしまっていた男の子は、慌てて膝の上から飛び降りた。


「僕はイルヴァレーノと話があるから、後はみんなで遊んでてね」

「はぁい。カイン様ありがとう!」


カインはにっこり笑って椅子から立ち、そのまま椅子を持って遊びの輪から外れてテーブルのそばに腰を下ろした。


「イルヴァレーノ。前に言ってた僕の侍従になって欲しいって話。父さんが面談して決めたいって言ってるんで、面談して欲しい」

「……」

「僕の侍従になってくれたら、孤児院に関する慈善活動関連を僕の担当にして貰うように父さんに頼むつもりなんだ。僕に付き従って孤児院の様子見に来れるよう調整しようと思ってる。どう?他に心配事あるかな?」


孤児院の下の子たちの心配をしてるんじゃないかと予想してカインは先手を打つ。

イルヴァレーノは片眉を上げて子どもらしからぬ渋い顔をしてカインを睨みつけた。カインは視線をにこにことしたまま受けて返事を待っている。


「……前に言っていた、副業可能って言うのは」


暗殺業を続けても良いとカインが言った事を言っているのだ。確かに以前したなぁとカインが頷く。


「もちろん構わない。学校に行くまでは家庭教師について勉強するからほとんど家から出ないと思うし、イルヴァレーノが居ない時間があっても問題ないように調整しよう。ただ、突然居なくなるのはやめて欲しいかな。口裏合わせるために事前に『いついつ、どこの誰を殺しに行ってきますね♥』って予告してくれるとありがたいかな」

「副業が暗殺だなんて一言も言ってない」

「そうね」


カインは椅子を背もたれを前にして座り、背もたれに頬杖をついている。頬を預ける手を反対に移して、くびをかしげた状態でイルヴァレーノを見つめる。

イルヴァレーノが立ったままなので、自然と視線は上目遣いになっていた。


「悪いようにはしないよ。もちろん主と侍従って立場になるから色々気を使わせることはあるだろうけど。前にも言ったけど、これは僕が僕のために希望している事だからね。なるべくイルヴァレーノの希望を叶えたいと思っているよ」


カインは死にたくなかったし、ディアーナも死なせたくなかった。まだ見ぬ学園での友人たちだって、多分だけど死なせたくないと思う。

最悪の皆殺しエンディングである、暗殺者ルートだけは避けたいのだ。

自分が味方になることで、ディアーナが不幸になるエンディングはある程度避けられるとカインは思っているが、最高傑作と呼ばれる暗殺者に命をねらわれるのはなかなか避けられるものではない。


「わかった。面談には行く。受かるかどうかは俺の責任じゃないから約束できない」

「ありがとう。イルヴァレーノだったら大丈夫だよ」


立ち上がってカインが手を差し出すと、イルヴァレーノは少し困惑した顔をした後、手を握り返してきた。

もしかしてこの世界には握手という習慣が無いのかな?とカインは慌てたが、無いなら無いで僕らの秘密の挨拶にしてしまえばいいかと前向きに考えた。


その翌週の半ばに、イルヴァレーノはエルグランダーク公爵家へとやってきた。

公爵との面談をするために。


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