第二幕
<第二幕>
牛の刻
虚無僧、廃寺の様子など気にならないような足取りで境内に入っていく。
虚無「お主たちは、なぜ此処にいる」
老女「おーお、いいところにお坊様が来なすった。わしゃここで死ぬさかい、ひとつわしの為に有難いお経を詠んでくださいませ」
虚無「死ぬ。婆様や、それはどういう事だ」
老女「お坊様も知っておろう。いまは食いもんがなくて、みなゴロゴロ死んでいく世や。婆から死のが筋ってもんよ」
虚無「口減らし……。婆様や、私はこの通り何も持っていない虚無の身。せめて御身の為に経を詠ませて貰う。その前にお侍様、なぜ此処にいるのだ」
浪人「俺は化け狐を殺しにきたんじゃ。お坊様こそ、何しに来たんじゃ」
虚無「私は九尾の狐を退治に来た。奴が今日ここで多くの人の首を喰らう事を知った。私は多くの人を救く勤めがある。その勤めを果たしにきた」
浪人「お坊様よ。獲物は俺のもんじゃ、邪魔せんと貰えんかのう」
虚無「九尾の狐退治は仏の道を行く者の勤め。お侍様、どうか身を引いてくれぬか」
浪人「お坊様よぉ、それは出来ない相談じゃ。こっちは、おまんまが懸かってるんじゃ」
虚無「お侍様、九尾の狐を甘くみてはいけません」
浪人「甘かろうが、辛かろうが、化け狐を仕留めて、肝や肉を売らんと俺は飢え死にじゃ」
虚無僧と浪人、睨み合い一歩も引く様子がない。
老女「お侍様も、お坊様も、落ち着きんしゃい。ほれ、ほれ」
虚無僧と浪人、睨み合ったまま距離を取る。
老女「お侍様とお坊様で化け狐を殺せばよか。これで丸く収まろう」
虚無「婆様の言う事にも一理ある。お侍様、ここは怒りを腹に収め、私と一緒に九尾の狐を退治してくれぬか」
浪人「気は進まぬが、味方は多いに越したことはなか。いいじゃろう。お坊様、手を組もう」
虚無僧と浪人、ぎこちなく握手をする。