第一幕
オマージュ、芥川龍之介著「藪の中」、ジョン・カーペンター監督「遊星からの物体X」
参考資料、ウィキペディア日本語「十二時辰」
時は天明の飢饉末期、
ある山奥の廃寺にて、
<第一幕>
巳の刻
浪人、廃寺の奥を窺うように注意深く境内に入っていく。
浪人「なんじゃ、婆様、なんでここにおるんじゃ」
老女「何って、お侍様。わしゃ、口減らしにここに捨てられたんよ」
浪人「そうか、婆様も大変じゃの。で、いつから、ここに居るんじゃ」
老女「朝はようからや」
浪人「そうか」
浪人、鞘から刀を抜き、老女に突きつける。
老女「お侍様、わしを殺してくれんかい。そうか、そうか。苦しまんよう、ひと思いにやっとくれ」
老女、眼を閉じ安らかな顔をする。
浪人「婆様、俺から逃げんのか」
老女「お侍様、何故、わしが逃げにゃならんのや」
浪人、刀を鞘に納める。
浪人「俺は、婆様が化け狐と思ったんじゃ。どうやら、違うようじゃな」
老女「化け狐とな」
浪人「そうじゃ。今日、この廃寺に化け狐が出ると、仏様のお告げがあったらしいんじゃ」
老女「ほう、それで」
浪人「化け狐を殺して、その肝や肉を売るんじゃ。腹いっぱい、おまんまが食えるぞ」
老女「じゃ、お侍様はわしを化け狐と思ったのかえ、そりゃお笑いやのう。わしはこれでも人間様や」
浪人「そうみたいじゃな」
浪人と老女の笑い声が響く。