ねこねこパニック!
猫の日ということで勢いに任せて書きました!
猫――。
それは人を殺すほどの力を持つ極悪な生物。
今までに何人が殺されたか、何人を犠牲にしたか。
俺もその被害者だ。
だってこのかわいさ。殺しにかかってんだろ――。
「かわいいなぁ、かわいいにゃぁ。マジで猫いいなぁ」
猫宮文人は猫が大好きだった。
休日は猫の写真や動画を漁り、頬を緩ませるのが楽しみ。
猫宮なんて姓が関係しなくとも、多分猫好きになるような性格だっただろう。
しかし、大の猫好きなのに文人は猫を飼っていない。
その理由は妹、文香にあった。
彼女が猫アレルギーで、飼うに飼えないのだ。
それに猫を見てデレデレする兄のことを冷たい目で見ている。
「ただのいち生物を見てるじゃん。ト兄が語尾に『にゃぁ』とかキモ……」
この前はそんなことを言われた。
ちなみに、そんな彼女自身が好きな生物はヘビらしい。
うーん、理解できん。
「ま、今日くらいは楽しんでいいだろ。なんてったって、猫の日なんだし!」
2月の22日。
にゃんにゃんにゃんの日だ。
SNSには猫の話題で持ちきり。
写真や動画もいつもより多く供給されてくる最高の日。
朝早くに目が覚めたのは、本能で猫の気配を感じたからかもしれない。
「あーあ、アヤカが起きなきゃいいんだけどな……」
午前8時――。
休日と言えど、そろそろ妹が起きそうな時間だ。
至福の時間もキモいだの何だの言って邪魔するに違いない。
アイツ自身、猫目なクセによ……。
「いやぁ、それにしても猫ちゃんかわいいなぁ。にゃぁ、にゃぁ」
思考が溶けていた、その時――。
「ト兄! 起きてる!? どこにいるの!」
「リビングだぞー」
妹がやけに慌てた声で呼んできた。
あぁ、もうおしまいかな。
いいや、何を言われても今日は猫を愛でるが。
猫カフェに行ってもいいかもしれない。
「ト兄! 見て、これ!」
「あぁん? 今日は学校ないから遅刻してねぇぞ、って……」
なんじゃこりゃ――。
いやもう、ホント。その一言に尽きる。
妹の頭部には絶対にないはずのものが生えていた。
これは、まるで……。
「猫耳じゃねぇか!」
「だよね! やっぱりそうだよね! どうしよう、病院行ったほうが――」
「触らせてくれ! モフりたい、今日はすっごいモフりたいんだ!」
「はぁ!? こっちは本気で相談してるんですけど!」
文人は文香に飛びつき、髪を撫でた。
耳の付け根を撫でたりすると、ある変化に気がつく。
「やめ、やめてよ! 気持ち悪い!」
「……待て。お前、ちょっと丸まってないか?」
撫でられてリラックスした猫が体を丸めるように、文香の体も無意識に曲がっていたのだ。
「じゃあ、ここを触ると……」
文人が撫でたのは顎の下。
下から上へと指先でくすぐるように撫でた。
すると、ゴロゴロと――。
「お前、気持ち良さそうな顔するなぁ……」
「はぇ? ……バッ! 何触ってんの、キモい!」
やはり無意識。
文香は我に返るとすぐに距離をとった。
しかし撫でられてリラックスしたり、思わず喉を鳴らしたり。
見た目だけじゃなく、仕草も猫になったかのようだ。
「そうか、これは神が俺に与えた褒美なんだ。猫の日くらい、猫を愛で放題にしていいと」
「待ってよ! 私、猫じゃなくて人間なんですけど!」
「いいや、今日だけは猫だ! おとなしく撫でられやがれ!」
文香を押し倒し、顎の下を撫でまくった。
猫動画を見たおかげで、文人は猫の気持ちいいスポットを熟知しているのだ。
「ほぉら、なでなで……」
「うぅん。うにゃぁ」
「えっ、今鳴いたのか?」
さらにこしょこしょとくすぐってみると、文香は手を丸めて頬に寄せた。
まるで猫が自分の顔をいじっているみたいだ。
耳も揺れている。
「ふにゃぁ……。 うぅ……」
またもや喉の奥でゴロゴロと音がし、完全に無防備な状態だった。
かわいい――。
あ、いや、いつもの妹がかわいいんじゃなくて。
この、猫としての妹がかわいいのだ。
調子に乗って、さらに撫でていると不意に妹が冷め始めた。
少しずつ触る手を鬱陶しそうにしているのである。
「ト兄、もういらないにゃぁ……。って、え、私、何してたんだ」
ハッと前を見るとどうだろう。
兄に押し倒され、顎の下をくすぐったい手つきで攻められているではないか。
「キモいってば! どいて!」
「ふごっ!」
猫パンチが飛んできた。
まさに電光石火の早ワザ。
早さが勢いに加算され、それなりに痛い。
だが、文人の猫好きも甘くなかった。
「俺、猫パンチされるの夢だったんだよな〜。かわいいなぁ、もっとやって――」
「ひっ! 耳、撫でられると――」
耳の付け根は敏感だった。
だらしない顔で身をよじらせている。
「ふにゃぁぁ……。ト兄ぃ、気持ちぃよぉ……」
「ごぶっ――。かわいすぎて吐血するところだったぜ……」
なんだか絵面がアウトな気もするが、これは猫を愛でているだけだ。
何もいやらしくはない。
文人が視線を落とすと、めくれた服から文香のへそが見えた。
「お腹、撫でてみたいな……」
耳のふにふにとした感触もいいが、お腹もほどよい肉付きでぷにぷにしていそうだ。
おや、それは猫と関係ない気もするが……。まぁいいか。
ゆっくりと服の中に手を入れ、すべすべとした腹を撫でてみた。
「うぅん……。そこは、あんまり……」
「気持ちよくないのか? へそは?」
「うにゃん!」
スポッ――と指をへそに突っ込んだ瞬間、文香が跳ね起きた。
またもや猫パンチが飛んできて、人間としての人格が戻ってくる。
「も、もう近づかないで! この体、なんか変だよ!」
そう言う妹はフシャー、と猫のように警戒心を露わにする。
だが、そんな猫もメロメロになるグッズを文人は知っていた。
「猫じゃらし! さぁ、この誘惑に勝てるかな!」
「ふにゃ!? そんにゃ物、私に効くわけにゃい……」
「おや? 猫になりかけてるけど?」
「うっさい! そんにゃ、ゆらゆらさせにゃいでよ……」
どうやら猫じゃらしの真価は揺らすことで発揮されるらしい。
文人は妹の眼前で、小刻みに猫じゃらしを揺らした。
口をボケーッと開けたまま、文香は猫じゃらしを目で追いかけてしまっている。
「はぇ……。うにゃにゃ……」
「強情だなー。さっさと飛びついちまえよ」
「にゃあ……。ふにゃあ……」
丸めた手を出そうとして、引っ込める。追いかけようとして、思いとどまるの繰り返しだった。
人間としての理性がまだ邪魔をしているらしい。
「ったく、しょうがないな。じゃあ、最終兵器だ!」
野良猫と戯れたいがために文人が持っていた最終兵器。
それは――。
「ほら、大好きなマタタビだぞぉ。匂い、嗅いでみろよ」
「ふぎゃん!」
マタタビを吸い込んだ瞬間、文香の顔はみるみる紅潮した。
動きものらりくらりとふらついて、まるで酔っているようだ。
「よしよし、おとなしくなったな。さて、また撫でさせてもらおうか」
「んにゃぁぁぁぁ……」
「はは。なんだよ、その情けない声」
恍惚とした表情でぐったりと倒れる妹。
文人はその姿をなんとも思っていなかった。
――はずなのに、突如魔が差した。
「……なんかエロいな」
マタタビは猫を興奮させるグッズだとは聞いていた。
しかし、まさかコレ、性的に興奮させるものなのだろうか。
人間としての部分が残っている――いいや、むしろ人間のほうが多い彼女が性的に興奮してしまっては、猫ではありえない間違いが起こるかもしれない。
「やっべ……。何考えてんだ、俺」
目の前にいるのは妹だ。それか猫。
どちらも愛すべきものであるが、愛し方のベクトルが性的なものとは違う。
いかんいかん……。
そんな葛藤をよそに、文香は猫らしく伸びをしていた。
尻を突き出し、うんと伸びを堪能しているようだ。
「って、尻尾も生えてんのかよ! うわぁ、触りてぇ……」
願望を口にするが否や、文人は尻尾の付け根を触った。
トントンと軽く叩くと、気持ちいいのかさらに尻を持ち上げてきて――。
「アウトだろ、このポーズ!」
文人の前にあるのは文香の四つん這いな姿。
尻をこれでもかと主張し、触ってアピールだ。
猫ならよかったものの、人間の女性であるから余計な魅力が入ってしまう。
今なら何しても許されるのではないか――。
邪な気持ちが脳にへばりつき、離れない。
それを解消するように尻尾を触って、また文香が尻を突き上げて。
負のスパイラルであった。
「にゃぁん……。ト兄ぃ、もっとぉ……」
「その声やめろぉ! クソっ、今日は猫の日だろ! 猫として見ろ、猫として……」
尻尾の下にある丸い肉。
またその下に位置する股。
見ると、グレーのズボンが少し黒ずんでいるではないか。
何か水でもこぼしたか。
「いや、中が濡れてるのか……? なんで?」
性的に興奮しているから……?
真実にたどり着いた瞬間、文人は猫カフェに向かって走り出した。
このまま妹と対峙しては、間違いなく事件が起こっていただろう。
――――――――――――
「ただいま……」
「お、おかえり……」
夕方になっても妹の猫化は治っていなかった。
そのかわり服が着替えられていたのと、ゴミ箱に大量のティッシュ――。
「ト兄のせいで大変だったんだからね。ホントに」
「あぁ。発散、ご苦労」
「サイッテー! 何回したと思って――じゃなくて。ああもう、ト兄のバカ!」
「へぇ、何回?」
猫パンチ。
いいや、人間としての本気パンチかもしれない。
顔からメリッと音がした気がする。
「いってぇな! へん、ティッシュの量で推測してやるよ! 後始末が雑だなぁ!」
「イヤぁ! マジで最低! キモい、死ね!」
「えっと、5? いや、10超えてねぇか? お前、どんだけ欲望盛んなんだ――」
「マ、マタタビのせいだから! 全部ト兄が悪いんだよ!」
マタタビはとても恐ろしいアイテム。
とにかくそれだけは学べた。
あと猫カフェは最高だった。
「それにしても、なんでアヤカが猫になったんだろうな……」
「本当だよ! 太ももジンジンするし」
「え、その話、終わっただろ」
「ふん! 一生引きずってやるから!」
フシャー、と文香。
やはり猫。
ずっと猫のままだったら、いつか理性がぶっ飛んでマタタビを――。
「妹と関係持つのは人間として終わってるよなぁ……」
「にゃんか言った?」
「おい、人間を思い出せ!」
「うにゃ、無意識のうちに……」
結局、手がかりがあるわけでもなく、猫になった原因はわからず。
猫の日の奇跡、と文人は思うことにした。
「あぁ……。明日になったら生意気なアヤカに戻っちまうんだ……」
「キモ。早く戻りたいわ、清々する」
「あぁもう! 猫を堪能したかったのに! おい、マタタビリベンジだ!」
「はぁ!? やめ、嗅がさないで、ひぎゃ!」
猫の日の由来はその鳴き声から。
にゃんにゃんにゃん、と。
おや、にゃんにゃんの日にニャンニャンする兄妹が――。
この話はもう猫と関係ありませんね、割愛。
お読みいただきありがとうございます!
「ニャンニャンする」の内容は皆さんで考えてください。
もしかしていかがわしいものを想像しましたか?
いやだなぁ、大正解です。