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少年陰陽師・賀茂一輝  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売


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28話 日本魔導師連盟

 年が改まり、2032年がやってきた。

 まずはマンションの2戸隣に住んでいる父親と、10月に父親が再婚した血の繋がらない母親に、年始の挨拶をしておく。


「あけまして御目出度う御座います」

「うむ」

「一輝君、あけましておめでとう」


 俺は義理の母親が苦手だ……というより、実妹に未練がある。

 お金が無くて保育園に通っていなかった妹は、母と俺が世話をしていた。

 本当に小さい頃からミルクや離乳食、おむつの替えやお風呂の世話をして、色んな本を読み聞かせて言葉を教えて、外へ連れ出して遊んであげて、俺が持っている世界神の祝福が一欠片でも宿るようにと魔力を注いで。

 妹が小学1年生に上がる少し前までしか一緒にいられず、会えなくなって3年が経った。

 まだ俺の事は、覚えているだろうか。

 だが妹には新しい父親と、新たに産まれた弟か妹が居るので、新生活を乱しかねない俺はもう会えない。

 俺が勝手に会いに行って、妹が「お兄ちゃんに会いたい」と言い出すと、あちらの家庭も困るだろう。俺が未成年で妹を保護できない以上、あちらの生活を破綻させるわけには行かないのだ。


(両親の離婚は、新しい母親のせいじゃ無いからなぁ)


 身体目当ての父親と、財産目当ての義母と、財産と住処を分けた俺とは、3者とも欲求が満たされて上手く行っていると思う。

 父親は、15歳も年下で、容姿も優な義母と再婚して大満足だ。

 義母も、俺の稼ぎの3割が父親の事務所に入るため、大満足だ。

 俺も、小学生の現時点で自由に活動できているので、大満足だ。

 おかげで現状は、俺が成人するまでは続きそうな気がする。


 挨拶した俺は、父親のマンションのリビングに上がって正月番組を眺めた。

 牛鬼を調伏した後、各所で呼ばれて共演した顔触れが、何人も映っている。今にして思えば、どんな番組でも断らずに出まくった事は、業界へ顔を売るには最適だったかもしれない。

 芸が被らない小学生が相手だと、嫉妬で嫌がらせをされる事は殆ど無い。

 おかげで零細事務所でも、芸能界でなんとかやって行けている。


「お雑煮、お餅は何個入れる?」

「2個」

「一則さんは何個入れますか」

「3個だ」

「少し待って下さいね」


 俺はリビングの机に両手を伸ばして、ペタンと身体を預けた。

 そんな俺の手に、父親が封筒を乗せた。


「一輝、お年玉だ」

「ふぇっ?」


 封筒は10万や20万の重さでは無く、50万や100万の重量だった。

 俺は起き上がって、封筒を掴んで厚みを確かめる。

 厚みの方も、100万くらいあった。


「…………ありがとう」

「うむ」


 人生初のお年玉だった。

 俺は中身を見るような事はせず、封筒を上着のポケットに突っ込んだ。

 だが封筒が厚すぎて、ポケットからはみ出している。

 今世に産まれてから12回分の高額なお年玉を、まとめて貰った気分だ。


「ちょっと部屋に置いてくる!」


 いくらお金を稼いでいても、このお金は別枠だ。

 義母の入れ知恵だろうか。

 だが無性に嬉しくなったので、2戸隣の自分のマンションにダッシュで戻り、机の中に放り込んでから父親のマンションに舞い戻った。


 そして正月番組の視聴を再開する。

 2032年の干支は、ネズミだ。

 ネズミの着ぐるみを着たお笑い芸人たちが、巨大な円形の回し車に入ってグルグルと回りながら、50メートル走のタイムを競い合っている。

 50メートルの走行路の脇には泥の沼が用意されており、真っ直ぐに走らなければ沼にダイビングする事になる。

 実にくだらないのだが、それを真剣にやる彼らには、ハハハと乾いた笑いが込み上げてくる。

 ああ、俺は仕事に呼ばれなくて良かった。

 やがてお雑煮を食べ終えたところで、父親が改まって話を始めた。


「ところで一輝、実は日本魔導師連盟から連絡があってな」


 日本魔導師連盟は、日本で西洋魔法を扱う人達を束ねる団体だ。

 俗に言う天下り団体で、政治家が理事長や副理事長になり、関連省庁のOBが理事に名を連ね、批判を浴びないように大学教授などの学識経験者も入れている。

 だが日本では、政府が唯一公認する魔導師の公益社団法人でもある。

 俺が知っている活動は、次の通りだ。


 魔法使いの級や段を認定して、認定試験で受験料を徴収する。

 魔導師が生業の正規会員と、その他の準会員から、年会費を徴収する。

 正規会員からは、魔術師として得た収入の2割も徴収する。

 会員に学術研究を発表させ、連盟で権利を取って使用料を徴収する。

 そうして得た巨額の資金で、高額の役員報酬や各種手当てを分配する。

 また試験や研修会場に役員の関連施設を使用し、高額の支払いを行う。


「日本魔導師連盟って、凄い集金団体の事だよね」

「うむ。その連盟の事だ」


 泣く子も黙る、日本魔導師連盟である。

 ちなみに陰陽師には、このような団体は無い。

 なぜなら日本では、陰陽道は不確かな存在だと思われていたからだ。

 西洋魔法と東洋魔術に対する認識は、西洋医学と東洋の漢方薬に近い。

 病院で専ら用いられるのは西洋医学であり、東洋の漢方薬で治す人も居ないではないが、治療効果の差は歴然だと思われていた。


 その固定観念を根底から破壊したのは、俺である。

 特に幽霊巡視船や幽霊ヘリの使役、海賊船の撃破後は、反応が顕著となった。


「どんな連絡があったの」

「日本魔導師連盟で、陰陽師も所属させる『統合検討会』が立ち上がったそうだ。それで儂を、新組織の理事として招聘すると言っておる」

「はぁ」


 俺は深い溜息を吐いた。

 どう考えても、陰陽師を集金対象に混ぜようとしているとしか思えない。

 仮にうちの事務所が所属した場合、年間で50億稼いだとしたら、そのうち10億を何もしない連盟に持って行かれる。

 学術研究として守護護符や退魔符を連盟で発表しようものなら、勝手に連盟の発表扱いにされて、勝手に使用権の認可や著作権料の徴収をされた挙げ句、利益配分まで決められてしまう。


「それって、お父さんを理事にして、賀茂陰陽師事務所を魔導師連盟に所属させるのが目的だよね。うちが50億稼いだら、連盟は10億をただ取りできるね。ボクの護符も、連盟が勝手に権利を売買し始めるかな」

「お前も、そうなると思うか」

「ボクもって言う事は、お義母さんにも聞いたの?」

「うむ。お前と同じ事を言っていた」

「流石、お義母さん」


 理事の椅子を示された父親は、地位に未練を持ったのだろう。

 なにせ日本では、ずっと冷や飯食らいの扱いだったのだ。それが逆転して、巨大組織の理事である。

 迷った結果、義母と俺に前情報無しで聞いて、反応を試したようだった。


「お父さんが一番知っていると思うけど、西洋魔法と陰陽術は、サッカーとテニスを同じ球技だって主張するくらい違うよね」

「そうだな」

「そんなの統合できないよ。賀茂事務所は参加も協力もしない形にしましょう。お父さんも理事を断って」

「だが、しかし……」


 父親が言い淀んだので、俺はここぞと畳み掛ける。


「お父さんがどうしても理事になりたいなら、ボクはお父さんの事務所から抜けて、死亡を取り消した幽霊船員さんに事務所を作って貰って活動しようか。もちろん連盟には加盟しないし、賀茂事務所の取り分も0になるけど」


 様子を見ていた義母が、断固拒否の雰囲気を放ち始めた。

 義母は、うちの事務所で2人目の事務員をやっていた経験がある。

 そのため俺が抜けると、賀茂陰陽師事務所の収入の9割9分が失われる事を熟知している。

 理事の役員報酬が2000万円あるとしても、事務所は畳む事になるだろう。事務所を売却して5億くらい入ったとしても、後が続かない。

 そして俺を引き込めなかった魔導師連盟が、父親に理事の椅子を示し続けるとも限らない。

 そうなれば父親の収入は、年間数十万円まで落ちる。

 すると父親は、2度目の離婚の危機を迎える。


「…………うむ。断るとしよう」


 父親も陰陽師だけあって、霊感が強いらしい。

 慌てて行った宣言により、義母の怒気が収まった。

 ちなみに俺も、少し怖かった。


「いっそ、お父さんが自分で陰陽道協会でも作ったらどうかな」

「どういう事だ」

「日本には、魔導師連盟みたいな陰陽師の団体は無いでしょ。だから、お父さんが作れば良いんだよ。そうしたら、お父さんが一番偉い理事長になれるよ」

「ふむ。だが連盟を作るのは大変ではないのか」


 父親が指摘するとおり、日本魔導師連盟のような組織は、個人では作れない。


「作るのは連盟じゃなくて協会にしたら良いんじゃないかな」


 連盟は共通の『目的』の為に活動する組織で、目標達成が至上命題。

 協会は共通の『目標』の為に活動する組織で、努力目標の互助団体。

 色々な団体があるので一概には言えないが、本来協会の方が束縛は緩い。


「東京で陰陽師協会を作って、地方で参加したい人が居たら、その人に地方の支部を創って貰って、47都道府県に広がったら、全国組織だね」

「だが一体、何をするのだ」

「日本魔導師連盟への対抗組織で思い付いたから、内容なんて考えてないよ。お父さんは、何が良いと思う」

「うーむ」


 出来そうな事は、呪力の測定だろうか。

 これは俺の夏休みの宿題で作った20センチの呪力測定板を使って貰えば、俺が居なくても調べられる。

 1センチ変われば呪力5のF級で、小鬼と同等。

 3センチ変われば呪力15のE級で、鬼と同等。

 10センチ変われば呪力50のD級で、大鬼と同等。

 術師にとっては呪力が戦闘力に直結するので、数値を知る事はある程度の目安になる。


 ドラマ内とコラボして、ドラマの父親役に親戚から協会が立ち上がる連絡が入ったなどと説明させて、日本に陰陽師の団体が無い事を取り上げて設立を目指すのも良いかも知れない。

 そして測定結果や調伏能力を調べて、可能であれば俺が処理し切れない番組に届く調伏依頼を斡旋したい。

 魑魅魍魎に悩む人々の中には、お金は払うけど依頼先が無いという人も居るのだ。俺以外でも良ければ、仕事を引き受けられる可能性は高まる。

 依頼の投稿フォーム内に、依頼の斡旋が可か不可かを問う項目を加えておけば、トラブルも起き難いだろう。


 協会は明朗会計、所属会費無し、役員報酬無し、天下り全面禁止。

 運営費が必要なら、本部が斡旋した仕事だけ5%の斡旋料を取れば良い。

 支部内での斡旋は、支部の斡旋料にして支部予算も確保する。

 段々とイメージが出来てきた。


「よしっ。お父さん、理事長になっちゃえば良いよ」

「待て一輝、説明をしなさい」


 俺は父親に、思い付いたばかりの構想を説明した。

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