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少年陰陽師・賀茂一輝  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売


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20/32

20話 夏の終わり ラジオ第23回(2031/9/2)

 2031年8月19日。

 忙しかったお盆も過ぎて、夏休みも終わりを迎えようとしている。

 小学5年生の夏は、絡新婦の調伏、鎌鼬や幽霊船の使役、マンション購入と、目まぐるしく過ぎていった。

 海や花火大会、夏祭りなどに全く行っていない事は、少し残念だ。

 海月さんの浴衣姿を見てみたいし、浜辺ではバーベキューをして、日本酒を垂らしたハマグリを食い漁るような真似もしてみたい。前者はプライベートで、後者は調伏の仕事でお金も貰えたら最高だ。

 収録しているラジオの冒頭でも、夏休みについての話題が上った。


「一輝くんは夏休みの宿題、ちゃんと出来たかな」

「最初の2日間で、自由研究以外は全部終わらせました」

「すぐに片付けちゃうタイプなんだ」

「残しておくと、どうしても気になっちゃって。海月さんも、楽屋とか移動時間に、コツコツ勉強していますよね」

「そうだね。昔からそんな生活だからね」


 海月さんは学校の予習のみならず、レギュラー出演している外国語会話の単語帳も持ち歩いて、小まめに勉強している。それ以外にもドラマの台本を読んだり、ネットでニュースを読んだりする。

 なんちゃって小学生の俺とは、真面目さの次元が違う。

 あまりに神々しすぎて、直視すると目が眩みそうだ。

 但し、海月さんが番組の外で努力している事を言ってしまうと、番組だけで学んでいる層のやる気を阻害しかねないので、ラジオで海月さんの素晴らしさを語る事は出来ない。

 口惜しや、ああ口惜しや。


「それで一輝くんは、どんな自由研究にしたの」

「はい。呪力の測定方法にしてみました」

「呪力の測定方法って何?」


 海月さんは、マイクの前で僅かに首を傾げた。

 俺は懐から、茶色の木札を取り出した。


「ええと、ボクは海月さんの前で、木板を取り出しました。これには呪力を篭める事が出来ます。海月さん、ちょっと木板の端を持って、呪力とか気力を送るイメージをしてみて下さい」

「うん、持ってみるね」


 海月さんが木板の端を持って念じると、板面の一部が茶色から白色に塗り変わった。


「少しだけ白色に変わったね」

「白色に変化した部分は、海月さんの呪力で塗り変わった範囲です。ちなみに茶色の部分は、20センチメートルあります」

「なんだかリトマス紙みたい」

「そうですね。1センチ変われば呪力5で、小鬼と同等。3センチ変われば呪力15で、鬼と同等。10センチ変われば呪力50で、大鬼と同等です」

「そうなんだ。面白いね」


 これは木の世界神の祝福の力を用いて作成した、魔力100が許容値の板だ。

 誰かが魔力を篭めると、受容板が白く輝いて反応する。

 しばらく放置しておくと、魔力が引いて茶色に戻るので再利用できる。

 魔力100は、俺が世界神の祝福の力を使わないで出せる最大出力であり、それに合わせて作成したのでズレは無いはずだ。

 木板の使用回数は検証していないが、極めて単純な作りなので、おそらく数年単位で保つと思う。

 命名は、そのまま『呪力測定板』とした。


 夏休みの宿題としては、相当な力作だと思う。

 子供の宿題を手伝う親たちと争っても、おそらく遜色はないと思う。

 但し、子供っぽさは見る影もないが。

 俺が親に手伝ってもらったと思われたらどうしよう。


「ちなみに海月さんの呪力は、7くらいでした」

「結構低い?」

「普通は1からスタートですから、かなり高いと思います。ドラマで本当にハトの式神を飛ばしたりして、呪力を鍛えたからかな。でも低くても、海月さんはボクが守……」


 俺が言いかけたところで、オープニングの曲が差し込まれた。

 一応これは、進行さんと打ち合わせした通りの内容だ。

 だが最近、俺の扱いが酷いのでは無いかと思われる。


(いや、前からか!?)


 ふと思い起こせば、動物番組で猛獣の訓練をさせられたり、妖怪を躾けさせられたり、割と雑な扱いを受けいていたかもしれない。

 俺は頭を振って回想を払い飛ばし、タイトルを読み上げた。


「「せーのっ、陰陽師ラジオ」」

「皆様、おは、こんばん、ちわ。テレビドラマ『少年陰陽師』、賀茂かも一輝いつき役の賀茂一輝です」

「皆様、こんばんは。賀茂かもかなで役の向井海月です」

「このラジオは、木曜の夜9時に好評放送中のテレビドラマ『少年陰陽師』をより一層楽しんで頂くための情報番組です」

「これから30分、のんびりとお付き合い下さい」


 テーマ曲のタイミングを見計らい、海月さんがスポンサーを読み上げる。


「陰陽師ラジオ。この番組は、大日本輸送、海千山千商会、株式会社エイシャン、ひな子プロジェクトの提供でお送り致します」

「2031年9月2日、今夜は第23回の放送です。ドラマは第22話まで放送されました。第22話は、虎狼狸こうろりの話でした。お姉ちゃん、一緒に行ったよね」

「うん。マネージャーさんが嫌がったけど、ちゃんと行けました」


 虎狼狸とは、病気のコレラの事だ。

 江戸時代に黒船来航と共に日本へ広がったが、当時は原因不明だった。

 だがコレラに感染した者の家から、イタチのような生き物が逃げていったという目撃例が立て続いた事から、虎狼狸という「虎のような、狼のような、狸のような妖怪」が犯人だとされた。

 全く以て、酷い話である。

 そんな伝承が管理神のせいで、実在する事になった。


 もっとも管理神の目的は、地球に流し込んだ瘴気を減らすために、それを活動エネルギーとする魔物や魑魅魍魎を生み出す事だ。

 実際のコレラと異なり、原因はウイルスではなく陰気となる。

 この場合、医学的な治療はあまり効果がない。

 それどころか、コレラだと思って通常の感染予防をして触れると、医療従事者に感染して病院全体で院内感染を引き起こす。

 コレラは年間の死者数が10万人を超える事もあったため、それが再現されるとまずいと判断して、仕事を受けた。

 感染者の治し方は、陽気を浴びせて陰気を打ち消す事である。

 護符を身に付け、悪鬼を祓う「急急如律令」を唱え、気を巡らせ、そんな前時代的な対応方法の方が効果が出る。

 それらをドラマで解説しつつ、病の大元である虎狼狸の捜索を行って、1家族を駆除して話をまとめた。


「海月さんのマネージャーさん、最後まで携帯消毒液とマスクを徹底しましたからね。消毒は良い事ですけど、オカルトは未だに理解して貰えないです」

「わたしは一輝くんが本物の陰陽師だって、ちゃんと知っているよ。だから一輝くんが陽気で払えるって聞いて、撮影に行ったんだから」

「ありがとうございます。海月さんはボクが守るからっ。よし、言えたっ」


 俺はオープニングで消されたセリフを、隙を見てねじ込んだ。

 そして得意気に進行さんを見てガッツポーズを取る。


『編集でセリフに効果音を被せようかな』


 進行さんがボソッと恐ろしい事を言い出した。


「そ、そういえば! 虎狼狸のような妖怪の対策には、陽気の保有量が大切ですよね。ボクの夏休みの自由研究である呪力測定用紙、番組のホームページに載せてみますかっ?」

『効果音を被せるのは止めてあげます』


 俺と進行さんのやり取りは、海月さんには丸聞こえである。

 色々と台無しなやり取りを交わした結果、発言だけは死守した。

 そんなフリートークにOKが出たので、次のコーナーに入った。


「これであなたも陰陽師」

「このコーナーは、ドラマに登場した陰陽道や陰陽術を中心に、陰陽師のあれこれを紹介するコーナーです。一輝くん、今日は何を教えてくれるのかな」


 俺がコーナー名を読み上げ、海月さんがコーナーの解説を行った。


「そうですね。今回は虎狼狸という獣が出てきましたので、悪鬼、猛獣を避ける歩行法をお話しします。その歩行法は、反閇へんばいって言います」

「反閇?」

「はい。先に出た足に後の足を引き寄せて、それを左右に続けていく。そうすると悪星を踏み破って、吉意を呼び込めます。相撲すもう四股しこも、この反閇の延長ですよ」

「相撲もそうなんだ」


 反閇は、元々は道教の歩行呪術である。

 平安時代に最盛期を迎えた星辰信仰の呪法で、神道で行われる儀礼の歩み方にも大きな影響を与えた。


「でも力に差があり過ぎたら効果がありませんし、遅い時間には、危ない場所に近寄らないのが一番です。あとは何かあったら、すぐに誰かに相談しましょう。という訳で、今日のお話しは、歩行法についてでした」

「皆さんも、番組で疑問に思った陰陽術がありましたら、どんどんメールを送って下さいね。アドレスは公式ホームページをチェックして下さい。以上、『これであなたも陰陽師』のコーナーでした」


 音楽と効果音が流れて、オッケーが出て休憩に入った。

 だが2本撮りなので、次のコーナーにサクサク入っていく。


「「ふつおたコーナー」」

「このコーナーは、リスナーさんからの普通のお便りを紹介するコーナーです」

「普通のお便りなので、ジャンルは不問です。ドラマとは直接関係の無い、わたしたちラジオパーソナリティに対するお便りでも大丈夫です」


 届いたメールは、俺と海月さんが気に入った内容を毎回1通ずつ読み上げている。

 もっとも俺たちの手元に届くまでには、番組側で選別が行われている。

 流石に小学生に読ませるので、違法や侮辱や性的な内容は一切禁止だ。

 その他にも、出演者を困らせる内容、ストーカー的な内容、あまりの短文や異様な長文メール、政治問題、人権問題、偏った思想、スポンサー批判、差別的な内容も禁止である。

 ラジオネームがお菓子職人程度であれば、笑って許されるが。


「それじゃあ、最初のお便りを紹介します。ラジオネーム、DMデラックスさんから頂きました」


 ちなみにDMは、糖尿病の略だそうである。

 彼らのギリギリを攻めるスタイルには、一周回って感心させられる。


「『海月さん、一輝くん、おは、こんばん、ちわ』」

「「おは、こんばん、ちわー」」

「『毎週楽しみに聞いています。ところでドラマでは姉弟役ですが、海月さんは下に弟妹が居なくて、一輝くんも上に兄姉が居ませんよね。役作りでは、何か参考にしていますか。これからも頑張って下さい』です。DMデラックスさん、ありがとうございました」

「DMデラックスさん、ありがとうございました。一輝くんは、お兄さんも、お姉さんも居ないよね」


 海月さんは、俺の両親が離婚して、妹が母親に引き取られた事は知っている。そのため一人っ子だよねとは言わなかった。


「はい。でも海月さんとは、ドラマが決まる前から同じ番組に出させて頂く事があって、色々と教えて頂いたり、楽屋ではお菓子も頂いたりしましたので、最初からお姉ちゃんっていう感じでした」

「1年前からだね。芸能界だと、わたしより芸歴が短い人は居るけど、年下は中々居なかったから、完全に先輩って感じで嬉しかったよ。一輝くん、小っちゃかったし」

「うぐっ。あの頃は身長もかなり低かったですからね。小学4年生なのに、普通に低学年と間違えられましたし」


 海月さんとは2歳差だが、女性の方が先に成長期が来る。

 そのため今でも海月さんとの身長差は、10センチくらいある。


「うーん、身長は伸びたかな。これから、もっと伸びていくよ」

「はい、頑張って牛乳を飲みます。という感じで、ドラマの役は、普段の関係の延長線上です。ドラマでは海月さんを本当のお姉ちゃんだと思い込んでいるので、他の番組の時とは少しは違いますけど」

「わたしもドラマの時は、一輝くんはわたしの弟って感じだよ。陰陽術はあんまり分からないけど、他の部分は弟かな」


 海月さんが微笑んだので、俺も照れながら微笑み返した。


「それじゃあ、次のお便りです。ラジオネーム、エクレモンさんから頂きました。『海月さん、一輝くん、こんばんは。いつも楽しく聞いています。突然ですが海月さん、事件です。あなたの弟さんが、またやらかしましたよ』」

「へっ!?」

「『動画サイトで、足を失っていた少女が、治っていました。アレって絶対に一輝くんですよね。動画、ヤバくないですか。政府の研究機関に監禁される系じゃないですか。海月さんが姉として、弟に常識を教えるべきだと思います。ではこれからも頑張って下さい』ですって」


 俺は首を傾げながら、瞳を白目にして惚けた。


「一輝くん、アレ何かな」

「…………何の事か、ボクには分からないです」

「わたし個人にも、色々問い合わせが来ているんだけど」

「う゛っ、ごめんなさい。もしかすると、妖怪の仕業かもしれません」


 敢えて公開したのは、将来的に俺が公で使う事を容認して貰うための布石だ。医師法など色々な制限があって、今のままだと俺が捕まるかもしれない。

 俺がやった証拠は無いので、裁判では「妖怪の仕業じゃ!」と言い張ろうと思うが、環境が整えばそれに越した事はない。


「妖怪って、足の治療ができるの?」

「そういう妖怪も居ますよ。アレは、もしかすると鎌鼬の仕業かもしれません」


 簡単な治療であれば、妖怪で無くても可能だ。

 西洋には『天使ラジエルの書』に治癒護符の作り方が記載されているし、日本でも『休息万命急急如律令』と書かれた御札には咳止めの効果がある。

 だがそれらでは、大怪我を治す事は出来ない。

 それを解決できるのが、妖怪の力だ。

 俺は鎌鼬について、簡単にレクチャーした。


「第一に、式神術は、きちんと習えば誰でも使える技術です。第二に、鎌鼬は使役できる妖怪です。だから動画くらいの事なら、誰でも出来ます。でも、鎌鼬を捕まえに行って怪我をしても、自己責任でお願いします」

「その鎌鼬って、どんな怪我でも治せるのかな」

「それは流石に難しいと思います。でも西洋魔法くらいは役に立つ可能性があると思いますよ」


 鎌鼬の式神を使役できれば、足や腕の1本なら治せるようになるだろう。

 特別法でも制定して、術者に対する一切の罪を問わないでくれれば、治療術も促進されるのではないだろうか。


「鎌鼬の他には、治療が出来る妖怪って居るの?」

「………………」


 外科医と整形外科医の式神が脳裏を過ぎり、俺は目を逸らした。

 そんな様子を観察した海月さんは、やがて確信を得たようだった。


「もしかして、もう持っている?」

「………………」


 海月さんに嘘が吐けない俺は、口を一の字に結んで黙秘した。

 すると海月さんは、目を逸らした俺を暫く沈黙した後、やがて決意の表情を浮かべた。


「今日は時間が無いから、『教えて陰陽師』のコーナーはお休みです。一輝くんには、これから個別にお話しをします。エクレモンさん、メールありがとうございました」

「あうあぅ」


 かつて知能を決めるサイコロで3を出した俺は、どうしてこうなったのか理解できないまま、市場に売られる子羊のように別室へと連れて行かれた。

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