一華の剣
一台のスポーツカーを洋館の前に停車させ、男は降り立った。短髪の散切り頭に、ヨレヨレの背広姿。彼はいわゆる運び屋だった。依頼された物を、何も訊かずに届ける。報酬は高いが、仕事はどこより速く正確。それをただ淡々と、粛々と繰り返し、業界では名の知れた存在となっていた。一華は、依頼人の少女に言う。
「お届け物です」
宝剣を手渡し、彼は嫌味たらしく言う。
「大変だったよ。『どこかにある宝剣を私のもとに届けて』って、運び屋の本業とはかなり違ったからな」
「そうは言いながらも結局やってくれるあたり、プロって感じですよね」
「そりゃどうも。てか、なんでガキのくせにこんな報酬払えるんだよ」
「家が金持ちなので」
「この世界って、不平等だな」
「それで、八柄は何と言ってました」
「すでに別の誰かと契約したってよ」
「そう、ですか」
「じゃあ、この辺で」
立ち去ろうとする一華を呼び止め、彼女は言った。
「この剣は、あなたが持っててください」
「なんでだよ。高い金払って運ばせたのに」
「この剣は、あなたが持ってるのがしっくりきます。一華さん」
「え」
一瞬怪訝な表情をしたが、彼はすぐに歩き出した。
「行こうか、沖津」
少女は──遥はそう言ったが、返事が返ってくることはなかった。