死と再生
「近くのものを見通す、だったか。この距離なら見えねぇだろ」
一華は宝剣を投げつけ、貫く。光が流れ出す。剣を拾い上げた彼に八柄は言った。
「これで、五つの力が集まったわけだな」
「ああ」
「これで、よかったのか」
「いいんだ」
「そうか」
ようやくたどり着いた都は、混乱に包まれていた。驚いた様子の遥に一華は言う。
「行こうぜ。ここは危ねぇ」
「そう、ね」
「俺の近くにいた方が安全だろ」
「うん」
荒れる街を五分ほど歩き、大きな屋敷に着いた。
「お邪魔します」
中に入り、一人の老人に宝剣を渡す。
「お届け物です」
「これがあれば、わしは神になれるのだな。わしの念願も、叶うのだな」
次の瞬間、一華は老人の腕に蹴りを食らわせた。落ちた八柄をすかさず拾う。
「依頼品を渡して、仕事は終わった。ここからは俺の戦いだ」
「信じていたよ、一華」
「さあ、早くトンズラしようぜ」
立ち去ろうとしたところで、それは天井を突き破り落ちてきた。現れたのは阿修羅。男は下敷きになりぐちゃぐちゃに潰れた。
「まったく、人間って脆いよなァ」
一華が動揺を隠し問う。
「なんだ、何者だお前は」
「誰だっていいだろォ。俺は、遊びに来ただけなんだからさァ」
「俺には、お前と遊んでる暇なんかねぇよ」
「これでもかァ」
それは、一瞬の出来事だった。阿修羅が手を伸ばし遥の頭を掴む。そのままむしり取り、血が噴き出す。
「よくも、よくも遥を」
変身し、一華が斬りかかる。
「よしてくれよォ。俺は死んだら終わりなんだ、前の持ち主がつまんねェことしてくれたせいでなァ」
「誰だって、死んだら終わりだろうが。その一つしかない命をどうして簡単に奪える」
「決まってンだろォ。俺が、食う側だからだよォ」
「なんで、人の心がわからねぇんだよ」
「そんなに怒るなよォ。あれか、もしかしてあいつお前のカキタレかァ」
「死ね、ゲス野郎」
両断した。それでも、失ったものは戻らない。彼女の亡骸を見やり、涙を流す。
「なあ八柄、どうしてこうなったんだろうな」
「一華、君が変わったからだよ」
「変わって、よかったのか」
「私には分かりかねる」
「なあ、全部元に戻してくれよ」
「いいのか、戻して」
「神器なら、できるんだろ。五つの力を集めて、神になったんだろ」
「ああ」
視界が白く染まってゆき、朦朧とした意識の中で確かに聞いた。
「さよなら、一華」
白衣の男が、手に持った玉と話している。
「前の世界の僕も、なかなか味なことしてくれるね。さすがは僕だ」
「マスターって、悪知恵だけは働きますよね。小悪党って言葉がしっくりきます」
「それで、八柄剣の弱点はわかったのかい」
「はい。彼は使い手に恵まれます、故にマスターが八柄剣と契約すればいいのです」
「なるほど、なかなかいい手だ。さすが我が神器、道具は持ち主に似るっていうからね」
「そうは思いたくないですが。これ以上マスターに似るなら、契約解除も視野に入れます」
「そういえば、世界が変わった時なんで僕は消えなかったんだ」
「小悪党だからですよ」
「それはどうも」