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都にて

都は、混乱の中にあった。ゾンビが現れたのだ。そんな中、それが死返玉の仕業だと悟った三人の強者がいた。

「この眺めは、いただけないね」

「粛正しなければならない」

「なかなか手強そうだ、血が騒ぐねェ」

少年は布を身体に巻きつけ、変身する。それは鳥のような姿だった。中空を滑り、ゾンビたちの現れる源へと向かう。中心には一人の男がいた。痩せ細り病的で、その姿はゾンビのようにさえ見える。少年が空中から急降下し、一撃を加える。頭が潰れ血が飛び散る。ゾンビたちが倒れてゆく。

「これで、眺めは元に戻るかな」

が、そうはならなかった。ゾンビが一斉に立ち上がる。その中心、蘇った男は、ケラケラ笑って言い放つ。

「死者を蘇らせる、この意味がわかるかい。不死身なんだよ」

「なら、こうすれば」

変身を解き布を振るう。槍のように硬化し、男を貫いた。死返玉の力を封印し少年は立ち去ろうとするが、何者かに呼び止められた。修道服を着ていたが、その目は聖職者というにはあまりに憂いを帯びていた。

「おい、貴様」

「どうしたんだい、知らない誰かさん」

「貴様、人を殺めたな。重罪だ」

「重罪だとして、それが何?君の決めることじゃないだろ」

「私は執行人だ。神の命に従い、貴様を裁く」

彼は自らの首に包帯を巻きつけ、思いきり締め付ける。そして、変わった。それは全身が包帯に覆われた、傷だらけの天使。足りないものがあるとすれば、それは翼だろう。ゆえに、空中戦に持ち込めば勝てる。少年はそう考えていた。

「ところが、そう単純な話ではない」

巻きついた包帯が、四方八方に伸びてゆく。それは建物や電柱に巻きつき、辺りに結界を張り巡らせた。

「これで逃げられまい。地に落ちた鳥は無力だ、同情するよ。だが安心したまえ、天国へと導かれるのだからな」

「死んだ後に望みを求めて、何になるんだよ。そんなことするなら、生きてる今を良くする方がずっといい」

「君のような愚か者に、理解を求めることはしない」

「愚かでもいい。僕はこの世界が好きなんだ」

そう言って少年は変身を解く。と同時に布を硬化させ、包帯に防がれる。もう、終わりだ。それでも、逃げるわけにはいかない。彼の相棒、蜂比礼はちのひれは叫ぶ。

「逃げて、翔」

「できないよ、そんなこと」

「あなただけでも、生きて」

「蜂は大事な友達だよ、置いてなんか行けない」

「でも」

「うるさい。僕がそうするって言ったからそうするんだ」

包帯が一斉に彼を縛りつける。それでも彼は力を振り絞り、手を伸ばす。締め付けられ、身体中から血を流しながらも、どうにかこうにか蜂を掴み取った。再び、変身する。刹那、その執念に男は怯む。その一瞬の隙、針の穴を通すような結界の細い隙間をすり抜けて一撃を加えた。おぼつかない足取りで蜂比礼を突き刺す。光が流れ出してゆく。

「ああ、いい眺めだ」

「そうね」

背中からの一撃。彼の腹には大きな風穴が空き、それが致命傷であることは誰の目にも明らかだった。

「無様だ、実に無様だねェ」

少年の背後から嘲るように言う。千の腕と千の足を持ったそれは千手観音というより阿修羅といった様子で、ただ凶暴さだけを表出していた。呻き声を漏らす蜂に、少年は優しく言った。

「大丈夫、きっと生きて帰る。こいつを倒して」

布を巻きつけ、変身する。体表は蜂比礼の力に形作られているため出血は収まったが、内側までは治しきれない。ただでは死ねない、そう自分を奮い立たせ彼は飛び立つ。

「死に損ないがァ」

阿修羅が投石する。はじめは紙一重でかわしていたが、疲れからか少しづつ掠るようになっていった。少年は悟った。自分が力を使い果たしたことを。だからこそ、賭けた。蜂の力が途絶える瞬間、全体重を乗せた落下に。

「効かねェよ」

結果は失敗だった。彼は全ての手を使い、頭と胴体をガードしたのだ。それはまるで肋骨のようで、どこかグロテスクだった。最後の一撃すらいとも容易く防がれ、ぼろ切れのように転がった身体に唾を吐き阿修羅は言う。

「弱ェ、弱すぎるぜェ。あんただせェよ、最高にだせェよ」

「何故、こんなこと」

「力があるなら、使いたくなるのが人情だろォ。それに、弱者を踏み潰すのは楽しくてねェ。子供が蟻を潰して遊ぶのと同じさァ」

「蜂、ごめんな。あの景色、見せてやれなかった」

修羅は蜂比礼を無造作に引ったくり、高圧的に命令する。

「俺に力をよこせェ。お前は神器、人に使われてこそだろォ」

「お断りします」

「うちの神器が言ってたんだよォ。神器は、人間の持ちかける契約を断れないんだってなァ」

「嫌、やめて」

「やめねェよ」

「嫌なのに、逆らえない。私が神器だから」

蜂比礼を巻きつけ、変身する。阿修羅に翼が生え、さらに歪な姿になった。空中からの急降下で、前の持ち主の死体をぐちゃぐちゃに潰す。蜂比礼が泣き叫ぶ。絶望に染まる都に一華たちがたどり着くのは、もう少し先の話。

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